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icPhotonicsを持つ次世代ルータ、Compassの真価
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ビジネス推進本部 第1応用技術部
コアネットワークチーム
高田 聡士
モバイル端末の普及やSNSによるユーザ間のコミュニケーション量の増大、クラウドサービスの利用拡大などにより、通信事業者のネットワーク上を流れるトラフィック量は増加の一途を辿っています。
これに対応するために通信事業者はコアルータの増強・増設を進める必要があるのですが、従来のルータでは構造上の問題により大型化を避けることが出来ず、結果として場所の確保や消費電力の増大が悩みの種となっています。
この問題を解決すべく、小型/省エネ かつ 大容量/高可用性 を実現するルータとして登場したのがCompass社 のルータ「r10004」となります。(単にCompassという場合、Compass社のルータを指します。現在発売されているルータは「r10004」のみであるため、Compassと言うと「r10004」を指している事となります。)
本コラムではこの「r10004」を、その特徴的なアーキテクチャを中心に紹介します。
大容量/省電力を実現したr10004

上の表は、r10004の特徴をまとめたものになります。
r10004は6RUという小型サイズでありながら、双方向800Gbps、最大消費電力 3.5kW という大容量かつ省電力を実現しています。
また、この特徴から従来のルータと比べて容量当たりの電気代が抑制され、さらに発熱量も少なくなるため空調費の削減も達成することができます。
この特徴について分かり易く示した動画がCompass社よりYouTube上に公開されていますので、興味のある方は下記URLよりご覧ください。
Compass-EOS icPhotonics Introduction
https://www.youtube.com/watch?v=sKbxvZAQD2Q
※日本語字幕有り
では、なぜr10004は従来のルータになかった大容量/省電力を実現できたのでしょうか?
その理由は、r10004の特徴的なアーキテクチャにあります。
スイッチングファブリックが無い! r10004のアーキテクチャの新しさ
従来のルータでは、ラインカード同士を接続するためにスイッチングファブリックと呼ばれるミッドプレーン/バックプレーンを使用しています。
このスイッチングファブリックは異なるラインカード上のプロセッサ間でパケットを転送するために必要なのですが、通信速度が上がるにつれて構成の複雑さが増していき、結果として消費電力の増加や装置の大型化を引き起こす要因となっています。

これに対してr10004は、異なるラインカード上のプロセッサ間を直接、光ファイバでフルメッシュに接続するというシンプルなアーキテクチャとなっています。
複雑なスイッチングファブリックを使用しない構成であるため、従来のルータに比べて大幅な省電力、省スペース、低コストを実現しています 。

では、なぜr10004ではプロセッサ間でパケットを転送するのにスイッチングファブリックを必要としないのでしょうか。
その秘密は、Compass社が開発した新チップ「icPhotonics chip」にあります。
最先端シリコンフォトニクス技術の結晶『icPhotonics chip』

Compass 社が開発したicPhotonics chip
引用元:Compass Networks社Technologyトップ画面
従来の半導体(シリコン)チップは電子回路のみで構成されており、当然チップ同士の接続にも電気信号が使われています。
しかしながら、電気信号には周波数や共振の影響により接続距離が伸ばせないという問題があります。
チップ間通信の高速化(広帯域化)を進めるほどこの問題は顕著となり、さらには消費電力も合わせて増大していきます。
この問題があるため、従来のルータでは異なるラインカード上のチップ同士で直接通信を行う事が出来ず、スイッチングファブリックが必要不可欠となっています。

この問題を解決するため、Compass社は電子回路である半導体(シリコン)に光回路を組み込むシリコンフォトニクス技術「icPhotonics」を開発し、そのチップをr10004に搭載しました。
このチップはチップ同士の通信に光を使用するため、従来のチップに比べて接続距離が格段に長く、また消費電力も抑えられています。
接続距離が長くなったことで異なるラインカード上のチップ同士が直接通信を行う事が可能となりました。
そのためスイッチングファブリックを使用する必要はなくなり、r10004のシンプルなアーキテクチャを実現することが可能となりました。


基盤上のicPhotonics chip
チップから直接光ファイバケーブルが出ている
引用元:Compass Electro Optical System「チップ間エレクトロ・オプティカルI/O – 拡張性を実現」
r10004 その他のスペック
前段まででお伝えした通り、先進的なチップと効率的なアーキテクチャにより大容量/省電力を実現したr10004ですが、その他の“ルータとしてのスペック”がどの程度のものなのかが気になるところかと思います。
そこで、以下にr10004の主な仕様・機能をまとめてみました。
HW仕様
- シャーシには最大4枚のラインカードを搭載可能
1slot辺りの転送容量は双方向200Gbps、シャーシ全体で双方向 800Gbpsの転送能力 - ラインカードは20port 10G と 2port 100G の2種類
Transceiver はそれぞれ SFP+ と CFP - 20port 10G ラインカードは、ポート単位で回線種別の選択が可能
(10GE/OC192POS/OTN) - コントロールプレーンの制御カード(CPM)を2枚搭載し、1+1の冗長構成が可能
- FANは2+1の冗長構成が可能
- 電源はDC、2系統の入力をもち冗長構成が可能
- OIR対応
機能・プロトコル
- IPv6対応
- 各種Routing Protocol対応(MP-BGP/IS-IS/OSPF etc.)
- MPLS対応(LDP/RSVP-TE)
- Multicast対応(PIM-SM)
- LAG、ECMP対応
- QoS、Hierarchical QoS対応
- BGP-PIC対応
- Non-Stop Forwarding対応
- MAC filtering対応
これらはスペックの一部ですが、r10004が事業者ルータ/コアルータとして使用されるのに必要な条件を抑えている事がご確認いただけるかと思います。
しかしながら後発メーカという事もあり、先発メーカのルータが持つ機能の全てを実装できているわけではありません。
主なところではNon-Stop RoutingやVPLSなどがこれに当たります。(どちらも今後、実装予定です)
もちろんこれらを含め、機能実装はこれからも進んでいきます。

各種機能検証や相互接続検証を行っています
では、現時点ではr10004をどの様な場面で使えばいいのでしょうか?
r10004の特徴を生かすユースケース
現時点で考えられるユースケースを幾つか挙げてみます。
ケース1:伝送装置との接続
r10004の20port 10G ラインカードは10GE-OTNインタフェースを持つことができます。
そのため伝送装置(DWDM)とのOTNスイッチを置く必要がありません。
この結果、管理対象機器の削減・スペースの削減・CAPEXの削減を実現することが可能となります。
ケース2:BGP Peering
小型/省電力、インターネットフルルートを越えるRIB/FIB容量、BGPの高速切り替え機能であるBGP-PICに対応、といった強みを持つことができます。
ケース3:10G/100G Aggregate
Pure-IP網だけでなくMPLS網でのAggregateも可能です。
L3VPNに加えL2VPN(VPWS)も使用できます。
ケース4:MPLS網 Pルータ
PEルータと比べて必要とされる機能は少なくて済むため、小型/大容量/省電力というr10004の特徴が生きてきます。
ケース5:DDOS対策
r10004には先発メーカのルータに比べてショートパケットの処理能力が高いという特徴があります。
そのため、非常に小さなパケットを大量に送信してくるDDOS攻撃に対して高い耐性を持ちます。
こちらについてはCompass社よりホワイトペーパーが出ていますので、詳細を知りたい方は下記リンク先にてご確認ください。
COMPASS製品のDDOS攻撃に対する耐性
http://compassnetworks.com/wp-content/uploads/Compass-DDOS-white-paper.oxps
5つほど上げさせていただきましたがいかがでしょうか。
現時点でもr10004を使用することでメリットを得られるケースがあることをお分かり頂けたかと思います。
では、この先r10004 そして Compassはどの様な方向へ向かっていくのでしょうか?
将来像 - SDNフォワーディングプレーンとしてのCompass
現在、ネットワークの将来について語る際には必ずと言っていいほどSDNという単語が現れます。
SDNにおいてはルータのコントロールプレーンとフォワーディングプレーンが製品として分離され、フォワーディングプレーンに単純な機能しか持たない機器(White Box)を置くことでコストの削減を図れるとの話があります。
しかしながら、事業者ネットワークにおいてはこれが当てはまらず、フォワーディングプレーンにも転送に対するそれなりの機能、処理能力を持つ機器が必要になると考えられます。
Compassはその拡張性の高いシンプルなアーキテクチャとicPhotonics chip の高い処理能力をもって、事業者ネットワークのSDN フォワーディングプレーンとなる事を目指しています。
これを実現するために、効率的なパケット処理技術の開発やSDN標準プロトコルの実装、処理能力の拡張、他社のSDN controller とのコラボレーションなどを進めています。
まとめ
機能面の充実はこれからの課題ですが、icPhotonics chipがもたらした新しいアーキテクチャはそれを補うほどの利点を与えています。
また来たるべきSDN時代への取り組みにより、フォワーディングプレーン機器として中心的な製品としての地位を確立できるかもしれません。
執筆者プロフィール
高田 聡士
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部 第1応用技術部 コアネットワークチーム
所属
SP事業会社のコアネットワークにNIerとして7年弱携わる
当時の主な担当製品はCisco社のCRSシリーズ
3年ほど前に現部署に異動し、Cisco社含めたハイエンドルータ製品を担当
現在はSP-SDN分野に注力中
- 情報処理「ネットワークスペシャリスト」
- CCIE RS #50857
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