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距離の壁を超えて。NTT西日本とネットワンが示すIOWN APN×AIロボティクスの可能性

労働人口の減少という深刻な社会課題に対し、AIやロボティクスへの期待が高まっています。その可能性を大きく広げるのが、NTTが提唱する次世代ネットワーク構想「IOWN オールフォトニクス・ネットワーク(All-Photonics Network、以下「IOWN APN」)」です。IOWN APNは、従来のネットワークと比べて三つの大きな特長があります。

  • 大容量:非常に多くのデータを一度に送信可能
  • 低遅延:データの到達が非常に速く、遅延が少ない
  • 揺らぎゼロ:通信が非常に安定している

ネットワンシステムズ(以下、ネットワン)は、NTT西日本株式会社(以下、NTT西日本)と共同で、IOWN APNを活用した次世代オートメーションの実験を実施。大阪-福岡間、約600kmという長距離でAIロボットの遠隔制御と、複数のデータセンターに分散したGPUによるAIの分散学習という、大規模な実証実験に取り組みました。

この成果は、日本の未来にどのような革新をもたらすのか。プロジェクトに関わったネットワンの井上 直也、奈良 昌紀、平山 大志、卜部 昌樹が、NTT西日本の小山 晃広氏とともにプロジェクト実施の背景や得られた成果、今後の展望を語りました。

未来のネットワークを見据える姿勢にお互いが共鳴

---まず、今回のプロジェクトが始まったきっかけからお聞かせください。ネットワンからNTT西日本にご相談されたと伺っています。

平山 大志(以下、平山):私と卜部は営業として、NTTグループ様とのビジネスをさらに拡大したいという想いがありました。その中で、日本の社会課題解決にもつながるIOWN APNという巨大なプロジェクトに、ネットワンとして何とか関わっていきたいと考えていました。

平山 大志:ネットワンシステムズ株式会社 西日本事業本部 第1営業部 部長

時を同じくして、当社の技術部門の井上も「IOWN APNにどう関わるべきか検討したい」という強い想いを持っていました。そこで、小山様にご相談のお時間をいただいた。これがプロジェクトの始まりです。

井上 直也(以下、井上):技術者として、IOWN APNの検証を具体的にどう進めるべきか悩んでいました。自社で検証環境を構築するには時間も費用もかかりますし、投資対効果を考えると気軽に「やります」とは言えません。しかし、技術的なキャッチアップは急務でした。

井上 直也:ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部 応用技術部 部長

卜部 昌樹(以下、卜部):そのことを小山様にご相談したところ、「当社の環境を提供しますよ」と言ってくださったのです。まさに“渡りに船”でした。

卜部 昌樹:ネットワンシステムズ株式会社 西日本事業本部 第1営業部 第2チーム マネージャー

---NTT西日本としては、ネットワンからのご相談をどのように受け止めましたか?

小山 晃広氏(以下、小山氏):netone valleyで井上さんと初めてお会いした際、将来のネットワークについて活発なディスカッションを行い、新しいアイデアの創出に繋がりました。特に、井上さんの考え方が非常に面白いと感じたのを覚えています。

小山 晃広:NTT西日本株式会社 技術革新部 IOWN推進室 担当部長

NTT西日本は事業会社として、NTTグループが生み出したIOWN APNの技術を活用したビジネスモデルを確立し、社会に実装していくという役割を担っています。これまで当社では、IOWN APNを軸に数々の実証実験を行ってきましたが、正直なところ「ネットワークだけではビジネスにならない」という壁を感じていました。

---ネットワークだけでは難しいとは、どういうことでしょうか?

小山氏:IOWN APNはあくまでネットワークの「基盤」です。この基盤の上で、どのようなアプリケーションが動くのかが社会への実装では重要になります。私たちはネットワークレイヤーやコンピューティングレイヤーの領域で、分散データセンターなどの検証も進めていました。しかし、それだけではまだ足りない。お客様にとっての本当の価値は、アプリケーションレイヤーにIOWN APNをどう活かせるかにあると考えたのです。

その点、ネットワンはネットワーク技術はもちろん、サーバーなどのコンピューティング技術、そしてAIロボットというアプリケーションまで一気通貫で技術力を持っています。これだけのアセットを持つネットワンは、私たちにとって非常に魅力的な共創相手でした。

だからこそ、ネットワンから相談を受けた時、「これは面白いことができそうだ」と直感し、共同プロジェクトの実施を決めたのです。

600kmの壁。「動かないロボット」と「数千時間のAI学習」問題

---今回のプロジェクトは、NTT西日本の3拠点―大阪京橋のQUINTBRIDGE、大阪・堂島、福岡・博多―にまたがる、「分散クラスタ型AI基盤」を構築したと伺っています。その上で、京橋拠点のロボットアームの操作データを学習させ、他の2拠点のロボットを遠隔で操作するというものでした。

このプロジェクトにおいて、両社はどのような目標を設定しましたか?

井上:最終的なゴールは「AIロボットが動いたら良い」という大きな目標を設定しました。通常、共同実験では細かい数値目標を設定し、仮説検証を繰り返すことが多いのです。しかし今回、弊社にとってIOWN APNの実力値は未知数でしたし、NTT西日本様から見てもAIロボットの挙動がどうなるかがわかりませんでした。そのため、まずはお互いの技術を持ち寄って、どのような結果になるかを見ようと考えたのです。

小山氏:当社としては、ネットワークとコンピューティングの領域での実証実験を重ねていたので、IOWN APNでどこまで・何ができるかはある程度わかっていました。そのため、ネットワンが持ち込むAIロボットを、大阪から約600km離れた福岡のGPU(画像処理半導体)に接続したとき、性能がどれくらい劣化するのか非常に興味がありました。

どれほど優秀なネットワークであったとしても、拠点間の距離に応じて遅延は発生します。完全に遅延がゼロの魔法の回線は存在しません。しかし、AIロボットが実用レベルで動くだけの品質は、当社のIOWN APNにあるという自負があります。

距離によるロボットの性能劣化が10%〜20%の低下で済むなら、十分ビジネスになる可能性があります。しかし、性能低下が50%以上であれば、実用化は難しいでしょう。ネットワンとの共創で、その境界線を見極めたいと考えていました。

---それぞれの思惑がある中、プロジェクトは順調に進んだのでしょうか?

井上:いいえ。プロジェクト開始初期の段階で、遠隔拠点のロボットが全く動かないという事態が発生しました。具体的にいうと、堂島のAIロボットは基準をクリアしましたが、福岡拠点のロボットは一切動作しなかったのです。

奈良 昌紀(以下、奈良):私は実際に検証を担当しましたが、ネットワーク越しの分散データセンターという構成での検証は初めての経験でした。IOWN APNという高品質のネットワーク環境があれば、距離が離れていてもローカル環境と同じようにロボットは動くはず。そう考えていたのですが、現実は甘くなかったです。

奈良 昌紀:ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部 応用技術部 クラウドアプリケーションチーム マネージャー

---その状況を、小山様はどのようにご覧になっていましたか?

小山氏:私は内心、「狙い通り」と思っていました(笑)。私たちが提供した大阪-福岡間のネットワークは、現時点で国内最高品質のものであると自負しています。このネットワークで動かなければ、他のどのネットワークを使っても絶対に動かないでしょう。

ですから、私たちはネットワーク側のチューニングは一切していません。仲間であると同時に「ネットワークへの挑戦者」という視線で、ネットワンの動向を注視していました。「この最高の環境でロボットをどう動かすか?」と。

奈良:実際に起きた問題として、AIモデルの学習に膨大な時間がかかるというトラブルが発生しました。今回は、人間がロボットアームを操作し、その動きをAIに学習させる「模倣学習」を採用しており、この学習にはGPUを用いた処理が必要となります。

プロジェクトでは3拠点同時にこの学習を実行させたところ、当初は6時間ほどで完了するはずだった処理に、数千時間かかるという試算結果になりました。

このままでは現実的に使うことはできません。社内ではデータセンター間の距離を意識した検証はしてこなかったので、長距離ネットワークがAIの学習処理に与える影響が、これほど顕著に現れるとは思いませんでした。

距離の問題を技術でカバーして実現した「90%」の性能発揮

---ここからどのようにして立て直したのでしょうか?

井上:「ロボットが動かない」という現実を突きつけられ、一度機器を持ち帰り、原因究明と対策にあたりました。そこからトラブルシュートを重ね、仕組みを大きく変えました。

今回、私たちの重要なタスクの一つに「ロボットをネットワーク化する」というものがありました。まさに長距離ネットワーク環境でロボットを安定して動かすための、技術的なチューニングを徹底的に施したのです。そして再度、現地に持ち込みました。

奈良:私が担当した分散学習の課題については、リモートで検証を進めました。まず、データセンター間の距離がボトルネックになっていることは明らかでしたので、その影響をいかにして解消するか、NVIDIA社が提供しているさまざまな技術情報を徹底的に調査しました。そして、AIの学習処理におけるデータ転送の仕方や同期の取り方を、最適化する対策を一つひとつ施していきました。

その結果、最終的には福岡拠点のロボットを、IOWN APNを介さないローカル環境の単一データセンターで動かしたロボットと比較して、約90%の性能で動かせたのです。

---「まったく動かない」という状態から大きな飛躍ですね。プロジェクトを終えた感想を聞かせてください。

井上:約1ヶ月という短いプロジェクト期間でしたが、非常にエキサイティングで、充実した期間でした。

奈良:IOWN APNという高性能なネットワークであっても、アプリケーションを動かすには、技術的な考慮やチューニングが必要であることを身をもって学びました。今回の検証を通じて、長距離・低遅延ネットワーク環境におけるAIシステムの勘所といった、極めて重要なノウハウを獲得できたと考えています。

小山氏:本当に素晴らしい結果だと思います。ネットワンの技術者の方々が、私たちの予想を超える形でこの課題を解決してくれました。約600kmの距離で動いたということは、それより短い距離であれば問題なく動くということ。

この事実がわかっただけでも、このプロジェクトは非常に価値のある成果を残せました。

共創による課題解決で社会実装の実現へ

---今回の実証実験の成功は、社会にどのような価値をもたらすのでしょうか。

小山氏:最も大きな成果は、遠隔地にあるGPUをわずかな性能劣化で利用できると証明できたことです。これは「GPUを共有できる未来」を示唆しています。

通常、AIロボットを導入する場合、その工場や店舗ごとに高価なGPUサーバーを設置する必要があります。しかし、今回の技術を使えば、データセンターに集約されたGPUを、西日本エリアの様々な場所から共有して利用できます。ユーザーが1か所に収容できるため、結果的に一人当たりのコストを劇的に下げられる可能性があるのです。

---それは、AIやロボットの普及を大きく後押ししそうですね。

小山氏:日本の大きな課題である労働人口の減少は、特に地方で深刻です。そうした現場にAIロボットを導入したくても、コストが見合わなければ普及しません。ロボットで自動車製造を完全自動化できても、価格が従来の3倍になっては意味がないのと同じです。

GPUをみんなで共有し、安価に使えるようにする。この仕組みを構築することで、製造業や小売、医療といった様々な現場の生産性向上に貢献できると想います。今回の実験は、そのための大きな一歩になったと確信しています。

井上:私も、ロボットがもっと身近になる世界へのスタートラインに立ったと感じています。アプリケーションが普及しなければ、IOWN APNのような素晴らしいネットワークも普及せず、価格も下がりません。逆に、ネットワークが整備されなければ、アプリケーションも広まらない。

今回はその両輪を組み合わせることで、「ネットワークとロボットでこんなことができるのだ」という可能性を示すことができました。この事実が、経済性の伴う次世代オートメーションの社会実装につながれば嬉しいです。

---この成果をビジネスにつなげていくための、今後の展望をお聞かせください。

井上:次のステップは、具体的な課題感をお持ちのお客様を交えた、「3社での取り組み」を見据えています。そこで初めて、今回実証した技術が持つ本当の価値が明確になるはずです。

小山氏:今後の展望については、技術とビジネス、両方の側面から考える必要があると思っています。

まず技術的な観点ですが、今回の大阪-福岡間での成功に満足していてはいけないと考えています。インターネットがそうであったように、技術は日本国内に閉じていては発展しません。将来的には、例えば電力需要の観点から、国境を越えて海外にあるGPUを利用したり、日本のGPUを海外から利用する時代が来るかもしれない。

そうなった時を見据え、福岡から北海道へなどさらなる長距離通信にも挑戦していくべきです。もちろん距離が伸びれば性能は低下するでしょう。もしかしたら50%まで落ちるかもしれませんが、その制約の中で何ができるのかを考え実行するという、技術的な挑戦を通じて、新たな価値を生み出せると考えています。

ビジネスの側面では、先ほど触れた「コスト」が最大の課題です。今回の実験は、高価なネットワークと高価なGPUを使い、高価なAIロボットを動かすという内容でした。しかし社会実装を本気で目指すなら、あらゆるレイヤーでのコスト削減が不可欠です。

私たちNTT西日本は、IOWN APNというネットワーク基盤をいかに安価に提供できるか。そしてネットワンは、多様なベンダーとの関係を活かしてGPUのコストをどう下げるか。この二つをクリアして、技術とビジネスの両輪で壁を突破できれば、次世代オートメーションは一気に普及していくでしょう。

当社とネットワンは、ビジネス上で競合する部分はありつつも、それ以上に連携できる要素をお互いに持っています。2社の強みを活かした共創をこれからも続けることで、社会に新たなソリューションを提供できることを期待しています。