ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文へ (c)

ここから本文です。

ペーパーICT支援員の仮想教室 ~教育のDXとGIGAスクールテクノロジー編のアンサンブル~ 「見えないWi-Fiテクノロジー ・・業務用無線LAN」編 その2

ライター:阿部 豊彦
経歴:エンタープライズ系インフラの提案、設計、構築や、SDN提案、
工場IoTネットワークやセキュリティのコンサルなどを担当。
ファシリティ、インフラ、セキュリティなどボーダーレスです。
昨年末から文教フィールドへ参入。

目次

(その1)では、「Wi-Fi規格の下位互換維持のため、Wi-Fi5や最新Wi-Fi6でも送信前待ち時間が大きく、送信電波の衝突が起こるとさらに大きな時間を『無通信時間』として浪費するしかない仕組みになっていること。技術的にはMU-MIMO(Multi User-Multiple Input Multiple Output)が使えそうだ。」と話しました。

その2では続きとなる知っておくべき基本的な仕組みを見ていきましょう。

  • 知っておくべきしくみ③ ON/OFFできる高速化技術
  • 知っておくべきしくみ④ 最小データレートとチャネル設計
  • 知っておくべきしくみ⑤ SSIDという無線端末のグループ
  • 知っておくべきしくみ⑥ アンテナ
  • 知っておくべきしくみ⑦ 設定のまとめ
  • Wi-Fi6、7

知っておくべきしくみ③ ON/OFFできる高速化技術

Wi-Fi5にもWi-Fi6にも共通した高速化機能があります。「MIMO」と「チャネルボンディング」です。これもAPと端末の双方で対応できる必要があります。MIMOは(その1)でも触れました。

端末のWi-Fi仕様として「MIMO対応、HT80」、「160MHz/2×2」とか書かれていると思います。これは、「2×2」は送信機2台と受信機2台が(仮想的に)あるMIMO構成が可能であると推測できます。同じチャネル利用(周波数区分)でありながら、通信を2つ同時にかつ別個に行える機能です。2x2であれば2倍の通信ができることになります。4x4であれば4倍です。これは、反射波も独立した通信経路として積極利用するイメージと考えてください。APでは4x4MIMOなどと記されています。

HT80」のHTは、High Throughput =I EEE802.11n(Wi-Fi4)の意味です。基本の20MHz帯域幅のチャネルを4つまで束ねて80MHz幅に対応、「160MHz幅」は8つまでチャネルを束ねて160MHz幅まで対応する802.11nで規格化されたチャネルボンディング機能がある、と推測できます。よく高速道路のレーンが複数ある状態に例えられ、規格上は基本の20MHz幅、に加えて40MHz80MHz160MHzが利用できます。数字が示す通り倍速化されます。製品によっては倍速モード、デュアルチャネルなどと記されていることもあります。

どちらの機能も通信速度を倍速にしますし、同時に使うと相乗効果でもっと早くなります。端末側が対応していれば使いたくなりますが、デメリットもよく示唆されています。MIMOのデメリットはコストや消費電力などがよく言われますが、通信に直結するデメリットはないようです。チャネルボンディングは使う周波数の幅が広いほど、干渉やノイズ、DFSによる影響を受ける確率が上がります。結果、再送信となる確率が上がります。利用環境によるので、40MHz(20MHz+20MHz)で利用してみてどうか? ということになります。ただ、教室の高密度一斉通信環境では、(その1)に書きましたMU-MIMOを試してみてください

知っておくべきしくみ④ 最小データレートとチャネル設計

データレートとは、通信速度のことでAPからの距離が遠くなるにつれて遅くなります。つまり、AP直下が最も早いことになります。教室では天井中央にAPを取り付けることで生徒全員を3,4m内に収めるのがベストですが、工事工数的に時計やスピーカ横にAPがあることが多いと思います。それでも7,8m以内で教室をカバーできます。7,8m以内であれば、生徒全員が最高速かそれに準じた速度で通信できる環境です。

壁超え通信の恐怖・・・だれも得しない壁超え通信

では、何が問題かというと、隣接教室や上下階教室への電波が漏れてしまっていること。この漏れ出た電波に偶然つながってしまう端末や、通信機能ONのまま持ち歩いて通過してきた手前の教室APにつながったままになる端末が出てくること。壁ごしの通信は電波が弱く遅いですし、隣の教室の通信にとっては迷惑ですし、その端末が壁越しに通信している間、その教室のすべての通信は停止した状態になって終了を待ちます。

自教室の端末はすべて、自教室のAPにつながっていてほしい。

そのために、最低データレートを制限します。データレートを制限すると、低速=遠方からAPへ接続できなくなり、高速な通信する近距離の端末しかAPにつながれなくなります。ということで壁超え通信は起こりにくくなくなります。これはAPの送信電力を下げなくても実現できそうなところが味噌です。もう気づかれたと思いますが、APは教室中央(利用者中央)に取り付け、APから強く電波を出すのが最適だと。

逆に体育館のような広い場所では、このような制限はなくして、遠くから遅くてもいいからつながることが望まれる場合もあります。

チャネル設計

空間のチャネルデザインがどうなっているのか? チャネルは、幾度も出てきているように20MHz幅の通信帯域を持ち、異なるチャネルが異なる周波数幅をもち、お互いに影響しないことに意味があります。もし同一チャネルでの通信が近接で発生すると、お互いに干渉の影響を受けてしまいます。(お互いに妨害、つぶしあいをするイメージ)

隣り合うAP間で異なるように計画することを、チャネル設計といいます。APへのチャネルの設定は固定的に設定することもあれば、AP間の全体調和を自動で行われている場合もあります。自動の場合は電波の強さも自動調整されることもあります。チャネルボンディングの場合は、連続する複数のチャネルを1台のAPに設定するので、隣り合わないように設計する自由度が下がります。

知っておくべきしくみ⑤ SSIDという無線端末のグループ

家庭用Wi-Fiルータ(AP)では、SSIDはデフォルト値で設定したまま終わってしまっていることもあります。カフェなんかでスマホをいじっているとたくさんのSSID(Wi-Fiネットワーク)が表示されます。あれです。企業用では端末のグルーピングという意味で使われます。有線LANでのVLANに通じる仕掛けでもあります。

業務用APでは、SSIDを最大16個設定できるものが多く、端末をそのいずれかのSSIDに収容して、セキュリティや通信先の限定などを設定できます。どんなグルーピングになっているのか? どんな端末がそのSSIDに所属するように設計されているのか? 気になりますね。隣り合うAPのSSIDを同じにしておけば、端末を移動してもそのまま次のAPへ自動で接続替えができます。ローミングとかハンドオーバーといいます。また、APごとSSIDを変えておけば、隣の教室に移動したらSSIDを切り替えて接続しなおすことになります。

先生と生徒が分離されているか? いないのか? 生徒は学年ごとにSSIDは分けられているのか? 普通教室以外の図書室. 理科室. 音楽室などの全学年で利用する教室や体育館はどんなSSIDとなっているのか? 防災Wi-Fi(00000JAPAN)には対応している設定なのか? 気になりますね。

このあたり、運用ポリシーを設計構築業者に聞くしか答えはありません。AP単独のSSIDなのか、複数のAPにまたがるSSIDなのか?・・・どのように端末をつかうのかを利用シーンから導くもの。

知っておくべきしくみ⑥ アンテナ

意外に無関心というか、どのように電波が出ているのか目で見えないので無視されているアンテナ。大きく分けて、内蔵アンテナタイプのAPと外付けアンテナタイプのAP2タイプがあります。内蔵アンテナはOMNIといって前方の全方向に万遍なく電波を放射するものが多いです。そのため製品によっては、天井取り付けを推奨しているものもあります。外付けアンテナは、一般的にダイポールアンテナといって直立させたアンテナ軸の周りに水平に電波が広がるイメージになります。水平ドーナッツ型です。

ここで考えたいのは、各教室に設置されたAPの電波は、できるだけ近隣教室に届かないようにすること。例えば、時計と同じ壁取り付けのAPで外付けアンテナが直立していた場合、半分の電波は壁を突き抜けて隣の教室に入り込んでいたり、壁で反射され弱まっていると考えるべきでしょう。電力的に半分無駄な気がするだれも得しない壁超え電波です。

2021-10-22 16_59_27-ICT支援員BLOGPPT.pptx - PowerPoint.png

内蔵アンテナAPは、前方に漫然なく電波が出やすいので天井中央付けで、上階へは弱く漏れるかもしれませんが、上階は別チャネルでAPを設定するチャネル設計がよさそう。

外付けアンテナAPはアンテナの向きもありますが、アンテナからドーナッツ状に電波が出やすいため教室に適合するイメージが弱い。もし壁付けで、集中的に前方に電波を出したいときは、技適にかなった専用アンテナを使うべきです。

知っておくべきしくみ⑦ 設定のまとめ

セッティングとの深いかかわり

つなげば通信できる有線LANや家庭向けWi-Fiとは異なり、教室での学習用端末の使い勝手は、Wi-Fiの設定が大きくかかわってきます。APの取付位置は今更変更できませんが、35人教室になって新たにAPを取り付けるときは、Wi-Fi6対応機を天井中央に取り付けてもらえるよう働きかけましょう。

基本的な設定はもっと多くありますが、最低限の項目をピックアップしてみました。この学校のWi-Fiはどうなっているのか? 気になりますよね?ICT支援員に降りかかる未体験の問題を解決するためにも、ぜひとも設計構築業者とコンタクトすべきです。

ベースラインの把握

ひとクラス40人で全員が一斉に操作したとき、どんな通信挙動が現れるのか? 全員のPC画面が表示され終わるまでに要する時間や、表示できなかったPCの有無を知っておくべき。要するにベースラインの取得です。このベースラインがわからなければ、トラブルなのか? 正常なのか? 改善なのか? 切り分けすら困難になります。

Wi-Fi6、7

最新Wi-Fi6では、スタジアムモードともいわれる多端末通信を効率的にさばけるOFDMA二次変調、教室のような近距離で通信速度アップできる1024QAM一次変調安定通信に寄与するガードインターバルとシンボル持続長の初めての大幅な見直し、TWT(Target-Wakeup Time端末の省電力機能など大きく強化されています。今更ですが、Wi-Fi6がGIGAスクール構想向けです。

IEEE802.11beという規格が将来Wi-Fi7になると言われています。2024年標準化目標となっています。教室のAPの保守期間や耐用年数が終わるころ登場するという、またまた微妙なスケージュールです。IEEE802.11beでは、将来認可されるであろう6GHz帯を利用する前提です。マルチリソースユニット(MRU)、マルチリンク(ML)など、さらなる高密度かつ高速を実現できるとみられています。

+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

イントロ編、教育のDX編へとロールプレイングゲームのように分岐します。

「イントロ ICT支援員」編

「教育のDX・・企業や自治体のDXと同じ」編

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

RECOMMEND