生成AIからフィジカルAIへ技術が進化しビジネスが加速する中、土台となるネットワーク運用は未だ「人海戦術」のままではないでしょうか。
「通信量が増えるから帯域を拡張しよう」。数年先を見据えたインフラ刷新において、そんな旧来の構想は致命的な機会損失を生みかねません。AIがミリ秒単位で自律的に通信し合う未来に必要なのは、単なる“土管の拡張”ではなく、インフラ自身が思考し対処する「自律化」です。
本記事では、手動運用の限界を紐解きながら、AI時代を勝ち抜く次世代インフラの要件について、弊社のエキスパートである赤坂と柏谷に話を聞きました。
今回のインタビュイー
ネットワンシステムズ株式会社
ビジネス開発本部 イノベーション推進部 ビジネス開発チーム
柏谷 知美
ICTの未来をお客様とともに描き、AIOpsなど先端技術で自律型ネットワークの実現を支援する
このブログでわかる3つのポイント
- 生成AI/フィジカルAIの活用が進む中で、従来の手動中心のネットワーク運用が抱える構造的な課題
- AI時代に求められるネットワークの在り方と、「自動化」から「自律化」へ視点をシフトする重要性
- 次期ネットワーク刷新を検討する際に、帯域拡張だけに頼らず、ビジネス要件から設計を考えるための考え方
目次
はじめに:既存のネットワーク運用が迎える「構造的限界」とビジネスへの足かせ
---現在、多くの企業で情報システム部門(以下、情シス部門)の方々がネットワークの運用管理に課題を抱えています。最前線で企業インフラを支援する専門家の立場から見て、既存の手動を中心とした運用モデルが「限界を迎えつつある」と感じる構造的な要因はどこにあるのでしょうか。
赤坂:まず一つ目の大きな要因は、「開発スピードの劇的な加速」です。これまで、社内で新しいプロジェクトが立ち上がる際、ネットワーク要件が定義されてからインフラ構築までに半年ほどかけるようなスピード感が一般的でした。しかし、今は「1週間後に機能をローンチしたい」といったスピードでビジネスが動いています。
---なるほど。競合他社が1週間でサービスをリリースしているのに、自社のインフラ構築に半年かかっていては、完全にビジネスの機会損失になりますね。
赤坂:おっしゃる通りです。これを「攻めのDX」と呼ぶならば、ネットワーク運用がそのビジネススピードに追従できなければ、企業の競争力は低下し、市場で負けてしまいます。
一方で、「守り」の観点でも限界が来ています。最近はあらゆるシステムにAIが組み込まれるようになりましたが、AIの動作は時に人間の予想を超えます。「AIの通信をどう制御し、セキュリティを担保するか」「AIの動作をどう制限していくのか」といった高度な要件に対して、人間が手動でアクセスリストを書き換えたり、コマンドライン(CLI)で設定を変更したりして管理するのは物理的に不可能です。
柏谷:加えて、環境の複雑化と人材不足がその限界に拍車をかけています。マルチクラウドの普及やセキュリティ要件の高度化により、今日の企業インフラは多数の製品が入り交じる複雑なマルチベンダー環境となっています。この複雑なネットワークをトラブルなく手動で管理するには熟練のスキルが必要ですが、そうした高度なIT人材は慢性的に不足しており、確保や育成も容易ではありません。
---手動を中心とした運用管理は、もはや情シス部門だけのリソース不足問題にとどまらず、事業部門のスピードを落とし、会社全体の利益を損なう全社的な課題だということですね。
赤坂:はい。AIの活用は今やどの企業にとっても至上命題です。それにもかかわらず、インフラのセキュリティ担保や運用を手動でやろうとするアプローチ自体に無理があります。予算削減ばかりを目指す「守りの効率化」ではなく、開発スピードや競争力を高めるために「AIに対してインフラ投資をしていく」という攻めの視点が必要不可欠になっているのです。
AIの台頭がもたらすパラダイムシフトと「人間の限界」
柏谷:最大の変化は、「人間が運用し、AIがサポートする」という世界観から、「インフラ自身(AI)が自律的に考えて動く」世界観へのシフトです。人間が直接ネットワーク機器をひとつひとつ設定していくのではなく、人間は「こんなネットワーク環境にしたい」という意図(インテント)だけを定義し、それをAIに対して適切に指示していく役割に変わります。
赤坂:「フィジカルAI」の文脈で考えると分かりやすいかもしれません。これまでのIoTは、センサーが小さなデータを送るといった通信量が少ないものが主流で、ネットワークへの影響はさほど大きくありませんでした。しかし今後は、AIを搭載したロボットが無数に工場や倉庫で同時に動き回るようになります。例えば1台のロボットが危険な箇所を見つけ、それを全体に瞬時に共有して動作を変えさせるような場合、ネットワークの通信遅延は重大な事故につながりかねません。これまで以上に、ネットワークの品質がビジネスや安全そのものに直結するようになります。
---今後、企業ネットワークのトラフィック特性やロケーションにはどのような変化が想定されるのでしょうか。
柏谷:これまでネットワークの主な使い手は「人間」でした。しかしこれからは、AIが自らネットワークを使い、AI同士がやり取りをする形に変わります。ひとつのAIエージェントが複数のタスクを自律的にこなす「エージェント乗数効果(1つの指示でAIが派生タスクを次々と実行する現象)」や、センサー・ロボットなどの「非人間ID」による通信が爆発的に増加することで、トラフィックのパターンはこれまでと全く異なるものになります。
赤坂:さらに、そうしたAIが利用する膨大なデータは、クラウドではなく現場のデバイスに近い「エッジ」側で生成されることが圧倒的に多くなります。データセンターを中心とした構成から、極めて広範囲に散らばる「超分散型のロケーション」へと変化していくのです。
---AIエージェントがミリ秒単位で動作するマシンスピードの時代に、これまでのように人間が手動でポリシー適用やトラブルシューティングを継続した場合、どんなビジネス上のリスクがありますか?
赤坂:厳しい言い方になりますが、手動での運用を継続するということは、事実上「自社ではAIを使わない」と判断することと同義です。AIのマシンスピードに人間が手動で介入していては、ビジネスの歩みは止まってしまいます。結果として、これからの世界でその企業は淘汰されていくことになるでしょう。もはや「手動で頑張る」という選択肢自体が存在しないのです。
人間の限界を超える解。「自動化」から「自律型ネットワーク」へ
---手動運用の限界に対する解決策として「自律型ネットワーク(Autonomous Network)」が挙げられますが、これは従来の「ネットワークの自動化(Automation)」とどう違うのでしょうか?
柏谷:従来の「自動化」は、人間が事前に作った固定的なルールやワークフローに従って、定型的な処理をプログラムに行わせるものです。一方で「自律化」は、人間が「こういう状態を保ちたい」「こういう役割を果たしてほしい」という方針を示すことで、それに基づいてネットワーク自体(AI)が判断を行って動く世界です。
赤坂:自動化と自律化は対立するものではなく、連続しているものです。日々の定常的なオペレーションの自動化をたくさん積み上げていった先に、自律化があります。
例えば、年に数回しか発生しないような未知の障害が起きたとします。自律化の世界では、AIが自律的に障害の切り分けルートを明らかにし、必要なオペレーションの構成(コンフィグレーション)を自動生成して適用するところまで行います。あるいは、トラフィックの状況から「このままだと障害が起こりそうだ」というパターンを理解し、問題が顕在化する前にあらかじめ対処しておく(予兆検知・予防保守)。極端に言えば、自律化とはそこまでの高度な対応を指します。
---TM Forum(グローバルな標準化団体)では、この自律化のレベルを0から5まで定義し、2030年に向けた動きが活発化しています。一般的な日本企業の現在地はどこにあり、次にどんなステップを踏むべきでしょうか。
赤坂:世界的な平均はレベル1.9程度というデータもありますが、私たちが日々エンタープライズのお客様を支援している体感としては、レベル0から1、あるいは部分的に自動化を進めてレベル2に向かっている段階の方が多い印象です。現実的には「まだ手動運用が中心であり、一部の定型作業のみをツールで補っている」という企業様がマジョリティだと感じています。
参考:
https://www.etsi.org/images/files/ETSIWhitePapers/etsi-wp-40-Autonomous-networks.pdf
https://www.tmforum.org/resources/whitepapers/autonomous-networks-empowering-digital-transformation-for-smart-societies-and-industries/
柏谷:次のステップを考える上で大切なのは、「ネットワークの自律化レベルを上げること」を自己目的化しないことです。まずは「ビジネスをどうしたいか」が先に来るべきです。
自社のビジネスを変革するために、どんなサービスが必要か。それに追従するためには、インフラをどう変えるべきか。上から下に落とし込む形で要件を整理し、その結果として「うちのビジネスモデルを実現するにはレベル3〜3.5の自律化が必要だね」と目標を定めていくべきです。
---IT部門だけで「コスト削減のために自動化しよう」と考えているうちは、正しいゴールにはたどり着けないということですね。
赤坂:その通りです。情報システム部門がコストセンターとして捉えられるのではなく、どうAIやITを使って自社の収益を上げていくのか、という発想に視点を変えていかないと、今後の激しい変化の中で立ち遅れてしまう可能性があります。
次期インフラ構想の鍵:単なる「帯域拡張」からの視点シフト
---数年先を見据えた中期ネットワーク刷新計画を策定する情報システム部門は、従来の「トラフィック増加を見越した帯域の拡張」という考え方から、どのように視点をシフトし、環境のサイジングや要件定義を行うべきでしょうか。
赤坂:やはり出発点は、「未来の先進的なサービスで、企業がどう価値を生んでいくか」です。AIという新たなツールを使って、自社が今後どういった新たなサービスで収益を生み出していくのか。それが先にあって、ICTインフラがどのようにそれを支えるべきか、という発想へ視点をシフトしていくべきです。
---ビジネス要件からインテント(意図)を定義し、それを具体的な「環境のサイジング」に落とし込む作業は、企業にとって非常にハードルが高いと感じます。どのように進めればよいのでしょうか。
柏谷:新しい概念に聞こえるかもしれませんが、実はサイジングの進め方自体は今までのネットワーク設計と本質的には変わりません。「最終的なサービスとして何をやりたいのか?」からブレイクダウンしていけばよいのです。
例えば「多数のロボットをスケールさせて群制御する」という要件であれば、ロボットの仕様を確認し、どんな種類の通信が、どの程度の量と遅延許容度で発生するのかを洗い出します。そこが明確になれば、おのずとサイジングや設計の要件は見えてきます。
赤坂:お客様が「ビジネスとしてやりたいこと」を明確にしていただければ、それを「具体的な通信要件やインフラ設計」に変換するプロセスは、我々ネットワークのプロフェッショナルが最も得意とする領域です。すべてをお客様の社内だけで抱え込む必要はありません。
構想から実装へ。次世代インフラの最適解を共に導き出す「Innovation Showcase」のご案内
---理論は理解できても、実際に自社の環境にどう適用していけばいいか悩む読者も多いと思います。そうした方々へのサポートや、具体的なアクションについて教えてください。
柏谷:私たちがご用意している「Innovation Showcase」をぜひご活用いただきたいです。今回お話ししたような自律型ネットワークのコンセプトや、AI時代を見据えたロードマップがどのように進んでいくのかを、具体的なメニューを通じて体感していただけます。まずはお気軽に弊社へお問い合わせいただければと思います。
---最後に、次期インフラ構想に向けて悩まれている読者へメッセージをお願いします。
赤坂:これだけ激しいテクノロジーの変化を前にすると、不安を感じるかもしれませんが、「この早い変化を楽しんでいきましょう」とお伝えしたいです。
柏谷:本当にそうですね。ワクワクする未来が待っています。変わっていくことを恐れるのではなく、「新しい技術を使って、自社からどんな新しい一手が出せるだろうか」と前向きに幅広く検討できる世の中になります。情シス部門が単なる「コストセンター」ではなく、「ビジネスを直接支え、牽引する役割」として再定義される大きなチャンスでもあります。ぜひ、その道のりを私たちと一緒に楽しんでいきましょう。
次期ネットワーク刷新は、単なる「帯域拡張」ではなく、ビジネスの未来を見据えた「自律化」へのステップアップが鍵となります。
「自社のビジネス要件を、どうネットワーク設計に落とし込めばいいのか?」
「自律型への第一歩をどう踏み出すべきか?」
ネットワンシステムズでは、AI Readyなインフラ構想をご支援するための体験型施設「Innovation Showcase」をはじめ、専門家と共に自社環境への適用を検証する「共創プログラム」をご用意しています。インフラ運用に限界を感じている情シス部門の皆様、DX推進を加速させたいビジネスリーダーの皆様、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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