先日公開した【前編】では、生成AIがサイバー空間から物理空間へと進出する「フィジカルAI」の衝撃と、仮想空間での学習を現実のロボットに適用する「Sim-to-Real」の進化についてお届けしました。ソフトウェアを更新するだけで現場の機能が柔軟に変わっていく未来は、もはや遠いSFの話ではありません。
しかし、どれほど優秀な自律型ロボットが開発されても、それを企業の現場に導入し、安全かつ安定して稼働させるためには、越えなければならない大きな「壁」が存在します。自律的に物理世界を動き回るロボットを制御するためには、従来のオフィスやデータセンターの常識を超えた、強靭で全く新しいITインフラが不可欠となるからです。
【後編】となる今回は、フィジカルAIを社会実装するために企業が全社で備えるべき「次世代ITインフラの要件」について深掘りします。途切れにくいネットワークの構築や物理的な安全(Safety)の担保といったインフラ・セキュリティ面の課題、AI時代に日本の「現場力」をどう継承していくのかという人とテクノロジーの関わり方について、模倣学習を用いた自律型ロボットの検証や、フィジカルAI技術の社会実装に向けた取り組みを推進する伊藤と、シリコンバレーに駐在し、スタートアップの発掘、市場調査などの業務に従事する猪子に引き続き話を聞きました。
目次
ビジネス実装の壁:全社で備えるべき「次世代ITインフラ」の要件
---前編で伺った内容は非常に夢のある話ですが、実際に自律型ロボットが数十台、数百台と企業に導入された場合、企業のITシステムにはどのような影響があるのでしょうか?インフラ要件やセキュリティはどう変わりますか?
伊藤:最も大きく変わるのは優先順位です。従来のITシステムでは「セキュリティ(情報漏洩やデータ保護)」が最重要視されてきましたが、OT(物理世界)が絡むフィジカルAIでは「安全(Safety:人命や身体の保護)」が一段上に来ます。 ロボットのネットワークが切れ、誤作動を起こせば、従業員への危害や重大な物理的事故に直結するからです。その上で、サイバー攻撃への対策も不可欠です。仮にセンサーの数値が外部から意図的に改ざんされれば、ロボットは異常な挙動を示します。攻撃の対象がサーバーから現場のエッジ端末、ロボットそのものへと拡大するため、エンドツーエンドでの防御が求められます。
---ネットワーク基盤そのものにも変革が求められそうですね。
伊藤:はい。工場内を動き回るロボットが増えるため、有線ではなく「無線ネットワーク」の重要性が極めて高まります。ローカル5Gや最新のWi-Fi規格など、屋内外を問わず広帯域で高信頼な無線インフラが必要です。 しかし、大前提として「無線は本質的にいつか途切れる可能性があるもの」です。そのため、「絶対に切れない無線」を目指してインフラを設計・運用すると同時に、万が一通信が途切れた際に「エッジ(ロボット側)でどう自律制御し、安全に停止・あるいは継続稼働させるか」というアプリケーション側の設計もセットで考える必要があります。
猪子:将来的な展望として、ロボット同士が直接通信し合うメッシュネットワークのような構成も考えられます。そうなると、障害発生時のトラブルシューティングは格段に複雑化します。「ノートPCを持ってオフィス内を歩き回り、アクセスポイントを調べる」という従来のやり方では太刀打ちできません。 これからの企業インフラを支えるためには、情報システム部門が持つ「IT・ネットワークの知見」と、生産技術部門が持つ「OT・現場の知見」が、互いの領域に一歩踏み出し、歩み寄りながら共通の基盤を創り上げることが必要不可欠ではないでしょうか。
---物理的なインフラや組織体制の課題が見えてきましたが、一方で「現場で働く人間」の技能や役割についてはどうお考えですか。AIに任せる領域が増えることで、人間の力が弱まってしまう懸念はないでしょうか。
伊藤:まさにそこは、長期的には非常に重要な懸念事項です。これまで日本の「現場力」は、不良率の『最後の数パーセント』を職人技や鋭い感覚で埋めることで、世界最高水準の品質を維持してきました。しかし、この微細な調整を安易にAIへ委ねてしまうと、長期的には現場の技能が劣化し、結果として品質が相対的に下がってしまうリスクがあります。だからこそ、単に「AIがそう判断したから」とブラックボックス化させない仕組みが不可欠です。ベテランが持つ暗黙知を言語化・データ化して後世に残しつつ、AIがなぜその判断を下したのかという根拠を提示する「説明可能なAI(XAI)」を制御に組み込む必要があります。
熟練のナレッジに裏打ちされた意思決定のプロセスを、AIと共に継続・進化させていく。単なる自動化ではなく、「人の知恵」をテクノロジーで増幅させることが、フィジカルAIを真にビジネスの武器にするための条件になるはずです。
次世代インフラを実機で体感。フィジカルAIのビジネス実装を加速させるには
---ここまでの話で、フィジカルAIの実装には、優れたロボットだけでなく、それを支える強靭なITインフラと知見の融合が不可欠だと分かりました。この社会実装を加速させるために、我々ネットワンシステムズは現在どのような取り組みを行っているのでしょうか。
伊藤:我々の取り組みは大きく三つの柱に分かれています。「最新の先端技術の実装」「グローバルトレンドのリサーチ」、そして「ロボットへの付加価値創出」です。 世界的に多様なロボットによる実証実験が進む中、我々は今後、日本の優秀なロボットベンダー様や、これまで現場を支えてきたFA(ファクトリーオートメーション)パートナーの皆様と戦略的に連携したいと考えています。ITインフラのプロフェッショナルである我々と、現場のプロである皆様の知見を掛け合わせ、日本独自の強みを持ったフィジカルAIのモデルを「共創」していくフェーズにあります。
猪子:海外のスタートアップはとにかく動きが速く、「まずは動かしてみる」という文化があります。社会実装を見据えて、リスク・倫理に対する規制やガイドラインを注視しつつ、適切な安全配慮を行った上で、実際の現場データを使って素早くPoC(概念実証)を回すことも重要だと考えています。我々は現場のデータを持っているわけではないので、ビジネス課題とデータを持つお客様やパートナー企業様と一緒にロボットを動かし、共に価値を創出していきたいと強く願っています。
---最後に、そうした「共創」の場として、弊社のイノベーション施設「netone valley」について教えてください。読者の皆様がここを訪れることで、どのような体験やメリットが得られるのでしょうか?
伊藤:「netone valley」は、ローカル5Gをはじめとする多様な無線帯域など、フィジカルAIを動かすために必要な「最新の次世代インフラ環境」を備えた、ロボット検証に最適な施設です。 企業の皆様がお持ちの現場のデータ、あるいは機器やソフトウェアをこの施設にお持ち込みいただき、最新のヒューマノイドロボットやインフラ環境と組み合わせて、すぐに実証実験を行うことができるプロジェクトルームも備えています。海外ベンダーが日本で検証を行う際のハブとしても機能し始めており、ここを「日本のフィジカルAI最前線」と呼べるような場所にできたら良いなと考えています。
※過去に実施したプロジェクト事例
Local5Gを活用した四脚ロボットの遠隔操作・映像伝送実証実験
フィジカルAIは、企業のビジネスモデルもインフラのあり方も根底から覆す大きな波です。 この波を乗りこなすための次世代ITインフラの設計、および自律型ロボットを用いた業務改革のPoCにご興味をお持ちのITリーダー・ビジネスリーダーの皆様。ぜひ一度、弊社の「netone valley」へ足をお運びいただき、実機と最新インフラに触れながら、貴社のビジネス課題を解決する議論を始めませんか?
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