It is the top of the page

Link for moving within the page
To text (c)

このウェブサイトではサイトの利便性の向上のためにクッキーを利用します。サイトの閲覧を続行されるには、クッキーの使用にご同意いただきますようお願いします。
お客様のブラウザの設定によりクッキーの機能を無効にすることもできます。詳細はこちら

The main part starts here.

  1. ナレッジセンター
  2. 匠コラム

無線端末の接続数が増大する状況でも快適に無線LANを利活用するための挑戦(Dual5GHz帯モード)

匠コラム
ネットワーク

ビジネス推進本部 応用技術部
ENT ITチーム
松戸 孝、中野 清隆

本コラムでは、弊社の社内無線LAN環境に、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードを実装したアンテナ内蔵のシスコシステムズ社製無線LANアクセスポイントAP3802Iを採用した実験的挑戦!のありのままの状況をご紹介します。
無線端末や無線LANアクセスポイントの数が増加した高密度・稠密な状況でも無線LANを快適に利活用するための大きな改善策は、2019年頃に策定完了予定であるIEEE802.11ax規約に期待するところが大ですが、現時点で少しでも改善に挑戦する場合には、アンテナ内蔵の同社製AP2802IとAP3802Iに実装されたDual5GHz帯(小セルon大セル)モードで運用することがお勧めです。
なお、「小セルon大セル」という表現は、直感的に理解しやすいように筆者らで付けた呼び方です。

(1)弊社の社内無線LAN環境を使った実験的挑戦!

企業等の屋内事務所環境の無線LANを快適に利活用するための対処の基本は、1台の無線LANアクセスポイント(以下APと記載します)に実装された1つの周波数帯の無線部あたりに収容する無線LANクライアント端末(以下無線端末と記載します)の数を、極力、少なくすることです。有線LANで伝送されているリッチコンテンツ(テキストだけでなく動画等のデータ容量が大きいコンテンツ)が,そのまま無線LANでも伝送される状況なので、上記の対処の基本が、単純明快、効果的、かつ現実的です。弊社の社内無線LANの導入に際しても、Virtual Desktop Infrastructure(以下VDIと記載します)[1]上で動作するコンテンツの無線LAN伝送における体感状況を検証評価した結果、1台のAPに実装された1つの5GHz帯の無線部あたりに収容する無線端末の最大数は20台程度が目安とされました[2]。
弊社の事務室フロア内は、少人数用の会議室が一部に存在する他は、大半のエリアは、フリーアドレス(各社員の座席は固定されていなくて、空席をどこでも自由に選択して業務遂行する形態)の座席列です[3]。フリーアドレス座席には広い画面を具備したVDI専用端末(有線LAN接続)を各社員で共用するエリアの他に、机等と椅子だけが配置されていてノート型PC等の無線端末で無線LAN接続するエリアがあります[4]。無線端末は、私物端末の業務利用(Bring Your Own Device、以下BYODと記載します)が社内制度として推奨されたことや、より高速伝送可能なIEEE802.11ac規約に対応したことで、その数が増加する傾向にあり、最近は,1台のAPに実装された1つの5GHz帯の無線部あたりに収容する無線端末の最大数が上記の目安の約1.5倍以上である30台を超えることも、観測される状況になってきました。そして、この状況に伴うと推測される「無線LAN利活用時における各種コンテンツの動作の体感が悪い」という無線端末利活用者の声を聞く場合も出てきました。
無線端末やAPの数が増加した高密度・稠密な状況でも無線LANを快適に利活用するための大きな改善策は,2019年頃に策定完了予定であるIEEE802.11ax規約に期待するところが大ですが[5],[6],[7],現時点で少しでも改善に挑戦する場合には、アンテナ内蔵のシスコシステムズ社製AP2802IとAP3802Iに実装されたDual5GHz帯(小セルon大セル)モードで運用することがお勧めです。弊社の社内無線LANでも、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードを実装したAP3802Iに変更を開始しました(変更前は、2.4GHz帯と5GHz帯モード運用するアンテナ内蔵の同社製CAP3702Iを利活用していました)。

(2)Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードとは?

Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードとは、高周波回路の実装技術の進化によってシスコシステムズ社が実現した1台のAP本体内に5GHz帯の2つの別の周波数チャネルの無線部を同時に動作できる機能のことです[8]。Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードを実装したAPを屋内天井面(無線端末からAPが見える側)に設置した場合、1台のAPで、2つの異なる5GHz帯の無線LANサービスエリアを形成できます[9]。即ち、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードにおける第1番目の無線部は、内蔵アンテナ(利得6dBi,垂直面内の半値幅90度,水平面内無指向性)によって、APの直下周辺のやや狭い範囲(小セル,マイクロセル)を5GHz帯の無線LANのサービスエリアとして形成できます。
一方、同モードにおける第2番目の無線部は、別の内蔵アンテナ(利得5dBi,垂直面内の半値幅約164度(関連記事[9]からの筆者らによる読み取り値)、水平面内無指向性)によって、APの直下から周辺のやや広い範囲(大セル,マクロセル)を5GHz帯の別の周波数チャネルを利用してサービスエリアとして形成できます。サービスエリアとしては、小セルが大セルにアドオンした状況になっています。それゆえ、直感的に理解しやすいように、筆者らは、小セルon大セルと呼ぶようにしました。図1は、その状況のイメージを示しています。従って、複数の無線端末を2つの異なるサービスエリア(小セルまたは大セル)へ空間的に分離して収容できる仕組みがDual5GHz帯(小セルon大セル)モードを実装したAPでは動作しています。

図1. Dual5GHz帯(小セルon大セル)モードを実装したAPが
形成する小セル(実線)と大セル(一点鎖線)のサービスエリアのイメージ

また、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用では、次の仕様が定められています[10]。
①小セル用と大セル用の2つの無線部が運用する周波数チャネルは、100MHz以上離れるように、無線LANコントローラから自動的に制御されます。
②小セルの無線部の送信電力は最低値に固定設定されるように、無線LANコントローラから自動的に制御されます。
③小セルと大セルは、同じSSIDを使って運用されます。異なるSSIDを使用できません。

IEEE802.11規約に基づく無線LANとしては、最終的に、親局であるAPの小セルまたは大セルのどちらへ接続するかの判断は子局である無線端末に実装された制御仕様に依存します。それゆえ、親局であるAPでは、子局である無線端末の挙動について、ありのままに対応するしかないのですが、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード実装したAP2802IやAP3802Iを採用する決断をするためには、次の2つの性能が本当のところどうなのか?を把握したくなりましょう。
(性能1)1台のAP本体内で、2つの無線部が5GHz帯で同時に独立して動作してもスループットは、適切に確保されるのか?
(性能2)複数の無線端末が、小セルと大セルに、うまく分離して接続できるのか?

そこで、上記の2つの性能を確認するために、弊社で実施した実験結果を以下にご紹介いたします。

(3)1台のAP本体内で、2つの無線部が5GHz帯で同時に独立して動作した場合のスループットを確認した実験結果

図2(a)は、従来の運用とDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用における上り回線のスループットの比較の実験結果です。また、図2(b)は、同様に下り回線のスループットの比較の実験結果です。従来の運用は、AP2802I の1つの無線部(5GHz帯Ch36)だけを動作させて無線端末(Windows7、11n対応、Lenovo/Intel、WPA2-802.1X)1台との間で上下回線においてスループットを測定しました。一方、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用は、AP2802I の2つの無線部(5GHz帯Ch36とCh140)を同時に独立して動作させて、無線端末(上記と同)が小セル接続1台と大セル接続1台の状況において、各セルの上下回線においてスループットを測定しました。

図2(a). 従来の運用とDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用における上り回線のスループットの比較。従来の運用: AP2802I が1台と無線端末(Windows7, 11n対応, Lenovo/Intel, WPA2-802.1X)が1台。 Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用:AP2802Iが1台と無線端末(同)が小セル接続1台と大セル接続1台。 AP2802Iと各無線端末間の距離は2mで、見通しあり。
図2(b). 従来の運用とDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用における下り回線のスループットの比較。測定環境は図2(a)と同じ。

図2(a)と同(b)からわかるように、Dual5GHz帯の2つの無線部が同時に独立して動作して出せるスループットは、5GHz帯の1つの無線部だけが動作する従来の運用におけるスループットより、約1.9倍になっています。1台のAP2802IでDual5GHz帯の2つの無線部が同時に独立して動作しても、スループットに大きな劣化は発生していないことがわかります。
これはAP2802IとAP3802Iでは、CPUとDRAMをAP本体だけでなく、各無線部にも別途実装している効果が出ているためと考えられます[11], [12]。また、2つの無線部が運用する周波数チャネルは100MHz以上離れるように、さらに、小セルの無線部の送信電力は最低値に固定設定されるように、無線LANコントローラから自動的に制御されているので、1台のAP本体内で近接して存在する5GHz帯の2つの無線部間であっても、お互いの電波干渉によるスループットの低下は回避できていると理解できます[10]。
Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード実装した1台のAP2802IやAP3802Iにおいて、2つの無線部が5GHz帯で同時に独立して動作してもスループットは大きく劣化しないことがわかりましたが、もしも、多くの無線端末が、どちらか片方の1つの無線部に集中して接続した場合には、その無線部における通信では、「無線LAN利活用時における各種コンテンツの動作の体感が悪い」という状況が発生しやすくなると推測されます。Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用では、1台のAP2802IやAP3802Iにおいて、5GHz帯で同時に2つの無線部(小セルと大セル)が独立して効果的に動作できるのですから、複数の無線端末が小セルと大セルに、うまく分離して接続できることが望まれます。
そこで、次に、弊社の社内無線LANにおけるDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用から得られた測定データを解析して、複数の無線端末が、小セルと大セルに、うまく分離して接続できるのか?を明らかにしました。先に述べたように、IEEE802.11規約に基づく無線LANとしては、最終的に、親局であるAPの小セルまたは大セルのどちらへ接続するかの判断は子局である無線端末に実装された制御仕様に依存します。それゆえ、親局であるAPでは、子局である無線端末の挙動について、ありのままに対応するしかないのですが、弊社の社内無線LANにおけるDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用のありのままの状況を次にお見せします。

(4)Dual5GHz帯の2つのサービスエリア(小セルと大セル)に複数の無線端末がうまく分離して接続する状況を確認した実験結果

屋内事務所環境で日常的に運用し、多くの社員が利活用している弊社の社内無線LANは、業務遂行のための重要な社内ネットワークシステムであると同時に、お客様にご参考にしていただくための、生きた実験環境でもあります。従って、この生きた実験環境、つまり、弊社の社内無線LANにおけるDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用から得られた測定データは、とても貴重な実験データです。この実験データを解析した結果を図3に示します。

図3. Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用する10台の
AP3802Iにおいて、大セルと小セルに接続した無線端末数の状況。
約3か月間の測定期間(平日昼間に、原則、11時頃と14時頃の2回
の測定)、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんま
り機能)はON(動作)。

図3は、屋内事務所環境の、あるフロアにおいて、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用している10台のAP3802Iに接続した無線端末数の状況を、約3か月間に渡って測定した結果です(より詳細には、9台のAP3802Iが約3か月間の、1台のAP3802Iが後半の約1か月間の各測定期間です)。平日昼間に、原則、11時頃と14時頃の2回の測定を実施しました(業務の都合で測定できない日時もあり)。弊社の場合、興味深いことに、平日の概ね11時頃と概ね14時頃の1日に2回、全社的にみて無線端末の接続数が極大になる傾向があり、そのタイミングで測定しました。フロアの広さは約2800平方mであり、そこに、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用している10台のAP3802Iと、その他に、2.4GHz帯と5GHz帯モード運用している12台のAP3802Iが天井面(無線端末からAPが見える側)に設置されています。天井面と床面の間の距離は、2.95mです。
図3の測定期間におけるそのフロアでの5GHz帯の無線端末数の平均値は333.9、標準偏差は32.0でした。なお、2.4GHz帯の状況は、無線端末数の平均値は28.1、標準偏差は4.5であり、5GHz帯の無線LANの利活用が進んでいます。
5GHz帯の各APでの大セルと小セルに割り当てられる周波数チャネルは、上記項目(3)で述べたように100MHz以上離す必要があるので、無線LANに割り当てられた5GHzの周波数帯(W52、W53、及びW56)に存在する合計19波の周波数チャネルから無線LANコントローラが適切な周波数チャネルを自動的に選択しています。
無線端末は、上記項目(1)で述べたように、社内制度としてBYODが推奨されたので、様々な種類の端末(メーカの違い、OSの違い、端末形態(ノート型PCやスマートフォン)の違い等)が混在しています。それゆえ、無線端末における無線LANの性能(送信電力、受信感度、アンテナ利得、IEEE802.11規約の世代、及び、どのAPへ接続するかの制御仕様等)も様々な状況が混在しています。また、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用するAPのサービスエリア内で、無線端末がどのような位置に分布しているかも様々な状況になっていると考えられます。図3は、そのような様々な状況にある無線端末に対して、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用するAPがありのままに対応した事実の測定データの解析結果ですので、とても貴重な情報です。
図3では、次のように測定データが表示されています。上記の測定タイミングで、例えば、あるDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用している1台のAP3802Iにおいて、大セルに10台の無線端末が接続し、また、同時に、小セルに5台の無線端末が接続していた場合には、図3の横軸が10と縦軸が5の交点に、赤色の○印が表示されます。その他のAP3802Iの大セルと小セルへの無線端末の接続数の状況も同様に表示されています。図3に表示されている測定データ数(赤色の○印の数)は839個ですが、○印が濃い赤色ほど、その状況の発生頻度が多いことを意味します。
図3からは、概ね、次の傾向を把握できます。
①大セルへの無線端末の接続数が多くなる状況では、小セルでも無線端末がそれなりの数で接続している。
②小セルへの無線端末の接続数が多くなる状況では、大セルでも無線端末がそれなりの数で接続している。
③大セルへの無線端末の接続数がそこそこの状況では、小セルでも無線端末の接続数がそこそこの状況になっている。

親局であるDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用しているAP3802Iが、子局である無線端末の挙動に対して、ありのままに対応した結果が図3ですが、上記の傾向から、複数の無線端末は、小セルと大セルに概ねうまく分離して接続できていて、それら両方のセルを概ねうまく利活用できていると理解できます。なお、図3に表示された測定データから、平均値と標準偏差は次のように計算されました。
大セルに接続した無線端末数の平均値=11.3
同標準偏差= 4.6
小セルに接続した無線端末数の平均値= 4.4
同標準偏差= 2.9
ここで、AP3802Iがありのままに対応する際に、シスコシステムズ社による1つの技であるProbe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)が動作(ON)していることも、複数の無線端末が、小セルと大セルに、概ねうまく分離して接続できていることに貢献していると考えられます。
なお、「小セル反応、大セル瞬間だんまり機能」という表現は、直感的に理解しやすいように筆者らで付けた呼び方です。

(5)Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用に貢献しているProbe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)

通常、無線端末は、あるサービスエリア内で初めてAPに接続する場合には、接続先のAPを探すための信号(Probe)を送信して、各APからの反応(Probe Response)を受信して、最適な接続先のAPを決めることが多いです。ところが、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用するAP2802IやAP3802Iでは、無線端末からのProbeを受信した場合に、APの小セルの無線部だけが反応、つまりProbe Responseを送信してその存在を示し、一方、APの大セルの無線部は瞬間的にだんまりをして、Probe Responseを送信しないでその存在を隠す機能が動作します。これをProbe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)と言います。
先に述べたように、IEEE802.11規約に基づく無線LANとしては、親局であるAPの小セルまたは大セルのどちらへ接続するかの判断は子局である無線端末に実装された制御仕様に依存しますが、AP2802IやAP3802IにおいてProbe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)が動作することは、複数の無線端末が、小セルと大セルに、うまく分離して接続することに貢献していると考えられます。
なお、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)は、初期設定では、OFF(停止)なので、上記項目(4)の場合には、意図的にON(動作)しています。
そうしますと、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)が初期設定のOFF(停止)の状況では、どうなるのかを知りたくなると思いますが、その状況での実験結果を、図4に示します。

図4. Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用する9台の
AP3802Iにおいて、大セルと小セルに接続した無線端末数の状況。
約5か月間の測定期間(平日昼間に、原則、11時頃と14時頃の
2回の測定)、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間
だんまり機能)はOFF(停止)。

図4は、図3の結果を得る以前に、約5か月間に渡り(なお、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用しているAP3802Iは、9台)、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)が初期設定のOFF(停止)の状況で測定したデータの解析結果です。測定実験の状況や図の見方は、図3と同様です。図4の測定期間におけるそのフロアでの5GHz帯の無線端末数の平均値は285.8、標準偏差は29.6でした。なお、2.4GHz帯の状況は、無線端末数の平均値は31.3、標準偏差は5.3であり、本測定期間でも5GHz帯の無線LANの利活用が進んでいます。
図4に表示されている測定データ数(赤色の○印の数)は1575個ですが、図3とは異なって、概ね、次の傾向を把握できます。
①大セルへの無線端末の接続数が多くなる状況が、図4では、図3の場合より多い。
②小セルへの無線端末の接続数が多くなる状況が、図4では、図3の場合より少ない。
③全般的に、無線端末は、小セルより大セルへ接続している。

図4と図3を比較すると、Dual5GHz帯の2つのサービスエリア(小セルと大セル)に複数の無線端末が概ねうまく分離して接続し、それら両方のセルを概ねうまく利活用する状況は、図3のほうが望ましいと理解できます。
そして、図4に表示された測定データから、平均値と標準偏差は次のように計算されました。
大セルに接続した無線端末数の平均値=14.5
同標準偏差= 5.4
小セルに接続した無線端末数の平均値= 1.9
同標準偏差= 1.9
ここで、各セルへ接続する無線端末数の平均値を比較すると、図3の場合は、小セルの平均値は大セルのそれの約39%ですが、一方、図4の場合は、小セルの平均値は大セルのそれの約13%に留まっています。図4より図3の場合のほうが、大セルと小セルの両方のセルをうまく利活用できていると理解できます。
従って、Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用するAP2802IやAP3802Iにおいては、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)はON(動作)することが必須と判断できます。

(6)Dual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用における、小セルの利点

AP2802IやAP3802IにおけるDual5GHz帯モード運用は、小セルon大セルのアーキテクチャであり、大セルon大セルではありません。
1台のAPに実装された2つの5GHz帯の無線部を両方とも大セルで運用するのではなく、片方の無線部を小セルで運用する利点は、その小セルに割り当てられた周波数チャネルと同じ周波数チャネルを周辺の他のAPや無線端末において再利用することに貢献できることです。小セルは、サービスエリア内の無線端末との安定した通信を確保しながらも、上記項目(2)で述べたようにそのアンテナの特性によって、周辺に電波を不用意にまき散らさないように、また反対に、周辺から電波を不用意に受けないように工夫されています。
従って、自社で運用中の他APとその配下の無線端末や、周辺に存在する他社が運用中のAPとその配下の無線端末へ、小セルと同じ周波数チャネルの電波の干渉(混信)を与えにくくできます。また反対に、自社で運用中の他APとその配下の無線端末や、周辺に存在する他社が運用中のAPとその配下の無線端末から、小セルと同じ周波数チャネルの電波の干渉(混信)を受けにくくできます。
無線LANは免許不要の無線局として製品を買えば、だれでも自由に利用できますが、一方、自由に使える周波数チャネルの数は電波法で制限されていて少なく、かつ、その周波数チャネルは自分以外の周辺の他の無線LANや他の無線局と共用です。それゆえ、少ない周波数チャネルを有効的に再利用することに貢献できる小セルを、小セルon大セルのアーキテクチャとしてDual5GHz帯モード運用に採用することは、とても望ましいと考えられます。

まとめ

無線端末の接続数が増大する状況でも快適に無線LANを利活用するための挑戦を、生きた実験環境である弊社の社内無線LANで実施しました。
アンテナ内蔵のシスコシステムズ社製AP2802IとAP3802Iに実装されたDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用は、1台のAP本体内で、2つの無線部が5GHz帯で同時に独立して動作してもスループットは、適切に確保されること、また、Probe Suppression機能(小セル反応、大セル瞬間だんまり機能)をON(動作)することによって、複数の無線端末が、小セルと大セルに、概ねうまく分離して接続でき、それら両方のセルを概ねうまく利活用できることが、実験結果から明らかになりました。
小セルon大セルのアーキテクチャは、免許不要の無線局である無線LANの宿命とも言える、少ない、かつ、自分以外の周辺の他の無線LANや他の無線局と共用する必要がある周波数チャネルを有効的に再利用することにも、貢献できます。
アンテナ内蔵のシスコシステムズ社製AP2802IとAP3802Iに実装されたDual5GHz帯(小セルon大セル)モード運用は、無線端末の接続数が増大する状況でも快適に無線LANを利活用するための挑戦として、お勧めできます。

関連記事

執筆者プロフィール

松戸 孝
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部
応用技術部 ENT_ITチーム所属

無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事

  • 第一級無線技術士
  • 第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞
  • 第2回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 特別賞
  • 第3回 シスコ 論文コンテスト 特別功労賞

中野 清隆
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部
応用技術部 ENT_ITチーム マネージャー

入社以来、無線LANまたはエンタープライズ系のマネージメント製品の製品担当SEとして、
製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事
・第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞

Webからのお問い合わせはこちらから

ナレッジセンターを検索する

カテゴリーで検索

タグで検索