第1回 電波干渉!? 無線LANのトラブルから学ぶシリーズ その1

ビジネス推進本部 第1応用技術部
スイッチワイヤレスチーム
山下 聖太郎

スマートデバイスの普及や、IEEE802.11n/11ac規格に対応した無線LAN製品が主流になり、企業においても無線LANのニーズは高くなっています、それに比例して無線LANの悩みやトラブルも増えてきており、単純な設定ミスから電波干渉、端末との相性、Bugなど原因は様々です。

本コラムでは、筆者の日々の業務の中で、弊社が主力として取り扱いをしているCisco無線LAN製品における、実際に遭遇したお客様の悩みを例に、無線LANにおける基本的な考え方と悩みに対する対応策について紹介します。

連載インデックス

お客様の悩み

過去にCiscoの無線LAN製品を導入して使っていたのだけど、最近2.4GHz帯の通信が以前よりも不安定で速度が出なくて困っている。

お客様から「無線LANの速度が思ったより出ない」と相談を受けた際に、全ての端末で同様の事象が発生する場合、Bugや単純な設定ミス、計測ツールの不備の可能性を除外したとすると、筆者であれば電波干渉による影響をまず疑います。

2.4GHz帯はISMバンドとも呼ばれ、無線LANだけが利用している訳ではありません。電子レンジやBluetoothなどの、多数の電子機器が同じ周波数帯を利用しており、無線LAN以外の機器も電波干渉源として存在します。又、2.4GHz帯は電波干渉せずに利用できるチャネル数が3つ(例:1ch、6ch、11ch等)しかない事に加え、近年では、モバイルルータやテザリング可能なスマートフォンなどの、持ち運びを前提とした、無線LANアクセスポイント機能を持つデバイスの普及により、電波干渉源が移動してやってくる、という事も起こり得るため、2.4GHz帯は電波干渉による影響が多い「汚れた周波数帯」とも呼ばれます。

ここでお客様が、Cisco製のアクセスポイントを利用されているという事だったため、筆者はまずアクセスポイントのチャネルの使用率を確認して頂くよう依頼しました。Cisco製のアクセスポイントは、現在の自身が利用しているチャネルがどれだけ混雑しているかを、Channel Utilization(チャネル使用率)として出力する事が出来るためです。電波干渉の可能性を切り分けるために確認して貰いましたが、結果として利用している全ての2.4GHz帯のチャネル(1ch,6ch,11h)で定常的に60-90%の範囲でChannel Utilizationが変動しているような環境となっている事が分かりました。

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図1.Cisco WLCのGUI画面におけるChannel Utilizationの表示例
(赤枠がChannel Utilization(チャネル使用率)の表示、単位は[%])

Channel Utilizationが高い環境だとどうなるのか?

Channel Utilizationは例えば、周囲にいる1台の無線LAN端末がファイルダウンロードを1分間し続けるだけでも、利用しているチャネルのChannel Utilizationが100%近くまで上がるので、無線LANにおいては一時的に上昇する、という事はどの環境でも起こりえます。その場合、端末の通信が終われば再び0%付近に戻るため、一時的な問題となります。しかし利用しているアクセスポイントの周囲に、同じチャネルを利用しているアクセスポイント(干渉源)が、大量に存在した場合は話が違ってきます。干渉源から定期的に送信される、Beaconなどのマネージメントフレームの通信だけで、利用しているチャネルのChannel Utilizationが定常的に底上げされてしまうからです。Channel utilizationが高い状態のチャネルで自身が通信をしようとした場合、無線LANのアクセス制御方式であるCSMA/CAの動作によって、1つのチャネルの帯域を他の同じチャネルを利用している端末と分け合うため、通信速度の低下や通信が安定しないなどの影響が出てきます。

ここで、定常的にChannel Utilizationが60-90%と言われても、どの程度通信に影響が出るのかなかなかイメージが付きづらいと思います。
Channel Utilizationの使用率による影響の度合いは、利用している端末や無線LAN規格、電波環境によっても異なるので、明確な基準としての値を出す事は出来ませんが、参考として、当社でChannel Utilizationを意図的に20%、50%、70%、95%に上昇させた状態における、スループット検証の結果を図2に示します。当社のテクニカルセンターのラボ環境ではChannel Utilizationが95%の状態での実行スループットは20%程度の時と比べ全端末において半分以下になり、pingロスも大幅に増加する結果となっています。このことからChannel Utilizationが低ければ低いほど、無線LAN通信をする環境としては適している事が分かります。

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図2.当社テクニカルセンターのラボ環境におけるチャネル使用率別のスループット測定結果

今回のお客様環境では、ユーザが持ち込んだコンシューマ向けアクセスポイントやモバイルルータが導入当初と比べて桁違いに増えてしまったため、3つの全てのチャネル(1ch、6ch、11ch)のChannel Utilizationを60~90%近くまで定常的に上昇してしまっている空間となってしまっていたため、どの2.4GHz帯のチャネルを利用しても、電波干渉によりパフォーマンスの低下の影響を受けてしまっていたことが原因である事が分かりました。

実施した解決策

周囲の電波干渉源を減少させる事が出来れば話は早いですが、お客様の環境では持ち込みのアクセスポイントやモバイルルータの撤廃させることは現実的では無く、別の解決策が必要でした。

前述の通り、2.4GHz帯は電波干渉せずに利用できるチャネル数が3つだけのため、4台以上のアクセスポイントが近接してしまうと、チャネルの重複による電波干渉が発生してしまいます。一方5GHz帯は電波干渉せずに利用できるチャネル数がW52の4チャネル(36ch,40ch,44ch,48ch)、W53の4チャネル(52ch、56ch、60ch、64ch)、W56の11チャネル(100h、104ch….140ch)、合計19チャネルも利用する事が出来、電波干渉源となる無線LAN以外のデバイスも殆ど無い為、2.4GHz帯よりもクリーンな周波数帯となっています。昨今は電波干渉による影響を受ける可能性の高い2.4GHz帯では無く、比較的クリーンな5GHz帯の利用が推奨されており、端末が5GHz帯に対応している場合は5GHz帯を利用しないのは勿体ない為、お客様には今まで利用していなかった5GHz帯の利用をして頂けるよう提案しました。

同時に、せっかくCisco製アクセスポイントを利用しているので、2.4GHz帯と5GHz帯の両方の周波数帯に対応している端末に対しては、出来る限り5GHz帯での接続を実施するように促すBand Selectという機能を利用して、5GHz帯を利用するように仕向け、スループットが出ないという悩みを解決する事が出来ました。

無線LANで利用出来る電波の周波数帯は電波法で定められており、2.4GHz(802.11b/g/nで利用)と5GHz(802.11a/n/acで利用)が利用されます。
無線LANを利用する家庭や企業が増え、モバイルルータやテザリングなどでアクセスポイント機能を持ち運べる事が出来るようになった事でより便利になってはいますが、利用者の増加による無線LANアクセスポイント同士の電波干渉が無線LANにおける悩みとなっています。

昨今の無線LAN市場のトレンドとしても2.4GHz帯から5GHz帯へのシフトを推奨する流れになっており、5GHz帯に対応した端末も増加傾向にあります。今後新たに無線LANを導入するお客様は5GHz帯の利用を念頭に御検討頂ければ幸いです。

ちなみに本コラムのお客様では5GHz帯を利用する事で、定常的な電波干渉によるパフォーマンスダウンを回避する事が出来ましたが、お客様によっては2.4GHz帯しか利用出来ない場合も存在すると思います。その場合2.4GHz帯で電波干渉を受けてしまう事はある程度許容するしかないですが、Channel Utilizationを少しでも抑えるためのチューニング方法が存在します。

誰でも自由に利用する事の出来るという無線LANの性質上、管理外(隣の家で利用している機器など)のアクセスポイントによるChannel Utilizationの上昇を抑える事は現実的では無いですが、管理しているアクセスポイントの低速レート(1,2,5.5,6,9,12Mbps)の無効化、Beacon間隔の調整、チャネルや送信出力の調整をする事で管理アクセスポイント間の電波干渉によるChannel Utilizationをある程度抑える事が可能です、同様の悩みを持たれている方は、上記の設定のチューニングをしてみると、Channel Utilizationの改善がされるかもしれません。ご参考になれば幸いです。

次回、第2回は『不具合!? 定期的に通信が切れる事例』について紹介します。

執筆者プロフィール

山下 聖太郎
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 第1応用技術部 スイッチワイヤレスチーム
所属
入社以来無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、及び、提案や導入を支援する業務に従事
現在は様々な状況下での無線LANシステムの検証に力を入れ、限界を理解した上で、より使える無線LANの提供を目指して邁進中
・第一級陸上特殊無線技士
・第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞

イベント/レポート

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