
- ライター:力石 靖
- 2001年にネットワンシステムズに新卒入社。
入社時より、日本国内の無線LAN市場とともに歩む。
無線LAN製品担当、社内技術支援対応、および保守部門と渡り歩き、
プリセールスの技術支援からポストセールスまでの知識と経験を有する。
2021年現在は無線LANやクラウド技術を利用したサービスの開発、提案に従事。
目次
ネットワンシステムズ 力石(ちからいし)です。
無線LANのトラブルシューティングについて、最終回となる4回目の記事です。
以前の内容は、次項のリンク先をご覧ください。
これまでの内容と今回の内容
第1回記事では、
「無線LANのトラブルシューティングには利用者・運用者それぞれの視点で見ることが必要」という点をお伝えしました。
第2回記事では、
「端末利用者の視点から見たトラブルシューティング」について、深掘りをしました。
第3回記事では、
「システム運用者の視点から見たトラブルシューティング」について、深掘りをしました。
今回、第4回記事では
「無線LANのトラブルシューティングにおける、メーカー各社におけるAIOpsへの取り組み」をご紹介します。
無線LANのトラブルシューティングの全体像については、下図をご覧ください。
図1:トラブルシューティングの視点と観点
無線LANのトラブルシューティングにおける複雑性
これまで3回にわたり、無線LANのトラブルシューティングを行うにあたり、下記の点が重要であるとお伝えしました。
- 端末利用者の視点とシステム運用者の視点と観点をもち、
それぞれ「状況の把握~原因の特定~対処の実施」につなげること - 情報収集の重要性と、それぞれの視点において収集すべき情報のご紹介
- トラブルの迅速な回復と原因追及とは、トレードオフの関係となること
前回については、システム運用者の視点での「状況の把握~原因の特定~対処の実施」を紹介する内容でした。
対応すべき事項・確認すべき事項の複雑性に、端末利用者の皆様が困惑し、
システム運用者の皆様が頭を抱える事態に陥りがちになっているのでは?
というのが、現実のトラブルシューティングの現場なのではないかと考えます。
無線LANのトラブルシューティングとAIOpsへの取り組み
それでは、対応すべき事項・確認すべき事項の多さに、主にシステム運用者の皆様が頭を抱える事態に陥りがちになるという状況に対し、無線LAN製品をリリースしている各社においてどのような取り組みがなされているのでしょうか?
ここで、一つのカギとなるテクノロジー(AIOps)があると、筆者は考えます。
一般的には人工知能(AI)や機械学習(ML)をIT運用に役立てるという意味合いで用いられている言葉となります。
AIOpsを無線LANのトラブルシューティングに当てはめてみると、洞察(Insight)を提供するための仕組みと考えてよいかと思います。
AIOpsテクノロジーを無線LANのトラブルシューティングのツールとして導入することによるメリットとしては、以下が考えられます。
- ネットワーク運用者によるトラブルシューティングの迅速化
これまでのネットワーク管理製品では可視化と分析にとどまっていたため、最終的にはネットワーク管理者の知見に頼っていた
洞察(Insight)を提供することで、問題が発生している部分の把握と、対処方法の検討と実施がより早く可能となる
また、端末利用者への対処依頼を行う際の内容を判断しやすくなる効果も出る - 「正常動作である範囲」を把握することの実現
エンドトゥエンドで収集した情報の分析により、人間の手による監視では把握することが難しかったトラブル要因(正常動作である範囲からの逸脱)の発見ができるようになる
2022年現在では機械的な情報の継続的な取得、およびクラウド上の解析基盤を組み合わせることで、メーカーの持つ多くの情報を分析に組み込めることから、上記のメリットを実現する形をとっていることが多いと見ています。
下図は筆者の考える無線LANトラブルシューティングにおけるAIOpsの活用イメージです。
図2:無線LANのトラブルシューティングとAIOps
次項より、ネットワングループにて取り扱いをしている無線LANトラブルシューティングにおけるAIOpsの活用につき、下記2社の取り組みをご紹介します。
いずれも筆者にて検証を実施した製品でもあることから、それぞれに感じた特徴もお伝えできればと思います。
- Cisco社の取り組み -Cisco DNA Center-
(外部サイト)Cisco DNA Center - ネットワーク管理と自動化 - Cisco - Juniper社の取り組み -Marvis仮想ネットワークアシスタント-
(外部サイト)仮想ネットワークアシスタント| ジュニパーネットワークス (juniper.net)
Cisco社の取り組み -Cisco DNA Center-
(外部サイト)Cisco DNA Center は、無線LANのみならず、スイッチやルータ等のLANやセキュリティ製品についてプラグアンドプレイによる設定自動化・ネットワーク可視化・セキュリティ可視化を提供するオンプレミスのアプライアンス製品となり、その中において(外部サイト)DNAアシュアランス機能 にAIOpsが組み込まれています。
詳細については、匠コラムにてご紹介をしている記事がありますのでぜひご覧ください。
DNA Centerで実現する4つのxOpsと社内導入結果のご紹介 | ネットワンシステムズ (netone.co.jp)
Cisco DNA Center の特徴は下図の通りです。
図3:Cisco DNA Centerの特徴
検証を実際にしてみた感触としては、おおむね上記の特徴を実現していると見ています。
特に、上記のような「正常動作である範囲」を判定するには定性的な側面もあるため、人間での判定は当該分野への知見や経験が必要になりがちですが、それをデータで定量化できるという点は大きな優位性として言及できると考えます。
筆者からすると、無線LANのトラブルシューティングのみの観点で導入を検討するには、コスト面での考慮が必要になりそうな気はするのですが、多様な洞察(Insight)を提供してもらえる点において、ある程度無線LANに関する知見がある際は強力なツールとなり得ると考えます。
Juniper社の取り組み -Marvis仮想ネットワークアシスタント-
(外部サイト)Marvis仮想ネットワークアシスタント(以下Marvis)は、
その源流をたどると2019年に買収をした(外部サイト)Mist Systemsの無線LAN製品群を
管理・制御するクラウド上のコントローラの付加機能として提供されたMist Marvisにあります。
当時、ネットワンパートナーズにてMist Systemsの無線LAN管理の仕組みを
解説した記事があるのでご紹介します。
(外部サイト)「AI」が無線LAN運用を劇的に進化させる:Mist Systems ~前編~
(外部サイト)「AI」が無線LAN運用を劇的に進化させる:Mist Systems ~後編~
当時より、AIOpsのアプローチをとっていることから他社に先んじて取り組んでいる様子が見て取れました。
上記記事の時点で Marvisはβ版でしたが、現在は正式リリースされており対応するサブスクリプション購入により利用可能となっています。
Marvisの特徴は下図の通りです。
図4:Marvis仮想ネットワークアシスタントの特徴
AIOps的なアプローチを他社より先んじて実装したこともあり、情報の蓄積が進んでいるようで
実際の分析結果やMarvisでの返答内容はかなり精度が高い※ものとなっていることがあげられます。
※一例として、ある端末の接続性について問題がある(つながるけれどすぐ切れる、のようなイメージです)があると
Marvisに問い合わせると、接続しているアクセスポイントが混んでいる、認証回りで失敗が多いなどといった
かなり詳細に可能性がありそうな要因を返答された、というものがあげられます
まとめ
今回は無線LANのトラブルについて、
より容易なトラブルシューティングができるようにする、メーカー側での取り組みについてご紹介しました。
下記のようなことがお分かりいただけたのではないかと思います。
- 手動で行うと非常に手間のかかる状況の把握~原因の特定~対処の実施について、
収集された実情報からクラウド上の分析基盤での分析結果を元に、
トラブルシューティング対応のための洞察(Insight)をあたえてくれる取り組みをメーカーで行っている
無線LANの普及とともに、PCやスマートフォン、その他機器についても
無線LANへの接続機能が搭載されていることが当たり前という時代になっていると感じます。
世の中にそれだけ広まっているということは、トラブルシューティングにまつわる悩みも多く出てくるのでは?
という思いから、本シリーズ記事としてお送りいたしました。
最後に、改めて本シリーズの核心であるトラブルの視点と観点の図を確認しましょう。
図5:トラブルの視点と観点
この内容が、無線LANの端末利用者およびシステム運用者の皆様における
楽しい無線LANの利用・活用につながればうれしく思います。
これまでご覧いただきまして、ありがとうございました!
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。