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「なぜ」の手がかりを残したい ― 仕事の背景を、次へつなぐ

「最終的にどうなったか」は残っている。でも、時間がたってから見返すと、「なぜそうしたのか」が分からない。そんな経験はないでしょうか。
前回は、過去の資料や当時を知る人をたどりながら、仕事の背景を現在の関係者へつないだ経験を書きました。今回は、過去に残されていたコメントとAIに助けられた身近な出来事から、あとから判断の背景へ戻るために、何を残しておけるとよいのかを考えてみます。

ライター:園部 真理子
システムエンジニアとして、社内外のシステム開発や保守、提案支援などを経験してきました。近年はServiceNowを中心に担当し、IaCによる自動化にも取り組み始めています。

目次

過去のコメントに助けられた

私が保守に関わっているサービスでは、基盤となるSaaSの定期的なアップグレードに対応しています。対応中の社内チケットを見直していたところ、アップグレード後に状況を確認するため、いったん開けたままにしていたチケットが見つかりました。

私は当時の対応には直接関わっておらず、詳しい経緯も把握していませんでした。そこで、社内で利用しているAIに「このチケットはクローズできる?」と相談してみました。

相談すると、チケットの本文や過去のコメントから確認すべき点が整理され、関連しそうなメールも候補として示されました。残っていた情報を手がかりに、最初からすべてを探し直すのではなく、確認の続きから始めることができました。

ただし、AIが示した情報をそのまま答えにしたわけではありません。クローズの判断に必要なところは、その後に届いていた通知メールの内容を確認し、実際の環境にアクセスして現在の状態を確かめました。そのうえで、確認した内容と判断理由を社内チケットに追記し、クローズしました。

手がかりになったコメントは、AIに参照されることを想定したものではありません。当時対応した人が、そのときの状況や、あとで確認することを書いてくれていたものです。それが時間をおいて見返したときにも、次の確認へ進む助けになりました。

今の状態と、そうなった理由

実際に動いているものを見れば、今どうなっているかは分かります。ただ、なぜそうなったのかは、そこからは見えにくいところです。

現在の状態と、その背景にある情報をたどる様子を表したイメージ

特に処理が自動化されると、その仕組みを意識する機会は少なくなります。そのため、なぜその形になったのかは、時間とともにたどりにくくなることもあるのではないかと思います。

ただ、過去の記録が、そのまま現在の答えになるとは限りません。当時から前提や運用が変わっていたり、検討中の案と最終的に決まったことを見分けにくかったりする場合もあります。

今回のチケットでも、過去の記録を手がかりにはしましたが、それだけで判断したわけではありません。通知メールの内容と実際の環境の状態を確認したうえで、今の条件ではどうするかを考えました。

全部を詳しく残すわけではない

あとから判断の背景へ戻るための手がかりは、必要な分だけ残っていればよいのだと思います。何でも詳しく書き残したり、新しい記録のルールを増やしたりしたいわけではありません。

現在のコードや設定を見れば分かることまで、別の場所へ書き写す必要はないと思っています。すべての検討過程を、毎回きれいに文書へまとめるのも現実的ではありません。

残す情報の量と必要性のバランスを表したイメージ

残しておきたいのは、あとで自分や誰かが見たときに、「なぜこうしたのだろう」「このまま変えても問題ないだろうか」と迷いそうなところです。たとえば、次のような情報です。

  • なぜ、そのように判断したのか
  • そのとき、どのような前提や条件があったのか
  • 何を確認したのか、元の情報はどこにあるのか
  • どのような状態になったら、あらためて確認するのか

上に挙げた情報を、毎回すべて書くという意味ではありません。今回のように、次に確認することや、元の情報への手がかりが少し残っているだけでも、あとから判断の背景へ戻りやすくなることがあります。

参考:システム設計の世界にある「ADR」という考え方

こうした「判断と理由を簡潔に残す」という考え方は、ソフトウェアやシステムのアーキテクチャ設計にもあり、Architecture Decision Record(ADR)と呼ばれています。

「何を決めたか」だけでなく、そのときの状況や検討した選択肢、なぜその案を選んだのかを記録します。ADRには、判断の背景、検討した選択肢、決定内容、理由や影響などを含めることが示されています。

この記事との関係

今回やりたいことは、ADRそのものではありません。ただ、「あとから結論だけを見ても、なぜその判断に至ったのかは分からない」という問題には、近いところがあります。

日々の仕事でも、すべてを正式な文書にするのではなく、重要な判断について「なぜ」を残す。このくらいの考え方なら、取り入れられそうです。

参考情報

遠回りしないために

以前のコメントに助けられたので、今回確認したことも、今後似たような対応をするときに参考にできるよう、判断理由とあわせて記録に残しました。

この記録をあとから参照するのは、別の担当者かもしれませんし、内容をすっかり忘れた自分自身かもしれません。誰かがAIに相談したときに、AIが関連する情報を探すための手がかりになることもあるかもしれません。

残された情報を手がかりに次の確認へ進む様子を表したイメージ

すべてを詳しく残すのではなく、あとで判断に迷いそうなところに、元の情報や判断理由へ戻るための手がかりを残しておく。

そうすることで、背景となる情報が足りないために、同じことを最初から調べ直したり、判断に迷ったりすることを、少しでも減らせたらと思います。


※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。
組織・製品等の名称は執筆時点のものです。

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