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破るべき5つの壁 (5 walls to break)  ~リモート職業体験授業開催に参画して~

ライター:阿部 豊彦
経歴:エンタープライズ系インフラの提案、設計、構築や、SDN提案、
工場IoTネットワークやセキュリティのコンサルなどを担当。
ファシリティ、インフラ、セキュリティなどボーダーレスです。
昨年末から文教フィールドへ参入。

目次

弊社の部門内有志で構成されている「文化醸成ワーキンググループ」の取り組みの一つとして、社会貢献活動にチャレンジすることになりました。選ばれたのが、コロナ禍において多くの中学校で「職場体験」の実施ができない状況が続く中、GIGAスクール構想で構築されたネットワークを利用した「オンラインで企業と子供たちをつなぐ職場体験提供プログラム」への参画でした。

再び、ペーパーなICT支援員が書く勝手な備忘録です。

オンライン職場体験授業

株式会社キャリアリンク様が推進している、オンライン職場体験授業『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』が、経済産業省が主催する「第11回キャリア教育アワード コーディネーター部門」において、「経済産業大臣賞(最優秀賞)」を受賞されました。弊社もこのオンライン職場体験授業『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』に「体験授業の提供」という形で参加させていただきました。

企業と学校の連携・協働プログラム」としての職場体験を、コロナ禍でも可能にするオンライン職場体験授業です。全国の中学生がふだん接しない社会であり、企業であり、社会人との接点を持つことで、さまざまな職業や生き方があり、社会に出るために必要で多様な価値観の育成につながったのかなと思いました。

破った壁はふたつ

この『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』の最大の特徴は、オンラインというデジタル技術を使うことです。「距離」「時間」の問題を完全になくせることです。東京にいながら弊社のようなIT系企業と、南は宮崎県、北は北海道の生徒とリアルタイムにつながることができました。また同時に3校とつながることで、企業と生徒間だけではなく他校の生徒間でもインタービューの共有ができました。一コマという短い時間割の中でしたが、企業の社会で担うべき役割企業で働くために求められる能力、コロナ禍による業務の変化などを伝える中で、「社会」や「職業」について何が必要で、大切なのかを学び、同じ空間と時間を共有することで、多様な大人の職業や価値観に触れることができたのではないかと思います。

また、さまざまな企業がこのOn-Line Meetsに参加することで、地域社会に限定された「業界のジャンル」という壁さえも吹き飛ばしています。

「個別最適な学び」は、教科の壁も時間割も不要

鶴亀算を解く場合でも、絵を描き下ろすのか、表一覧の規則性で考えるのか、面積に置き換えて考えるのか、すべて鶴にした式に乗せてみるのか? はたまたX、Y連立方程式? 場合によっては四輪自動車と二輪バイクのほうがわかりやすい子供もいるはずですし、JALのマークには足がついてません。解き方はさまざまな入り口になっています。どれが入りやすい考え方か、どのくらい時間をかけるべきか、子供によってさまざまでしょう。いくつかのイメージがつながり、腑に落ちた時がスタートです。

能力や、理解の偏りに応じた、学びの多様な選択肢や学び順の柔軟性

どのカリキュラムから始めるか? 子供たちにとっては、それぞれに理解しやすい入口がいろいろあっていいはずです。先行の学びと復習の学びをバランスよく、(ICT利用で)自己管理して進められれば、一日の学校での時間は、自由に使えばいいはずです。

個別最適の学びには、「先行する学び(先取り)」と「復習する学び(学び直し)」があるはずです。先行する学びは、人よりも早くカリキュラムを進める状態です。復習する学びは、新しいジャンルを進めるにあたって必要なカリキュラムを(年次を超えて)巻き戻す状態です。先行する場合でも、復習する場合でも最低限必要な達成基準があればいいはずです。また、先取りしていくことで、上位学年配分のカリキュラムをこなすこともありえます。つまり「部分的飛び級」です。

教科ではなくカリキュラムと書きましたように、得意・不得意などの対象となる「教科の垣根」を取り払って、個別単品のカリキュラムとして分解し、それぞれのカリキュラムの関連性を示して子供たちに提供することでより入りやすい、よりとりつきやすい学習環境となると思います。教科の壁もなく、その教科を時間で区切っている「時間割も不要」となります。子供にも進捗を見える化してゲーム感覚で挑むような「学習の個性化」があってもいいと思います。

教科や時間割の無い、先行と復習の学びが、

関連するカリキュラム群(マイクロラーニング)で提供される個別最適な学び(縦方向)

STEAM教育

This means learning and using the idea that “Science and Technology are interpreted through Engineering and the (social, language, physical, musical and fine) Arts, all based in elements of Mathematics.”

https://steamedu.com/about-us/ (STEAM Education)

科学と技術は、工学と芸術(社会、言語、身体、音楽、美術)を通して解釈されますが、これらはすべて数学の要素に基づくものです。(DeepL翻訳)

つまり、STEAMの全てのELEMENTの基礎にあるのは「Mathematics(数学)」であるとしています。

このSTEAM教育を小学校の授業に照らし合わせると、「国語」だけがうまく該当しません(文学をARTとすれば別だが)。国語は算数の問題を解くにも、社会の問題を解決するにもベースとなる知識であり、素養です。これがないとすべての知識や体験の習得に支障が出ますし、多様な人たちとのコミュニケーションも心配になります。英語も同じです。つまり、国語が基礎、算数がSTEAMを支え、感性や価値観につながるARTではないかと思います。

教科とSTEAMの関連(筆者のイメージ)

教科横断型学習の世界

STEAM教育でベースとなる数学(算数)を中心に科学、技術、工学を統合し教科の壁を取り払い、カリキュラムに分割し、必要な関連性を示し、理解しやすい自由な順序で学ばせ、進捗を子供自身で見える化します。教科に向けられがちな好き嫌いの思い込みをなくすような、教科横断型学習の世界です。(教科の好き嫌いは、「覚えにくい ~ 試験結果が悪い ~ 親に追いつめられる。」の結果では?)

「図画工作」をするために、実はいろいろなことをやっているはずです。テーマが示され用語を調べたり、モノの大きさを測ったり、ロボットのように見せたかったり、社会の中でどんな役割を持ったものなのか?と聞かれたりと「部分的なカリキュラム」の集合体でできています。工作というゴールのために、自然に他の教科の領域もこなしてしまいませんか?

単に図画工作するのはもったいない。国語もSTEAMも小さなカリキュラムとして総動員しましょう。

「協働の学び」には、教室の壁も社会との壁も不要

オンライン職場体験授業『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』は、社会との接点を提供する協働の学びのひとつです。

壁のない教室(Classroom without Walls)

最近、校舎を建て替えに伴い、壁のない教室を実現する学校があるようです。その特徴は、子供の学習進捗や能力や興味に応じて自由に場所を選べること。協働の学びの観点では、学年やクラスを超えて多様な学習形態がとれ、活動ができること。学年の枠を取り払ったグループでの調査・学習もやりやすくなります。また個別最適の学びの観点では、一人PCで学習したり、本を読んだりできます。場合によっては、同じカリキュラムをもう一度聞くことだってできるかもしれません。さらに、移動できることで精神的な圧迫感がなく、いじめが起こりにくいそうです。ただ、先生は、より子供をみて指導・監督(カリキュラムマネージメント)する必要が出てきそうです。

多様な人々や社会とのかかわり

オンライン職場体験授業『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』では、デジタルの力で社会との「協働の学び」の距離も時間も吹き飛ばしました。同じように、目の前にある課題を解くにあたって、教室内外の同級生のみならず、上級生や大人の考えや、高齢者の知恵を広く取り込むために、「教室の壁は不要」、「社会との壁」も不要です。

実際、われわれの会社の中を見てみれば、課や部門による壁の隔たりはなく、社会とは電話やインターネットでいつもつながっています。子供たちを教室に閉じ込めておく必要性は感じません。自由に学んでほしいものです。

公共施設との統合を実現し、

教科室の壁が無い、社会との壁がない、ひろく社会に解放された協働の学び(横方向)

社会との壁を取り払う老朽化対策

令和4年度予算(案)のポイント(文部科学省)P24 公立学校施設の整備 から

令和4年度予算(案)のポイント(文部科学省)より

https://www.mext.go.jp/content/20211223-mxt_kouhou02-000017672_1.pdf

この中の①「新時代の学びに対応した教育環境向上と老朽化対策の一体的整備の推進」に「他施設との複合化・共用化・集約化」が記載されています。これに従い、図書館や老人施設、給食の炊事場などの公共施設を一体化した複合施設とし、社会を構成するさまざまな人々とのコミュニケーションの場にすることで、より効率的に社会との壁をなくせると思います。

社会との壁をなくす、公共施設などとの複合、共用、集約化イメージ

デジタルの力(ICT技術)と5つめの壁

オンライン職場体験授業『キャリアチャレンジデイOn-Line Meets』のようにICT技術を使うことで、「距離」と「時間」の壁をたやすく乗り越えることができました。その結果、広く深い多様な学びにつながっていくことが期待されます。このように、デジタルの力は決して壁ではありませんし、壁であってはなりません。子供たちにも先生にも強い味方になるはずです。ということで、最後の壁は「デジタルの壁」です。

デジタルの壁は、根本的な予算の問題から、アプリの選定、先生の授業へのICTの取り込み姿勢など多くの問題を含んでいると思いますが、子供たちはいつでもスタンバイしていますよ。

(10年に一度の教員免許更新制度もなくなり、先生は都度、ICT研修を含んだオンライン講義を受講し実践していくことになりそうです。誰一人取り残さないは、先生にも適用されます!)

ICTを利活用することで期待される効果

教育でICT技術を使うことで得られる効果は、以下のように「コンピュート(データ操作)」、「通信(コミュニケーション)」、「AIデータ分析」の3つにまとめられそうです。

①データ利活用の高度化
多様な情報の収集、整理・加工・分析・表現することが簡単かつ自由にできるように、情報収集能力や情報活用能力の育成が期待されます。(文書の作成・編集・発表、調べ学習・ドリル学習など)

② いつでもどこでも、だれでも、だれとでも学べる(人の思いが時間と空間を越えられる)
家庭や校外での学び、遠隔授業、他の学校・地域や海外との交流といった、知識の習得への多様性が期待されます。(動画、音声・画像・デジタルデータ等を蓄積または瞬時に送受信できる)また、教室や グループでの皆の考えを瞬時に共有できたり、思考やその過程の可視化と共有ができます。さらに、動画を使うことで体験を、テキストや静止画より「現実の体験」により近い形で、体験の共有ができます。

③新たな教育ICTの利用(一定の教育基準を満たすための支援)
①や②を実施することで得られる学習過程の記録(学習履歴(スタディ・ログ)、健康面の記録(ライフログ))などから、学習の状況を把握・分析、可視化し、それぞれの子供に最適な方法で学ぶことができるようになり、学習の自主性を育てることが期待できます。

①、②はいくつもの壁を越えることを可能にする子供たちが使うアプリの世界です。③はこれから学習履歴を集めて磨かれていく領域です。

4つの壁は、デジタルの力(ICT技術)をふんだんに使うことで壊していけると思います。

最後に、教育のDX

教育のDXが実現すれば、子供たちは、格差なく「誰もが」「どこにいても」「いつでも」「同じように&どのようにでも」教育を受けられるようになるとされています。デジタルの力で今までできなかったことができるわけで、これこそが「教育のDXの神髄」だと思います。また、先生にはペーパーワークの撲滅にともない、基礎データの分析による、より深い指導の可能性などが可能になると思います。

まずはデジタル化、次に教育のDX

紙やFAXのようなアナログな手段をデジタルな手段に置き換えることによって物事が数値化(データ化)されて場所を取らず保管、管理できます。ただ業務をデジタル化してデータをためるだけではなく、共有したり、関連付けしたり、順番付け、検索、分析、分類などをおこない、いかにそこから価値を引き出すかが重要になります。データは宝の山と考えることです。

その結果、今までできなかったことや考えもしなかったことができる「教育のDX」が実現します。それは、個性や資質に応じた学習法の提案や目的に応じた協働環境の醸成、AIドリルやスタディログ、自己進捗管理などたくさんあるでしょう。弊社もデジタル(ICT技術)を提供する会社として支援できればと思います。

「子供たちも先生も、ICT技術を使いこなすことで、学習に不要な5つの壁(5 walls to break)を壊してほしい!」

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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