- ナレッジセンター
- 匠コラム
ローカル5GPoC環境を構築してみた-Part1-
---新任エンジニアの勉強記録---
- 匠コラム
- ネットワーク
ビジネス開発本部 第1応用技術部
第1チーム
Ryosunata Suhartono
はじめに
世界各国で5G技術を使ったサービスが展開されるようになりました。日本でも4大キャリアが5G携帯電話のプランを出しております。本連載は、5G技術を民間企業での利用を可能とした制度、ローカル5Gを取り上げています。ネットワンシステムズでは、この制度を活用したいと思った企業に対して、①5G技術がどういうものなのか、②民間企業で扱うにはどういった使い方があるのか、③何に注意しないといけないのか、を探るために検証を実施することにいたしました。企業向けに、新しく自営で運用できる無線通信システムであるローカル5Gは、免許不要の無線局であるWi-Fiとは違って、無線従事者免許取得者が運用し、総務省からの免許を必要とした無線局です。無線通信システムで運用する周波数の使い方に着目した解説もあります[1]。
今回は、基地局と無線端末間の通信方式に着目してみたところ、スケジュール型の通信(ローカル5G)とベストエフォート型の通信(Wi-Fi)の違いに気づきました。本コラムでは、ローカル5Gの活用に向けた検証を担当するエンジニアが学んで得た知見をもとに、スケジュール型の通信とベストエフォート型通信の違いをご紹介し、主にアップリンク(端末から基地局への通信方向)について記載しております。ローカル5Gのダウンリンク(基地局から端末への通信方向)もスケジュール方式となっており、基本的な動作はアップリンクと同様です。Wi-Fiの場合も同じく、アップリンクとダウンリンクでの方式の違いはありません。Wi-Fiの場合は、基地局も端末も独立しているためです。ローカル5G及びWi-Fiの説明は参考資料[2],[3]を参照ください。
図1.スケジューリング型とベストエフォート型
技術的な内容に入る前に、人間の生活でスケジュール型とベストエフォート型を例えた図1を用いてご説明致します。スケジュール型は空港でのトラフィック管理をイメージするとわかりやすいかと思います。ローカル5Gで言う基地局を管制塔に例えて、航空機(端末)の滑走路への侵入をコントロールしているイメージです。ベストエフォート型は、交通制御のない道路にわき道から侵入を試みる乗用車がイメージしやすいと思います。信号がない道路だと、侵入する前にまず道路が空いているかを確認します。そして、空いていれば侵入し、道が空いていなければ、空くまで待ちます。このような動作がWi-Fiと似ていると言えます。
無線区間での通信方式
5GとWi-Fiは両方とも無線を通じたデジタル通信を実現していますが、それぞれ異なる方式を持っていました。最大の違いは、ローカル5Gはスケジューリング型で、Wi-Fiはベストエフォート型と個人的に結論付けています。ローカル5Gの無線区間での通信は、基地局が発言のコントロールを持ちます。基本的な動作として、基地局につながっている端末は基地局が決めたタイミングでしか発信してはいけないといった仕組みとなっています。一方、Wi-Fiは端末の通信タイミングの制御はありませんが、端末同士が協調して発信する仕組みをとっています。
ベースとなる通信の方式を踏まえて、データを発信したい状態から実際に発信する状態に移るまでの仕組みを比較してみます。ローカル5Gの場合、端末は基地局に許可されたタイミングでなければ発信してはいけない仕組みをとっていることがわかります[2]。端末は、データを発信する前に、基地局から受け取った制御信号から、自身に割り当てられた発信タイミングを読み取ります。読み取った情報に合わせたタイミングで発信します。一方、Wi-Fiの場合は、端末が発信する前に、ほかの端末が発信をしていないかを確認します。誰かが無線を発信しているかをあらかじめ受信機で聞き取ることで実現しています。他の端末が発信中でなければ、自身が発信できるといった仕組みです。この方式はCSMA/CAと呼ばれています。詳しくは参考資料[3][4]を参照ください。
ローカル5GとWi-Fiの通信方式でそれぞれの発信制御の特徴を学んだ後、次に、端末の発信の衝突について考えてみました。机上で考えてみて、実際に端末が増えた際にどういった影響が発生するのかをイメージしてみました。複数の無線の端末が同時に通信する必要があった場合、発信タイミング(時間)をずらすか周波数(伝送路)を分けるかの2択が基本となります。もちろん、伝送路をいくつも用意すれば発信タイミングは考えなくてもいいのですが、無線区間での伝送路である周波数は貴重ですので、限りがあります。今回は、伝送路が一つの場合を前提として、時間軸での衝突回避の方法について考えます。こういった条件下で、ローカル5Gのスケジューリング型とWi-Fiのベストエフォート型の比較を図2のように整理しました。
図2.ローカル5GとWi-Fiの発信制御
混雑時の発信
ローカル5Gのスケジューリング型では、各端末に割り当てられる送信時間は基地局が決めることができるため、各端末に特定の期間分の送信許可を与えます。端末は、基地局から与えられた送信可能なタイミングを見計らって通信を開始します。基地局と端末とで送受信のタイミングを同期することで、発信の衝突を回避します。また、必要なリソース分だけをスケジューリングすることが可能なため、無線リソースの効率を上げることも可能となります。ここで言うリソースとは、端末がデータの送信に必要な発信期間を指しています。ローカル5Gの場合、基地局につながっている端末の数が多ければ多いほど、一つの端末に割り当てられるリソースは短くなりますので通信速度は落ちますが、基地局が発信のコントロールを持つため、衝突の可能性は低く保たれます。
図3.ローカル5Gでの混雑時の発信
※各端末が発信要求を伝えるタイミングもコントロールされている
※ブロックは無線区間で各端末に割り当てられる発信期間の単位を表したもの
一方、Wi-Fiの場合は端末がデータを発信したいタイミングは各端末の判断にゆだねられます。大前提として、発信する前には他の端末が発信中でないかを確認します。そこで、発信していた場合、ランダムな間隔をあけてもう一度、聞き取りからやり直します。基地局との同期は行わないため、リトライのタイミングも個々の端末にゆだねられます。端末が増えると、リトライ時の衝突の確率も上がり、これの繰り返しになると考えられます。参考資料[3]に詳細が解説されています。
図4.Wi-Fiでの混雑時の発信
まとめ
このようにローカル5GとWi-Fiの特徴から、享受できるメリットを理解した上で選択することが重要となります。ローカル5Gはスケジューリング型の特徴を持っており、複数の端末の同時通信をコントロールできるシステムとなります。同時通信が発生する可能性の高い環境や、端末が増えた時の発信制御による不安定な状況を発生させたくないシステムで価値を発揮するのだと考えています。しかしながら、ローカル5Gには無線局の運用に免許が必要なだけでなく、運用者にも無線従事者の資格が必要とされます。一方、Wi-Fiの場合は、ローカル5Gと違って、免許も資格も必要ないため、簡単に導入することができます。しかし、ベストエフォート型のため、無線区間でのコントロールがなく、混雑時の通信品質の劣化は承知の上で利用することとなります。どちらを採用するべきなのかは、システムの要件やコストパフォーマンスなどそれぞれのシステムを総合的に見て検討するのがポイントになります。今回のコラムの内容は比較ポイントの一つに過ぎないため、実際にはもっと多くの視点を評価する必要があると言えます。
ネットワンシステムズでは、お客様がどちらの無線システムが最適かを選定する上でのサポートを実施できるよう、PoCに着手し始めております。実機での検証結果をもとに、お客様からのご相談にお応えできるよう努めてまいります。次回のコラムでは、検証で分かったことや本コラムの内容が正しいのかを実機を用いてお知らせ致します。
参考資料
[1]松戸孝,"ローカル5GもWiFiと同じ、皆で周波数共用だよ ~とある技術者から友人A君へ",Net One BLOG,ネットワンシステムズ,2020年7月10日,https://www.netone.co.jp/knowledge-center/netone-blog/20200710-1/ ,参照Sep.24, 2020.
[2] 武田一樹,原田浩樹,大沢良介,柿島祐一,王理恵,王ジュンシン,"5GにおけるNR物理レイヤ仕様",NTT DOCOMOテクニカル・ジャーナル,5Gイノベーション推進室,移動機開発部,ドコモ北京研究所,2018年11月,https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol26_3/vol26_3_008jp.pdf,参照Sep.24,2020.
[3] 溝口匡人,” 多様なサービスの創出を支えるワイヤレスアクセス技術” ,NTT技術ジャーナル,NTTアクセスサービス研究所,2017年2月,https://www.ntt.co.jp/journal/1702/files/jn20170256.pdf,参照Sep.24,2020.
[4] 前原明実,” Wi-Fi技術講座 第3回 Wi-Fiのルール CSMA/CA”, Wi-Biz通信Vol.26,シスコシステムズ, 2018年2月15日,https://www.wlan-business.org/archives/12807,参照Sep.24,2020.
[5] 服部武,藤岡雅宣,“5G教科書”,“LTE/IoTから5Gまで”,標準教科書シリーズ,株式会社インプレス,2019年6月11日 第1版第3刷, https://book.impress.co.jp/books/1118101004,参照Sep.24,2020.
執筆者プロファイル
Ryosunata Suhartono (スハルトノ リオスナタ)
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部
第1応用技術部 第1チーム 所属
キャンパスネットワーク、主にスイッチ製品の提案、導入支援業務を経験。ネットワークだけでなくトラフィック可視化製品も担当し、ネットワークとセキュリティを連携させたソリューションの検証なども経験。現在は、ローカル5Gだけでなく、エッジコンピューティングやP4テクノロジー等最新技術の評価検証業務に従事している。
■第三級陸上特殊無線技士保有
Webからのお問い合わせはこちらから
ナレッジセンターを検索する
カテゴリーで検索
タグで検索