第3回 CA AppLogicによる新しいクラウドのかたち

ネットワンシステムズ株式会社
シニアマーケティングエキスパート
山村 剛久

新しいクラウドのかたち

過去2回にわたって、仮想化関連の製品/サービスを紹介してきました。第3回となる今回は、仮想化の延長線上にあるクラウドの、1つのかたちを紹介します。
現在では、ハードウエアをサービスとして提供する「IaaS」、OSなども含めてサーバー機能を提供する「PaaS」、アプリケーションも含めて提供する「SaaS」などと、さまざまなサービスの形態が、クラウドという名のもとにユーザーに提供されています。
今回紹介する「CA AppLogic」(開発会社の米3Teraは、2010年2月に米CA(現在のCA Technologies)が買収した)は、この分類で言うとPaaSを提供するためのソフトウエアです。
PaaSを提供する製品/ソリューションは、マーケットにたくさんの選択枝があります。例えば、VMWare ESX、XenServer、Microsoft Hyper-Vなどのサーバー仮想化ソフト製品群がPaaS製品に相当します。
これに対して、CA AppLogicでは、これらの製品では提供しえなかった新しいクラウドのあり方を提案しています。

キャンバスでお絵かきしたデータ・センターが動き出す

前述した製品/サービス群(VMware ESX、XenServer、Hyper-V)を使って仮想サーバー群による情報システムを構築する場合、皆さんはどのような作業をするでしょうか。
例えば、

  • 仮想アプライアンスをインストール
  • 仮想アプライアンスに個別にアプリケーション(MySQLやApacheなど)をインストール
  • 仮想アプライアンスの個別設定(VLAN/IPアドレスなど)
  • L2スイッチの設定(VLANなど)
  • 物理結線の変更

などが、作業として考えられます。
仮想化を使うと、サーバーの収容効率が上がり、コスト・メリットが得られます。しかし、個別の細かい設定が必要になり、場合によってはデータ・センター現地での作業が発生してしまうのではないでしょうか。
これらの作業は、オペレーション・マニュアルを作成してミスが極力発生しないようにしても、どうしてもヒューマン・エラーが発生しがちです。さらに、ヒューマン・エラーがあった場合のトラブル・シューティング(どこで設定を失敗したかの調査)に時間がかかりがちです。
CA AppLogicを使うと、直観的なGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)の上で”お絵かき”をすることによって、仮想化されたアプライアンス群をパッケージング/テンプレート化できます。これらを作成/稼働させる際に、システム構成の物理的な変更は、一切伴いません。その世界観を、図1に見せます。

図1: CA AppLogicのインフラストラクチャ・エディタ

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CA AppLogicを使うために必要なハードウエアは、一般的なPCサーバーを複数台(その台数でグリッドを組みます)と、レイヤー2スイッチ(最低2台)のみです。
使用感は、あたかも「Microsoft Visio」のようです。画面左に、カタログと呼ぶ仮想アプライアンスのひな型が並んでいます(OSSをベースにしたデータベース・サーバーやWebサーバーなど、約30個のひな型を標準で提供しています)。これらをマウスのドラッグ・アンド・ドロップで画面右のキャンバスと呼ぶスペース上に配置し、マウスで結線していきます。こうして作った絵が図1です。
従来ファイアウォール/Webサーバー/ロード・バランサ(負荷分散装置)などを物理的に配置/結線して構築してきたのと同じように、このキャンバス上で”お絵かき”をしてシステムを構築します。
「仮想サーバーの配置と結線の方法は理解した。では、個別のカタログの設定はどうするのか」と疑問をもつかも知れません。従来は、個別のサーバーを立ち上げ、ログインし、設定を変更するというように、大変な作業が伴いました。また、この作業は、Linuxなどの知識がある人でないと、難しいものでした。一方、CA AppLogicでは、個別のカタログの設定はプロパティというGUI上の設定で行えます。設定変更のためにLinuxの知識は必要ありません。

図2: カタログのプロパティとリソース設定

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図2に示したプロパティの設定例は、「IN」という、iptablesベースのファイアウォールを仮想アプライアンス化したサーバーの例です。Ip_addr(IPアドレス)やnetmask(ネットマスク)といったパラメータがあるのが分かります。それぞれに対して、Value項目に入力した値が設定されます。これらのパラメータは、仮想アプライアンスの起動時に自動的に設定されます。
仮想アプライアンスに割り当てるリソース(CPU数/メモリー量/帯域)も、GUIから設定可能です。
ここまで紹介した通り、キャンバス上で”お絵かき”をして、必要なパラメータをGUI上から設定するだけで、仮想データ・センターが出来上がります。後は、GUI画面上にあるStartボタンをクリックすれば、この仮想データ・センターが稼働します。

内部アーキテクチャ

“お絵かき”をした構成図にパラメータを設定することで仮想データ・センターが完成することが理解できたと思います。以降では、こうした仕組みを提供する内部アーキテクチャについて簡単に紹介します。
図3は、CA AppLogicをインストールして稼働させているPCサーバーの内部を、論理的に示したものです。ハイパーバイザ(サーバー仮想化ソフト)には、オープンソースの「Xen」を利用しています。
この図の中にあるコントローラという仮想アプライアンスは、AppLogicがインストールされているグリッド全体のリソースを管理するなど、すべての意思決定を行う集中管理サーバーになります。これまで見てきた管理用のGUI画面は、すべてこのコントローラにWebブラウザでアクセスしたものです。
CA AppLogicではまた、ギガビット・イーサネットを2ポート使用します。このうち1ポートはパブリック・アクセス用で、残りの1ポートはバックボーン接続用です。2つを明確に区別して使用します。
パブリック・アクセス用は、その名の通り、パブリック・インターネットからアクセス可能なセグメントです。このセグメントには、INなどのようなファイアウォール・アプライアンスなどの仮想インタフェースがつながります。
バックボーン用は、GUIで”お絵かき”したカタログ間の接続などに利用するセグメントです。このセグメントは、パブリック・インターネットからは直接アクセスできません。このセグメントにつながる仮想インタフェースには、AppLogicのコントローラによってプライベート・アドレスが自動的に設定されます。

図3: AppLogicのアーキテクチャ

CA AppLogicの特徴として、ストレージのアーキテクチャも紹介します。
仮想データ・センターを構築する際、コスト的に無視できない要素に、FiberChannel(FC)のような外部ストレージがあります。通常、これらは高機能ではある一方で、コスト的なインパクトが大きなハードウエアです。
CA AppLogicは、設計思想として、外部ストレージを使うことを想定していません。コスト的に最も安価なのはローカルのHDD(DAS)だからです。
CA AppLogicでは、このローカルのHDDをうまく利用しながら、個々のPCサーバーのHDDにまたがってRAID1構成(ミラーリング)を組むことができます(図4)。グリッド全体のうち1台のグリッド・サーバーに障害が発生したとしても、残り1台のグリッド・サーバーに保存されたデータ・ボリュームは、引き続き運用が可能です。

図4: AppLogicのストレージ・アーキテクチャ

これまで説明してきたように、CA AppLogicは、オープンソースのハイパーバイザであるXenのアーキテクチャを踏襲しつつ、GUIを用いたプロビジョニングを可能にしています。プロビジョニングでは、単に1つの仮想サーバーを起動させるだけではなく、複数の仮想サーバー間のコネクションまで考慮するように設計されています。

すぐに使える仮想アプライアンス群

冒頭で、約30個の仮想アプライアンスのひな型(カタログ)を標準添付していることを述べました。では、どのような仮想アプライアンスがあるのか気になります。図5に、数あるカタログの中から、いくつかを示しました。

図5: 標準で提供されるさまざまなカタログ

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これら標準添付されているカタログは、すべてLinux(CentOSなど)の上にOSS(オープンソース)のソフトウエアを搭載したものです(カタログの絵の左右にあるものは、仮想インタフェース)。OSSだけを使っているため、個別のアプライアンスを使用するにあたってライセンス費用などが発生しません。
OSSではなく有償ライセンスのOS(Windows Server 2003/2008やRed Hat Enterprise Linuxなど)をCA AppLogic上で使いたい場合にも、これら有償OSをAppLogic上で動作させる方法を提供しています。個別のカスタマイズが必要になりますが、Red Hat Enterprise Linuxのパラメータ設定をプロパティ画面で実施するといった柔軟性を提供しています。
これらのカタログが最初から提供されているので、ユーザーは、構築したいシステム環境をすぐに作れます。

さまざまなコスト削減効果

CA AppLogicは、オール・イン・ワン型のパッケージであり、さまざまな機能をすぐに使えるようにしています。これにより、例えば、以下のようなコスト削減効果を見込めます。

  • OSやアプリケーションのライセンス・コストの削減(OSSベースのカタログを同こん)
  • 仮想データ・センターの構築とメンテナンスにかかる工数の削減(作成した仮想データ・センターをパッケージング)
  • ハードウエア・コストの削減(安価なPCサーバーとL2スイッチだけを使用)

よく比較され、議論の対象となるのが、VMWare ESXやXenServerと比べた際のポジショニングです。CA AppLogicは、従来の仮想化ソフトと1対1で比較することが難しいのですが、理解しやすいように小売業界のマーケット構造(図6)を例に説明します。

図6: AppLogicのポジショニング

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  • 百貨店型(VMWare/XenServerなど) : 高機能だがトータルで高価格傾向
  • コンビニ型(AppLogic) : 標準機能だが比較的安価で便利
  • オンライン・ストア型(Amazonなど) : 使いたい時に使いたいだけ

百貨店には、高価なブランド品が陳列されています。いろいろな商品を購入する場合、フロアを移動しなければいけません。いい服を購入したら、いい靴が欲しくなります。外商担当の人と相談する必要があるかも知れません。トータル・コーディネートすると素晴らしいものが出来上がりますが、総額は結構な金額になってしまいます。
一方、コンビニエンス・ストアには、高価なブランド品は陳列されていません。しかし、限られたスペースの中に、標準的なものを安価に、ところせましと陳列しています。そこに行けば、そこそこのものがすぐに手に入ります。これがCA AppLogicのポジショニングであり、他の製品/サービスではまねができない点です。
百貨店型の製品/サービスを否定しているわけではありません。機能面や可用性という観点から百貨店型の製品/サービスが必要になるITシステムは、もちろんあります。企業のITシステムのすべてが同じ要件を求めているわけではありません。ITシステムも事業仕訳をすることによって、コスト削減と利便性の両方を追求できるようになります。
われわれが目的に応じて百貨店やコンビニを使い分けているように、企業システムも目的に応じて、従来のITシステムとクラウド化されたITシステムを使い分ければいいのです。

今後の発展

冒頭で少し触れましたが、2010年2月に米CA(現在のCA Technologies)が米3Teraの買収を発表しました。プレス・リリースでも触れられていますが、米CA Technologiesのクラウド戦略の中で、AppLogicは中心的な製品として位置づけられています。
2010年5月17日に米ラスベガスで開催されたプライベート・カンファレンス「CA World 2010」において、米CA Technologiesは「CA Cloud-Connected Management Suite」と呼ぶクラウド管理スイートを発表しました。
このスイートは、

  • CA Cloud Insight
  • CA Cloud Compose(AppLogicはComposeとして統合される)
  • CA Cloud Optimize
  • CA Cloud Orchestrate

の4つのコンポーネントで構成しています。ほかのコンポーネントとしては、過去に買収した米Oblicore(サービス・レベル管理ソフト)や米Cassatt(データ・センター自動化)などの要素技術を統合していくようです。
CA Cloud-Connected Management Suiteが製品として出荷されるのは2010年末以降になると思われますが、今後の動向が非常に楽しみです。

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