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スマートデバイスが抱えるVoIP通信の難しさ ~新たなる潮流「メーカー連携による改善」~
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ビジネス推進本部 応用技術部
エンタープライズSDNチーム
田中 政満
1.はじめに
旧来、無線LAN上でのVoIP、いわゆるVoWLANは専用端末で行うことが一般的でしたが、昨今はスマートデバイスがアプリケーションをインストールすることで機能追加ができる点を活かし、その役割を代替しようとしています。
しかしながら、スマートデバイス+アプリケーションという組み合わせにおいては、本来VoWLANデバイスとしてあるべき動作が実現されていないことも併せて判明しており、その対策をどのようにするかが課題でした。
本稿では、スマートデバイス+アプリケーションの組み合わせにおける新たなる潮流である「メーカー間の連携」についてその概要を述べたいと思います。
2.これまでのおさらい~スマートデバイスが抱えるVoIP通信の難しさ~
過去に上記のコラムで述べた通り、スマートデバイスでVoIP通信を行うには大きく分けて以下の4つの課題があります。
- スマートデバイスから送出されるデータは「VoIP通信」に加え「ユーザーのフォアグラウンド通信(Web等)」「アカウント同期などのバックグラウンド通信」がある
- 上記3つの種別のデータが、同じSSID、同じチャネル、同じAPで混在してやり取りされる
- スマートデバイスはVoWLAN専用端末と違い、ローミングを高速化する技術への対応がデバイスによって異なり、統一されていない
- スマートデバイスから送出されるVoIPフレーム、パケットに適切なQoS値がセットされていない場合がある
これらのような状況から、スマートデバイスでのVoIPはこれまでのVoWLAN専用端末を用いたVoIP以上に品質の確保が困難であり、これらの品質に満足できない場合は3G/LTE等のキャリア回線でのVoIP、また音声回線を使って内線通話を実現するFMC等を利用することになります。
3.新たなる潮流「Fast Lane」~メーカー連携による改善について~
2章で上げた課題のうち、1)および2)についてはスマートデバイスが抱える根源的な問題であり、改善はほぼ不可能な項目となりますが、3)の「スマートデバイスはVoWLAN専用端末と違い、ローミングを高速化する技術への対応がデバイスによって異なり、統一されていない」や、4)の「スマートデバイスから送出されるVoIPフレーム、パケットに適切なQoS値がセットされていない」点については、改善を行う動きが一部のメーカーの間で行われています。
その一例として今回紹介するのが、Cisco Systems社とApple社の連携による改善です。
無線LANコントローラ(WLC)/AP(Aironet)を設計・製造し、コラボレーションツールとして「Cisco Jabber」および「Cisco Spark」をリリースするCisco Systems社と、スマートデバイス(iPhone/iPad)を設計・製造するApple社の連携となります。
この取り組みを「Fast Lane」とCisco Systems社では呼んでおり、具体的な連携内容としては以下の通りです。
1)Cisco社の無線LANネットワーク上でiOS搭載デバイスが円滑なローミングができる機能を実装協力(802.11r,802.11k,802.11vを含む)
2)iOSデバイス上で動作するCisco製コラボレーションツール(Jabber, Spark)のQoSが適切な値となるよう実装協力
上記の対応により、Cisco社のWLCを用いた無線ネットワークに接続しているiOSデバイス上のCisco Jabber/Cisco Sparkを利用する場合においては、802.11r/802.11k/802.11vを用いた円滑なローミングが期待できるとともに、iOSデバイスから適切なQoS値が付与されたVoIPフレームが無線ネットワーク上に送出されるようになりました。
この連携機能のうち、QoS値の確認を表1の機材を用いて行いました。
確認を行った結果が以下の図1と図2になります。
このように、Jabber for iPhone利用時の音声トラフィックに関しては、正常なQoS値(802.11e=6、WMM=AC_VO)が付与されて無線区間に送出されており、他のデータ通信やバックグラウンド通信より優先して無線区間を利用できることが期待されます。上記はCisco Jabber for iPhoneの結果ですが、Cisco Sparkに関しても同様の結果がNetOne社内の検証により確認できています。
4.まとめ
これまではQoS値が付かず、優先制御については諦めるしかなかったスマートデバイスでのVoIP通信においても、メーカーの努力により「特定メーカー同士の組み合わせ」のみではありますがQoS値が推奨されるべき値になるケースがでてきました。
FMCや3G/LTE網でのVoIPはコストの問題が避けて通れないため、導入に踏み切れないことや、QoSが適切に設計されたVoWLANの品質で満足できる企業にとっては、この取り組みが福音となるケースもあるかと思います。
しかしながら、バックグラウンドデータが同一の端末から送出されるというスマートデバイスが抱える音声通信の根本的な阻害要因は依然として残っています。今後はこの阻害要因とうまく付き合いつつ、スマートデバイスでのVoIPをうまく設計・実現することにより、社内コラボレーションの強化、ひいては社員の生産性向上に寄与できる可能性があります。
今後、ますます重要性を増していくスマートデバイス、またその上で当然の要求として出て来るVoIP通信についても、日進月歩で進化しており、導入を検討される際には最新情報を加味し、検討を行うと良いでしょう。
執筆者プロフィール
田中 政満
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部
応用技術部 エンタープライズSDNチーム
所属
入社以来無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、及び、提案や導入を支援する業務に従事。
現在はキャンパスセキュリティや自動化に力を入れるなど、エンタープライズSDNのエンジニアとして邁進中。
- 第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞
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