関わる人や役割が変わる中で、仕事を組織として続けていくために、これまでの背景や判断の経緯をどう引き継いでいくか。
この記事では、特定の組織変更そのものではなく、私たちが担当する一つの業務を通じて、仕事の背景や経緯を関係者と共有し、次へつないでいこうとしている過程を紹介します。
- ライター:園部 真理子
- システムエンジニアとして、社内外のシステム開発や保守、提案支援などを経験してきました。近年はServiceNowを中心に担当し、IaCによる自動化にも取り組み始めています。
目次
この話は、今後の進め方について気になっていたことを、同じ仕事を担当している同僚に話したところから始まりました。
話を聞いた秋間さんの視点も交えながら、仕事の背景を整理し、関係する人たちと共有していった過程を振り返ります。
「これ、次の体制になったら、どうなるんだろう…」
そう思ったときも、目の前の仕事は普通に回っていました。
問い合わせが来れば対応する。製品のアップデートがあれば影響を調べる。定期的なアップグレードもあれば、不具合が起きたときの確認もあります。関係する人への連絡や調整も、それまでどおり続いていました。
自分が担当している範囲は、その都度整理してきたつもりです。それでも、関わる人や役割が変わっていく中で、この仕事を今後どう続けていくのかを考えると、少し気になることがありました。
作業はできる。
でも、今後の進め方は誰と相談すればよいんだろう。
日々の作業を続けられることと、仕事を続けるために必要な判断ができることは、同じではありません。
ただ、その違いは、仕事が普通に回っている間はあまり見えませんでした。

「あの件」で通じていた
以前は、この業務の経緯を知る人が周りに何人もいて、何かあれば相談しながら進められていました。そのため、最初から細かく説明しなくても話が通じました。
「去年のあの流れを踏まえると、今回はこっちの方がよさそうじゃないです?」
「あー、そうですね」
「じゃあ、そっちでいきましょう」
もちろん、自分が関わる前のことまで、最初から分かっていたわけではありません。必要になれば、残っている資料を見返したり、当時を知る人に聞いたりしながら、その都度経緯をたどっていました。
私以外にも、これまでの経緯を知り、技術的なことを相談できるメンバーがいます。今も相談しながら仕事を進めています。
ただ、この業務に関わる人や役割は変わっていきます。特定の人が背景を知っていることだけを前提にはできません。
関わる人が少しずつ変わっても、変化が小さいうちは、必要なことを引き継ぎながら対応できていました。
小さな変化へその都度対応するうちに、自分が扱う範囲や、説明する経緯も少しずつ広がっていきました。気づけば、自分が直接関わる前のことまで説明する場面が増えていました。
それでも、毎日の仕事は止まりませんでした。
一つひとつの変化には対応できていたからこそ、全体として何が変わっているのかは、かえって見えにくかったのだと思います。
「このままで大丈夫なのかな」と、前から薄々思っていました。
それでも日々の対応は続いていたので、きちんと整理するタイミングをつかめずにいました。
ただ、変化が重なる中で、いよいよこのままにはしておけないと思いました。
「これ、誰かとちゃんと話しておいた方がいいのでは」
まず、同僚に話してみた
誰かと話した方がよいと思ったものの、その時点で分かっていたことは、まだ限られていました。
この業務に関わる人や役割が変わりそうだということは見えていました。ただ、状況が動いている途中でもあり、何がどこまで変わるのか、私たちにどのような影響があるのかまでは分かりませんでした。
詳細が分かるまで、今までどおり仕事を続けるだけでよいとも思えませんでした。
そこで、秋間さんにチャットしました。
「なんか、この先どうなるのかよく分からないんだけど、どう思います?」
一度のやり取りで話がまとまったわけではありません。新しく分かったことがあれば、その都度共有し、こまめに話しました。
「この仕事のこと、誰と一緒に考えたらいいんでしょうね」
「ここまで説明しないと、何が気になっているのか伝わらないかも」
分かることが増えるにつれて、それまで見えていなかったことや、新たに確認したいことも出てきました。
長くこの業務に関わっていると、実際の作業だけでなく、過去の経緯や関係する人との調整についても聞かれることが増えます。
説明しないと伝わらない。だから、説明はします。
でも、経緯を知っていることと、仕事の今後を決めることは別の話です。私たちだけで抱えず、関係する人と一緒に考えた方がよいとは感じていました。
一人で考えているうちに、自分が気にしすぎているだけなのか、それとも誰かと話した方がよいことなのか、だんだん分からなくなっていました。
秋間さんと何度も話すうちに、自分の中にあった引っかかりが少しずつ整理されていきました。一人で考え続けずに済んだことも、大きかったです。
最初の相談を聞いて
最初に話を聞いたときは、ここまでいろいろな立場の人と一緒に考えていくことになるとは思っていませんでした。その時点で分かっていた範囲では、「そういうものなのかな」と受け止めていたところもあります。
その後、新しく分かったことを園部さんから聞き、何度か話しているうちに、別々に見えていたことの関係が少しずつ分かってきました。最初は気にならなかったことにも、引っかかるところが出てきました。
今後について考えた方がよさそうだということは見えてきましたが、どこから整理し、まず誰に話すのがよいのかは、すぐには分かりませんでした。そこで、二人で話しながら、何を確かめ、誰に相談するかを考えていきました。
背景を確かめた
ほかの人へ話すにしても、私たちが覚えていることだけで話を進めるのは少し違います。
残っていた情報を確認し、以前この業務に関わっていた人にも話を聞きました。
ただ、それですべての経緯が分かったわけではありません。それぞれの立場から見えていたことを聞き、私たちが持っていた情報とつなぎ合わせていきました。
確認を重ねるうちに、関係する人へ何を伝える必要があるのかが、少しずつ見えてきました。
ただ、確認できたことをそのまま並べても、背景を同じように共有していない人に伝わるわけではありません。

分かっているだけでは、うまく伝わらない
私たちにとっては当たり前になっていることでも、これまでの背景を詳しく知らない人には、分かりにくいことがあります。
- 何が決まっていて、何がまだ決まっていないのか。
- 今できていることと、今後に向けて考える必要があることは何か。
- 誰と何を一緒に考えたいのか。
事情を知っているほど、つい前提を飛ばして話してしまいます。反対に、これまでのことを全部説明しようとすると、情報が多すぎて、結局何が問題なのか分かりにくくなります。
秋間さんとは、これまでの背景を詳しく知らない人にも、今の状況や気になっていることが伝わるよう、足りない前提を加えたり、細かすぎる話を外したりしながら、説明の流れを整えました。
ここで整理したかったのは、私たちの考えを正しいと思ってもらうための説明ではありません。
今の状況を知ってもらったうえで、何を一緒に考えたいのかが伝わるようにするための説明でした。
伝わる形にするまで
複数の仕事にさまざまな立場の人が関わっていたため、最初は何を軸に整理すればよいのか迷いました。人で分けるのか、仕事や時期で分けるのかによって、見え方も変わります。
そこで、まず関係する人や出来事を洗い出し、これまでの経緯を時系列で並べました。そのうえで、今の状況だけでなく、今後どのような点を考える必要がありそうかも整理しました。
確認できたことと、これから一緒に考えたいことを分け、限られた時間でも伝わるように、内容と順番を整えました。
話したことで、人がつながり始めた
秋間さんと話しながら、今の業務やこれまでの背景、気になっていることを、早い段階から上司にも共有していました。
一緒に仕事をするようになったばかりの上司へ、複雑な背景を最初から説明することには、少しためらいもありました。まだ結論のない話を持ち込んで、面倒な話を増やしていると思われるかもしれない、とも考えました。
それでも、話してみると状況を受け止め、私たちとは違う角度から整理してもらえました。今後一緒に考える必要がある人たちへ、何をどう伝えるかについても、具体的に相談に乗ってもらいました。
そこから話を受け取った人も、これまでの背景を確認しながら一緒に考え、さらに必要な人へつないでくれました。
背景を説明するには手間がかかりましたが、少なくとも今は、最初に一人で考えていた頃とは違います。一緒に考えてくれる人がいます。
私たちだけで考えていた話が、少しずつ、ほかの立場の人とも一緒に考える話へ変わってきました。

業務に関わる人や体制が変わっても、必要な判断や対応は続きます。その先には、私たちのサービスやソリューションを利用してくださるお客様がいます。
だからこそ、私たちだけで何とかしようとせず、必要な人と一緒に考えられる状態にしておきたいと思いました。
とはいえ、これから誰が何を担うのか、この仕事を今後どうしていくのか、すべてが決まったわけではありません。
まだ途中です。
何も起きていないうちに
日々の仕事が回っていると、問題はないように見えます。問い合わせには答えられる。保守もできる。アップグレードも進められる。
だからこそ、日々の仕事の後ろにある背景や、今後を誰と考えていく必要があるのかは、外からは見えにくくなります。
もし、仕事は普通に回っているのに、「この仕事のことは誰と相談すればよいんだろう」と少しでも気になっていることがあるなら、まずは誰かに話してみてもよいのかもしれません。
最初から問題をうまく説明できなくても、答えまで持っている必要はないのだと思います。
私たちも、「なんか、この先どうなるのかよく分からないんだけど、どう思います?」と話したところから始まりました。
組織図だけでは、仕事は切り替わりません。
関わる人や立場が変わっても、目の前の仕事は続きます。仕事をこれからどう扱うのか、という話も残ります。
何かが起きてから初めて話すのではなく、まだ普通に回っているうちに話しておく。
この先の変化に向けて、現場で続いている業務を一つずつ確かめ、これまでの背景を次へ渡せるようにしておく。
そういう仕事もあるのだと思います。
次回は、仕事の背景や判断の経緯を、人やAIがあとから使える「コンテキスト」として残すにはどうしたらよいか、もう少し考えてみます。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。
組織・製品等の名称は執筆時点のものです。