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第6回 受信アンテナ数の違いによる最大比合成(Maximal Ratio Combining: MRC)ダイバーシチ受信の性能 ~実験的検討に挑戦!どこのメーカも具体的に示していない無線LAN製品におけるダイバーシチ受信の性能状況 その6~

匠コラム
ネットワーク

ビジネス推進本部 第1応用技術部
スイッチワイヤレスチーム
松戸 孝

本コラムは、どこのメーカも具体的に示していない無線LANアクセスポイント製品のダイバーシチ受信の性能状況を試行錯誤して実験的に検討した挑戦記の第6回です。安定して快適な無線LAN通信を実現するためには、無線LAN通信の親局である無線LANアクセスポイント(以下APと記載します)や子局である無線LANクライアント端末(以下CLと記載します)の受信装置系において、受信電力と雑音電力の比であるSN比(以下SNRと記載します)の劣化を引き起こすマルチパスフェージングへの対策が必要になります。前回の第5回では、マルチパスフェージングへの対策として、IEEE802.11n規約時代以降の無線LAN製品に採用された「最大比合成(Maximal Ratio Combining: MRC)ダイバーシチ受信」について、その性能状況を実験的に明らかにしました。実験結果からは、マルチパスフェージング対策としては、IEEE802.11abg規約時代の無線LAN製品に採用された「選択ダイバーシチ受信」よりも、さらに進化した「最大比合成ダイバーシチ受信」のほうが高い性能であると理解できました。
今回の第6回では、受信アンテナ数の違いによる最大比合成ダイバーシチ受信の性能を実験的に明らかにしていきます。

連載インデックス

(1)無線LAN製品に実装されたアンテナ数は、様々。

IEEE802.11n規約時代以降の無線LAN製品は一台のAPやCLで複数の送受信するアンテナ(含む関連装置)を実装して、伝送する周波数帯域幅を一定に保ちながらも、空間的に送受信する伝送路(ストリーム)を多重化する(MIMO:Multiple Input Multiple Output)技術で高速伝送を実現しています。原理的には、複数の送受信するアンテナ数が多いほど、より高速な伝送が可能となりますが、コスト面や、限られた筐体の大きさでの現実的な実装の限界、及び、各メーカでの技術力等の差により、APでは、2本から4本のアンテナ数を実装した製品が一般的です。従って、AP製品における最大比合成ダイバーシチ受信も、受信アンテナ数の違いによる性能状況の違い、つまり、マルチパスフェージングへの対策の効果の違いが存在していると考えられます。しかしながら、この件について、どこのメーカも自社製品について具体的に示していないと思われます。そこで、受信アンテナ数の違いによる無線LANのAP製品の最大比合成ダイバーシチ受信の性能状況を実験的に把握することに挑戦しました。

(2)実験で確認した受信アンテナ数の違いによる無線LAN AP製品の最大比合成ダイバーシティ受信 性能状況

図1は、屋内の事務所のフロア環境において実験によって測定されたマルチパスフェージングの状況下における、最大比合成ダイバーシチ受信(IEEE802.11n規約対応のシスコシステムズ社製のAP製品のCAP3602E)のSNRです。同図の上段から下段に向けて、受信アンテナ数が1本で受信のSNRと、受信アンテナ数が2本、3本、及び、4本の各場合の最大比合成ダイバーシチ受信のSNRが示されています。
なお、シスコシステムズ社製のAP製品のCAP3602Eにおいては、受信アンテナ数を2本、3本、及び4本と、設定で変更する方法が可能となっていますので、その方法を採用しました。受信アンテナ数が1本の場合は、CAP3602Eには、その設定ができませんでした。そこで、受信アンテナ数が2本の設定状態において、1本目のアンテナコネクタには受信アンテナを接続し、2本目のアンテナコネクタには疑似負荷を接続して終端することで、受信アンテナとして動作しないようにしました。疑似負荷とは、APの送受信装置から見たらアンテナと等価な電気的性質を有している部品になりますが、電波を送受信する作用はしない部品です。
実験方法の概要は、本コラムの第1回の図1の場合と同様です。送信部のAP(送信アンテナは1本、水平面内無指向性)は、5GHz 帯無線LAN のチャネル番号60(中心周波数 5,300MHz)のIEEE802.11a規約の電波でビーコン(APとの通信に必要になる様々な基本情報)を 20ミリ秒間隔で連続的に送信しています。図1は、送信部のAPから11.7m離れた距離における受信部(APを電波は送信しない受信専用装置として動作、水平面内無指向性の受信アンテナが1本の場合と、受信アンテナ数が2本、3本、及び、4本の各場合の最大比合成ダイバーシチ受信)で測定したSNRです。受信部は台車の上に載せてあり、SNRの測定中は、人がその台車を(つまり受信部を)概ね一定の速度でゆっくりと水平移動させています(約10秒間かけて2.28mの距離を移動、移動方向は送信部と受信部を結ぶ軸線に直角方向)。受信部は、受信アンテナが1本、2本、3本、及び、4本の各場合において、同じ測定経路を台車に載せて移動させています。

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図1. 1本のアンテナが動作する受信部(CAP3602E)で測定したSNRと最大比合成
(MRC)ダイバーシチ受信が動作する受信部(CAP3602E)で受信アンテナ数を変えて測定したSNR

図1からは、次のことがわかります。
① 台車がゆっくり移動して、つまり受信部の位置が移動すると、その位置変化に伴い、受信アンテナ数が1本で受信のSNRも、受信アンテナ数が2本、3本、及び、4本の各場合の最大比合成ダイバーシチ受信のSNRも、変動しています。
⇒受信部の移動による空間的変化に伴い、マルチパスフェージングが発生していると理解できます。
② 受信アンテナ数が増加するとSNR の変動幅が小さくなっていく傾向があります。
⇒ここで、本コラムの第3回を思い出して、図1に示されたSNRの測定データを、累積確率分布として表現してみます。

図2は、図1の測定データを、視点を変えて、横軸をSNR、縦軸をSNRの最小値から各SNRまでの累積受信回数をSNRのデータ総数(489個)で割り算して百分率の累積確率として表現したグラフです。つまり図2は、SNRの累積確率分布です。同図の×印は1本のアンテナによる受信部で測定したSNRの累積確率分布(SNRのデータ総数は489個)を示しています。そして、同図の+印は2本のアンテナを、◇印は3本のアンテナを、及び◆印は4本のアンテナを各々用いた最大比合成ダイバーシチによる受信部で測定したSNRの累積確率分布(各アンテナ数の場合において、SNRのデータ総数は489個)を示しています。なお、本コラムのこれまでの連載における測定結果と同様に、送信部(TX)も受信部(RX)もアンテナは床面に対して垂直の状態(垂直偏波:TX-V、及びRX-V)における測定結果です。

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図2. 1本のアンテナを用いた受信部で測定したSNRの累積確率分布(×印)と、
2本から4本のアンテナを用いた最大比合成(MRC)ダイバーシチが動作する受信部で測定したSNRの累積確率分布(+、◇、及び◆の各印)。
累積確率100%=SNRのデータ総数489個のとき。

図2からは、次のことがわかります。
① 受信アンテナ数が増加するとSNR の変動幅が小さくなっていく傾向があります。例えば、累積確率1%のSNRに着目すると、受信アンテナ数が1本に比べて、4本のアンテナを用いた最大比合成ダイバーシチによる受信のほうが、約7dB大きくなっています(これは、約5倍大きいという意味です)。即ち、約7dBのダイバーシチ利得を得られていることがわかります。
⇒受信アンテナ数が多いほど、マルチパスフェージングによるSNRの劣化を小さくできていると理解できます。
② しかしながら、最大比合成ダイバーシチ受信の受信アンテナ数が2本から4本へ増加したときに、例えば、累積確率1%でのSNRの改善、即ち、ダイバーシチ利得の増加は約1.5dB(これは、約1.4倍大きいという意味です)にとどまっています。
⇒実験結果からは、確かに、受信アンテナ数の増加に伴い最大比合成ダイバーシチ受信によりSNRの劣化が小さくなる傾向は認められますが、受信アンテナ数が2本から4本へ増加したときのSNRの増加が小さいようにも思えます。なお、実験による測定は慎重に実施していて、測定ミスはないと理解しています。
実験結果をいろいろと吟味している中で、最大比合成ダイバーシチ受信のSNRの累積確率分布を理論的に導くことが可能であるということを知りました。そこで、理論値と本実験の測定結果の比較を試みることにしました。この比較については、次回に述べることにします。

(3)実験での測定諸元の概要等

(3-1)送信部
① AP(1台):自律型 Cisco AP1240AG
② アンテナ(1本):Cisco ANT5135D-Rダイポール(APのPrimary Port-Right接続)
③ アンテナコネクタ中心の床面からの高さ:0.72m

(3-2)受信部
① AP(電波は送信しない受信専用装置として動作、1台):集中制御型 CAP3602E、IEEE802.11n規約対応
②アンテナ(1本で運用の場合):Cisco ANT2524DW-R Dual-bandダイポール(APのコネクタAに接続)
③アンテナ(2本で運用の場合):Cisco ANT2524DW-R Dual-bandダイポール(APのコネクタAとBに接続して、最大比合成ダイバーシチ受信が動作)
④アンテナ(3本で運用の場合):Cisco ANT2524DW-R Dual-bandダイポール(APのコネクタA、B、及びCに接続して、最大比合成ダイバーシチ受信が動作)
⑤アンテナ(4本で運用の場合):Cisco ANT2524DW-R Dual-bandダイポール(APのコネクタA、B、C、及びDに接続して、最大比合成ダイバーシチ受信が動作)
⑥アンテナ間隔その1(コネクタAとBの中心間、及びコネクタCとDの中心間)=16.5 cm=約2.92波長(実験で利用した5GHz帯無線LANのチャネル番号60(中心周波数5,300MHz)の波長に対して)
⑦アンテナ間隔その2(コネクタBとCの中心間、及びコネクタAとDの中心間)=11.0 cm=約1.94波長(実験で利用した5GHz帯無線LAN のチャネル番号60(中心周波数5,300MHz)の波長に対して)
⑧ アンテナコネクタ中心の床面からの高さ:1.04m

なお、実験方法の詳細については、下記項目の関連記事の第2章と第3章に記載のとおりです。

まとめ

受信アンテナ数の違いによる無線LANのAP製品の最大比合成ダイバーシチ受信の性能状況を実験的に明らかにしました。実験結果からは、受信アンテナ数が多いほど、マルチパスフェージングによるSNRの劣化を小さくできていると理解できました。つまり、最大比合成ダイバーシチ受信は、受信アンテナ数が増加すると性能が良くなっていることを実験による測定で確認できました。しかしながら、実験の測定結果では、受信アンテナ数が2本から4本へ増加したときのSNRの増加が小さいようにも思えました。
次回は、受信アンテナ数の違いによる最大比合成ダイバーシチ受信の性能について、理論値と本実験の測定結果の比較に挑戦していきます。

関連記事

松戸孝、宇都宮光之、田中政満、中野清隆、丸田竜一、力石靖、山下聖太郎、"シスコシステムズ社製無線LANアクセスポイントCAP3602Eの最大比合成( Maximal Ratio Combining:MRC)ダイバーシチ受信性能の実験的検討 -より信頼性の向上した無線LAN の実現を目指して"(第1回 シスコテクノロジー論文コンテスト最優秀賞受賞論文 ネットワンシステムズ社員執筆記事)

https://www.netone.co.jp/report/press.html
https://www.netone.co.jp/wp-content/uploads/2012/04/matsudo_et_al1.pdf
http://www.cisco.com/web/JP/partners/ronbun/1st/index.html#

執筆者プロフィール

松戸 孝
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 第1応用技術部 スイッチワイヤレスチーム
所属
無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事

  • 第一級無線技術士
  • 第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞
  • 第2回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 特別賞
  • 第3回 シスコ 論文コンテスト 特別功労賞

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