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  2. 匠コラム

ローカル5Gで使う28GHz帯は、4.7GHz帯より見通し確保に注意が必要

~第1フレネルゾーンの大きさを計算して見通し確保の目安を知る~

匠コラム
設計構築
ネットワーク

ビジネス開発本部 第1応用技術部
第1チーム
松戸 孝

はじめに

無線LAN(WiFi)は、免許不要の無線局(2.4GHz帯と5GHz帯)であり、製品(アクセスポイントやクライアント端末)を入手して、だれでも自由に自営で導入、運用できることが最大の特徴です。一方、最近、自営の新しい無線通信システムとしてローカル5Gの宣伝を聞くことも多くなりつつあります[1],[2],[3]。ローカル5Gは、無線LAN(WiFi)とは異なり、免許ありの無線局(28GHz帯、将来的に4.7GHz帯も制度化予定[4])です。ローカル5Gを自営で導入、運用する場合は、入手した製品(基地局や端末局)を使った免許あり無線局を開設するための本格的な対応(無線従事者免許の有資格者の配置、申請や製品の検査の手続き、申請費用や電波利用料の納付等)を自ら実施して総務大臣から免許を受けることが必須です。

確実で安定した無線通信を実施するための大原則は、干渉や混信のない「きれいな周波数」を確保することです。しかし、電波の周波数は土地と同様に有限であり、空いている周波数が不足の現状では、自営のための無線通信システムであるローカル5Gも無線LAN(WiFi)も、自分以外の他の方が運用する無線局といっしょに周波数を共用することになるので[5]、お互いに干渉や混信を回避するための配慮をしながら「ありのままの<汚れ>状況の周波数」を承知して運用することになります。

そして、「きれいな周波数」であっても、「ありのままの<汚れ>状況の周波数」であっても、それら周波数を使った電波を送受信する際に大切なのは、送信アンテナと受信アンテナ間の電波の伝わる空間を遮らないで、「きれいない空間」を確保すること、つまり見通しを確保して、安定した直接波が伝搬するように配慮することです。この送受信アンテナ間の見通しを確保することの目安となる定量的な表現が、第1フレネルゾーンです[6],[7],[8],[9]

見通し確保の定量的表現=第1フレネルゾーン

第1フレネルゾーンとは、送信アンテナと受信アンテナ間の見通し確保の目安を定量的に表現できる有用な考え方です。送信アンテナから空間に放射された電波が受信アンテナに到着するまでの通路、つまり送受信アンテナ間を結ぶ電波通路は、送受信アンテナ間を線分で結ぶ最短経路(見通し線)を中心にして、途中で、幅(膨らみ)を持った空間(送受信アンテナの各位置を焦点とし、見通し線を回転軸とする回転楕円体)になります。この立体的な電波通路の幅(膨らみ)を持った空間をフレネルゾーンと呼び、電波のエネルギーの大部分が存在している最も内側の領域の立体的な電波通路の幅(膨らみ)を第1フレネルゾーンと呼びます(図1)。確実で安定した無線通信を実施するためには、この第1フレネルゾーン内には、電波を遮る障害物は入らないように、配慮します。この配慮が、送受信アンテナ間の見通しを確保するということです。

理論的には、もしも、第1フレネルゾーンの半分が遮蔽されると、見通しが確保されている状況に比べて受信電力は6dB低下するそうです[7],[8]。6dBの低下とは、真数では約4分の1に低下ということです[10]。また、もしも、第1フレネルゾーンがすべて遮蔽されると、見通しが確保されている状況に比べて受信電力は約16dB低下(真数では約40分の1に低下)するとのことです[7]

なお、第1フレネルゾーンの空間の形を、樽の形[11]や、さつま芋の形と表現する人もいます。第1フレネルゾーンの外側には、それら樽の形やさつま芋の形が順次少しずつ膨らんでいった第2、第3、・・・第n のフレネルゾーンも存在しますが、上述のように、確実で安定した無線通信を実施するためには、第1フレネルゾーンを意識すれば大丈夫です[6],[7],[8],[9]

図1 見通し確保の定量的表現=第1フレネルゾーン
  送受信アンテナの各位置を焦点とし、送受信アン
   テナ間を線分で結ぶ最短経路(見通し線)を回転軸
とする回転楕円体のうち、最も内側の領域。

第1フレネルゾーンの幅(膨らみ)の断面の半径を計算=見通し確保の目安を知る

第1フレネルゾーンの幅(膨らみ)の断面は円形となり、その半径は式(1)で計算できます。第1フレネルゾーンの断面の幅(膨らみ)は、送受信アンテナ間の中間の距離で最大になります。また、電波の波長が大きくなる、即ち周波数が低いほど、第1フレネルゾーンの断面の幅(膨らみ)は、大きくなります。反対に、電波の波長が小さくなる、即ち周波数が高いほど、第1フレネルゾーンの断面の幅(膨らみ)は、小さくなります。

表1には、式(1)を使って計算した代表的な周波数における第1フレネルゾーンの半径を具体的に示しています。無線LAN(Wi-Fi)やローカル5Gの送受信アンテナが屋内の距離20m離れていると想定した場合に、その中間地点の距離10mでの第1フレネルゾーンの半径です(図1のd1=d2=10mの場合)。表1から、周波数が高いほど、第1フレネルゾーンの半径が小さいことがわかります。つまり、周波数が高いほど、人体や身の回りの各種の物体の大きさが、第1フレネルゾーンをバッサリと一気にすべて遮ってしまう可能性が高くなります。従って、周波数が高いほど、確実で安定した無線通信を実施するためには、送信アンテナと受信アンテナ間の見通し確保には意識的に注意する必要があります。例えば、屋内通信環境において送受信アンテナ間の見通しを確保するためには、無線LAN(Wi-Fi)のアクセスポイントやローカル5Gの基地局を一定のサービスエリア内において複数設置したり、無線端末を利用する人の協力(User Cooperation:利用者に通信状態の良くなる方向に向きを変えてもらう等)を促すこと[12]が考えられます。

新しく登場している自営の免許あり無線局であるローカル5Gの運用周波数帯は、28GHz帯または、4.7GHz帯(制度化予定)ですが、表1から理解できるように、4.7GHz帯(制度化予定)のほうが、第1フレネルゾーンが大きいので、見通し確保の視点では、28GHz帯よりは扱いやすいと言えましょう。

なお、0.92GHz帯で運用する無線システムの例として表1に示したIEEE802.11ahは、現在、周波数割り当ての可能性を協議中の無線LANです[13]。IEEE802.11ahは、1GHz以下の免許不要の周波数帯で、例えば、自営のIoT無線ネットワークを手軽に構築できることを期待されています。

表1 代表的な周波数における第1フレネルゾーンの半径の計算結果(図1のd1=d2=10mの場合)

周波数帯[GHz] 運用する無線システムの例 第1フレネルゾーンの半径[m] 左記半径を筆者の人体と比較
28 ローカル5G 0.231 手の中指の先から手首までの長さ相当
5 Wi-Fi6(IEEE802.11ax) 0.548 手の中指の先から力こぶまでの長さ相当
4.7 ローカル5G(予定) 0.565 同上
2.4 Wi-Fi6(IEEE802.11ax) 0.791 腕が水平時、手の中指の先から背骨までの長さ相当
0.92 IEEE802.11ah(協議中) 1.277 起立時、足の裏から胸の高さまでの長さ相当

まとめ

確実で安定した無線通信を実施するための基本である送受信アンテナ間の見通しを確保することの目安が、第1フレネルゾーンの大きさを計算することによって定量的に理解できました。

この第1フレネルゾーン内には、電波を遮る障害物は入らないように配慮することが、送受信アンテナ間の見通しを確保するということです。

電波の波長が小さくなる、即ち周波数が高いほど、第1フレネルゾーンの断面の幅(膨らみ)は、小さくなるので、新しく登場している自営の免許あり無線局であるローカル5Gが使う28GHz帯は、4.7GHz帯より見通し確保に注意が必要です。

付録)第1フレネルゾーンが、無線従事者国家試験の問題に登場している例

新しく登場している自営の免許あり無線局であるローカル5Gを運用するためには、無線従事者免許の有資格者を自ら配置することが必須です。無線従事者免許を取得するためには、無線従事者国家試験に合格する必要がありますが、その試験問題に登場している第1フレネルゾーンの例を、次に示します。無線従事者国家試験の問題と解答は、それ自身がとても良い学習教材になっていて[14]、知見を増やすためにとても有用です。

なお、下記のURLは、2020年7月22日に参照したものです。新しい試験期の問題が公開になると、古い試験期の問題は、順次、見られなくなる様子ですので、ご注意ください。

試験問題と解答, 日本無線協会
http://www.nichimu.or.jp/kshiken/siken.html(参照 2020年7月22日)

(第一級陸上特殊無線技士)
令和2年2月期 工学A の[20]
令和2年2月期 工学B の[20]

(第一級陸上無線技術士)
令和2年1月期 無線工学B の[A-15]

なお、本の既出問題解答集は、次のURLのオンラインショップから有料で入手できます。
情報通信振興会
https://www.dsk.or.jp/eshop/products/list.php?category_id=35

参考資料

[1] 総務省,「ローカル5G導入に向けたガイドライン」, 別紙2,
https://www.soumu.go.jp/main_content/000659870.pdf ,
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000001_00002.html ,2019年12月17日, 参照 July.22, 2020.

[2] 第5世代モバイル推進フォーラム 地域利用推進委員会, 「ローカル5G免許申請支援マニュアル 1.2版 2020年4月1日」, https://5gmf.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/local-5g-manual1-2_2.pdf,
https://5gmf.jp/case/20191224175957/ ,2019年12月24日, 参照 July.22, 2020.

[3]無線LANビジネス推進連絡会, "【ニュース&トピックス】ビジネス情報:ローカル5G 登場のインパクト", Wi-Biz通信Vol.44, <https://www.wlan-business.org/archives/23309>, 2019年6月17日, 参照 July.22, 2020.

[4]総務省,"「地域ニーズや個別ニーズに応じて様々な主体が利用可能な第5世代移動通信システム(ローカル5G)の技術的条件等」に関する情報通信審議会からの一部答申",
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000452.html, 2020年7月14日, 参照 July.22, 2020.

[5]松戸孝, "ローカル5GもWiFiと同じ、皆で周波数共用だよ ~とある技術者から友人A君への手紙~", Net One Blog,ネットワンシステムズ, https://www.netone.co.jp/media/detail/20200710-1/ ,2020年7月10日, 参照 July.22, 2020.

[6]進士昌明, "無線通信の電波伝搬, 第2章伝搬の法則",電子情報通信学会, https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784885521027/,コロナ社,1993年6月1日(2版), 参照 July.22, 2020.

[7]高田潤一, "(第1回)電波伝搬の基礎理論" ,, 映像情報メディア学会誌, Vol.70, No.1,2016, https://www.ite.or.jp/contents/tech_guide/tech_guide201601_201701.pdf, 参照 July.22, 2020.

[8]藤田昇, "特集 無線LANのしくみとシステム構築方法, 第5章 電波伝搬の基礎知識",RFワールド No.3, https://www.rf-world.jp/bn/RFW03/RFW03A.shtml, CQ出版社, 2008年9月1日, 参照 July.22, 2020.

[9]長谷良裕, "特集 今さらきけない電波伝搬のABC, 第2章 遮蔽物の影響",RFワールド No.9, https://www.rf-world.jp/bn/RFW09/RFW09A.htm, CQ出版社, 2010年3月1日, 参照 July.22, 2020.

[10]松戸孝, "第4回 無線LANの製品や技術の理解を助けてくれる便利な単位「dB(デシベル)」 ~実験的検討に挑戦!どこのメーカも具体的に示していない無線LAN製品におけるダイバーシチ受信の性能状況 その4~", 匠コラム,ネットワンシステムズ, https://www.netone.co.jp/knowledge-center/blog-column/knowledge_takumi_064/index.html ,2016年1月12日, 参照 July.22, 2020.

[11]丸田竜一, "電波で遠くへ配線する-無線LANブリッジの注意点と目安", 匠コラム, ネットワンシステムズ, https://www.netone.co.jp/knowledge-center/blog-column/knowledge_takumi_097/, 2016年8月19日, 参照 July.22, 2020.

[12]唐沢好男, "移動体・パーソナル衛星通信の電波伝搬環境と高稼働率化技術", 季刊 国際衛星通信時代, No.41, 1996年9月15日, https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2236341?tocOpened=1, 国立国会図書館デジタルコレクション, 参照 July.22, 2020.

[13]小林忠男, "小林会長の802.11ah講座 ~「IoTにおけるWi-Fiの役割と802.11ah」~", 802.11ah推進協議会, https://www.11ahpc.org/news/20191007/index.html, 2019年10月28日, 参照 July.22, 2020.

[14]平山浩一 et.al., "学生がいきいき学び考える電磁気学[Ⅲ・完]―電磁気学教育の現状・問題・将来―, 2.スクリーンと黒板を併用した電磁気学演習教育の取組み", 電子情報通信学会誌, Vol.103, No.3, 2020, https://app.journal.ieice.org/trial/103_3/k103_3_334/index.html, 参照 July.22, 2020.

執筆者プロフィール

松戸 孝
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部
第1応用技術部 第1チーム所属

無線LANの技術担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事
・第一級無線技術士
・第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞
・第2回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 特別賞
・第3回 シスコ 論文コンテスト 特別功労賞
・第4回 シスコ テクノロジーコンテスト 審査員特別賞

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