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ローカル5GもWiFiと同じ、皆で周波数共用だよ ~とある技術者から友人A君への手紙~

目次

拝啓
A君、その後、お元気ですか? 「映画やTVドラマの中のお話だろう」[1]と考えていたパンデミックが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック[2]として、まさか、自分の人生の「今でしょ!」に発生して、現在進行形とは、驚きですよね。「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られた感がある昨今です。

先日A君がくれた電話の中で言っていた「新登場の無線システムであるローカル5Gの宣伝を見聞きして思った、もやもや感」について、私なりの解釈(と言うか、割り切り感覚、心構え、対処案と言ったほうが良いかもですが)をお伝えしました。そのときの電話でも述べたけれど、無線LAN(WiFi)の技術分野を仕事にしている私も、A君と同様の「もやもや感」があって、頭の中では、「もやもや感、ひとまず、横に置いておこう」で過ごして来ていました。でも、「ボーっと生きてんじゃねーよ!」の昨今ゆえ、今日この手紙で、お伝えしてみた次第です。

はじめに、再確認ですが、新登場の無線システムであるローカル5Gとは、端的には、次のように理解できるよね[3],[4],[5]
(再確認1)携帯電話事業者による全国向けの第5世代移動通信システム(以下、キャリア5Gと記載するね)とは別に、企業等が限定されたエリアで、周波数の割当を受けて自ら運用できる5Gシステム(あるいは無線局免許制度)である。
(再確認2)企業等が無線従事者免許の有資格者を配置して、総務大臣から免許を受けて5Gの無線局(基地局や端末局)を運用できる。ただし、自社の施設内など限られたエリアでしか使えない。
(再確認3)2019年12月の電波法関連法令の制度改正により、28GHz帯の一部の帯域(28.2から28.3GHz)においてローカル5Gの利用が可能になった。2020年6月現在、使用周波数帯の拡張(4.7GHz帯(4.6から4.9GHz)と28GHz帯(28.3から29.1GHz))も協議されている[6]

つまり、無線LAN(WiFi)は、免許不要の無線局(2.4GHz帯と5GHz帯)であり、製品(アクセスポイントやクライアント端末)を入手して、だれでも自由に自営で導入、運用できるけれど、一方、ローカル5Gを自営で導入、運用する場合は、入手した製品(基地局や端末局)を使った免許あり無線局を開設するための本格的な対応(有資格者の配置、申請や製品の検査の手続き、申請費用や電波利用料の納付等)[7]を自ら実施して総務大臣から免許を受けることが必須ですね。

それで、ローカル5Gの宣伝で、ときどき見聞きするのが、「ローカル5Gは免許を受けた無線局だけが使える専用の周波数帯(ライセンスバンド)を使うから、皆で周波数帯(2.4GHz帯と5GHz帯)を共用する免許不要の無線局の無線LAN(WiFi)より通信が安定する」という主旨の表現です。この表現を見聞きして、A君も私も、「もやもや感」を抱いた訳だよね。その後、いろいろと考えてみた結果、「もやもや感」の原因は、その主旨の表現は、言葉足らずになっているからでは? と気がついたところです。つまり、ローカル5Gは免許を受けた無線局だけが使える専用の周波数帯(ライセンスバンド)で運用するけれど、その専用の周波数帯の中では、自分以外の周辺で他の方が運用するローカル5Gの無線局と同じ周波数をいっしょに使う、共用するということも[8]述べてもらえていれば、「もやもや感」は、少しは解消しそうです。

そうそう、キャリア5Gも、当然に免許あり無線局によって携帯電話事業者の各社が5Gサービスを実施するけれど、携帯電話事業者の各社別に、周波数は分かれて割当られていて、携帯電話事業者の各社同士で周波数共用はしないということも[8]改めて認識したところです。

自分以外の他の方が運用する無線局といっしょに周波数を共用するという視点では、免許あり無線局のローカル5Gも、免許不要の無線局の無線LAN(WiFi)も同じだから、周波数共用における干渉や混信による通信への悪影響が発生する可能性は、ローカル5Gも無線LAN(WiFi)と同様にありえると考えておいたほうが良さそうと思ったです。

もちろん、ローカル5Gの免許が付与される審査条件の中には、周辺の他の方が先行して運用するローカル5Gの無線局とお互いに干渉しないようにするための事前の調整対応が必須になっていることも学んだけれど[3],[4],[5]ローカル5Gが普及拡大するにつれて、その事前の調整対応はやりきれないのでは? とも推測したところです。また、ローカル5Gの無線局を自分が先行して運用している立場であっても、後発の他の方が免許申請するに際して、お互いに干渉しないようにするための事前の調整対応を要請される状況もありえましょう、きっと。その場合、皆で仲良く周波数を共用して運用するためには、最悪、自分が先行して運用しているサービスエリアの範囲を縮小する状況が発生することもあるかもですね。

従って、「ローカル5Gの周波数は、すべてのローカル5Gの運用者と共用することになるので、お互いに干渉や混信を回避するための配慮が必要である。もしも干渉や混信の悪影響を受けた場合にも、ローカル5Gとは『そういうものだ』と割り切った感覚で使うシステムである」というとらえ方が良いと思ったです。

もう1つの「もやもや感」

それから、もう1つの 「もやもや感」の件です。
ローカル5Gの宣伝で、ときどき見聞きして思うもう1つの「もやもや感」は、「ローカル5Gの無線区間における伝送遅延時間は、1ミリ秒の低遅延である。無線LAN(WiFi)では1ミリ秒は無理」という主旨の表現だよね。確かに、無線LAN(WiFi)のIEEE802.11シリーズのこれまでの規約では、「無線区間における伝送遅延時間は、これこれ以下にせよ」という具体的な数値の規定はなくて、ベストエフォートでの動作ゆえ、無線LAN(WiFi)の無線区間における伝送遅延時間の数値を、厳密には述べられないとは思う。一方、ローカル5Gは、5Gの主な要求条件として無線区間における伝送遅延時間は規定されているから「1ミリ秒の低遅延である」と述べているのでしょうね。

ここで、調べてみて学びとったことがあります。それは、5G(ローカル5Gもキャリ5Gも)の無線フレーム長は10ミリ秒単位とのこと[9],[10]。つまり、無線区間では、無線伝送されるデータは10ミリ秒単位のひとかたまり(フレーム)になっているそうです。その10ミリ秒の長さの無線フレームは、さらに分解できて、1ミリ秒の長さのサブフレームが10個で構成されていて、その1ミリ秒の長さのサブフレームも、さらに短い時間単位に分解できて、伝送されるデータが無線フレームの中に格納されていると理解できたです。

でも、上述したように、実際に、無線伝送されるデータは10ミリ秒単位の無線フレーム長であることを意識すると、「あっ! もやもや感、少し解消しそう!」と気がついたのです。もしも電波伝搬環境が不安定等によって今送信した無線フレームが通信の相手方に届かなくて、その届かなかった無線フレームをもう1度送信するという無線伝送区間での再送が発生すると、少なくとも10ミリ秒の遅延時間は必ず発生するハズですよね。だって、無線フレーム長は10ミリ秒単位なのだから[11]。5Gでも無線LAN(WiFi)でも、その他のどんな無線システムでも、「無線伝送区間での再送は、必ず発生するものだ」と考えるのが一般的でしょう。状況によっては再送の回数が複数回になることだってありえましょう。

従って、「ローカル5Gであっても、無線伝送区間での再送は必ず発生する、つまり、無線区間における伝送遅延時間は、10ミリ秒単位で増加することもありえることを前提にして、例えば、伝送したいコンテンツが正常に送受信されることが可能となるエンド-エンド間における遅延時間の仕様(平均値とゆらぎの各目安等)を事前に把握しておき、総合的に検討することが対処案の1つである」と思ったです

あれ? 「ボーっと生きてんじゃねーよ!」って、今、聞こえた気がするけれど。。あ、そうか、今日は金曜日だった。それに、もう夜8時過ぎになっていたです。今日は、このくらいにしておきましょう。お互いにテレワークを活用して、3密にならないように意識して、健康を維持していきましょう。それでは、またね! 

敬具

追伸)参考資料です。
[1]William R. Brinkley,"The Last Ship",https://warnerbros.co.jp/kaidora/detail.php?title_id=50430, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B6%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B7%E3%83%83%E3%83%97, 参照 Jun.22, 2020.

[2]WHO, "WHO Director-General's opening remarks at the media briefing on COVID-19 - 11 March 2020",
https://www.who.int/dg/speeches/detail/who-director-general-s-opening-remarks-at-the-media-briefing-on-covid-19---11-march-2020, 2020年3月11日, 参照 Jun.22, 2020.

[3] 総務省,「ローカル5G導入に向けたガイドライン」, 別紙2,
https://www.soumu.go.jp/main_content/000659870.pdf ,
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000001_00002.html ,2019年12月17日, 参照 Jun.22, 2020.

[4] 第5世代モバイル推進フォーラム 地域利用推進委員会, 「ローカル5G免許申請支援マニュアル 1.2版 2020年4月1日」, https://5gmf.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/local-5g-manual1-2_2.pdf,
https://5gmf.jp/case/20191224175957/ ,2019年12月24日, 参照 Jun.22, 2020.

[5]無線LANビジネス推進連絡会, "【ニュース&トピックス】ビジネス情報:ローカル5G 登場のインパクト", Wi-Biz通信Vol.44, <https://www.wlan-business.org/archives/23309>, 2019年6月17日, 参照 Jun.22, 2020.

[6]総務省,"情報通信審議会 情報通信技術分科会 新世代モバイル通信システム委員会報告(案)", https://www.soumu.go.jp/main_content/000690676.pdf, 新世代モバイル通信システム委員会報告(案)に対する意見募集, https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000443.html, 2020年6月2日, 参照 Jun.22, 2020.

[7]総務省, HOME>免許関係>無線局開局の手続き・検査 >無線局の免許手続き>免許,
https://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/proc/type/aptoli/index.htm ,参照 Jun.22, 2020.

[8]小林忠男,"【インフォメーション】ビジネス情報 コロナ禍で感じる、ビジネススタイルの変化とワイヤレスの未来",Wi-Biz通信Vol.57, <https://www.wlan-business.org/archives/28619>, 2020年6月15日, 参照 Jun.22, 2020.

[9]総務省,"「地域ニーズや個別ニーズに応じて様々な主体が利用可能な第5世代移動通信システム(ローカル5G)の技術的条件等」の一部答申", 別紙1,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627578.pdf,「地域ニーズや個別ニーズに応じて様々な主体が利用可能な第5世代移動通信システム(ローカル5G)の技術的条件等」-情報通信審議会からの一部答申-, https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000385.html, 2019年6月18日, 参照 Jun.22, 2020.

[10]武田和晃 et al., “5G における物理レイヤ要素技術と高周波数帯利用に関する検討状況”, NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,vol.25, No.3,Oct.2017, https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol25_3/005.html, https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol25_3/vol25_3_005jp.pdf, 参照 Jun.22, 2020.

[11]北條博史 et al., “【スペシャルトピックス】[特別座談会]5GとWi-Fiの競合と補完を考える (下)キャリアバンドの5Gと自営型のWi-Fiとの住み分けが続く”, Wi-Biz通信Vol.44, <https://www.wlan-business.org/archives/23406> ,2019年6月17日, 参照 Jun.22, 2020.

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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