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Video over IP:放送システム IP 化で押さえておくべきネットワーク冗長の落とし穴

ライター:細谷 典弘
2008年ぐらいからデータセンターネットワークの調査・検証を行っていたが、ここ数年は、マルチクラウド基盤に用いられるハードウェアとソフトウェアの最先端テクノロジーに関する調査・検証と、案件の技術支援をする業務に従事している。
特に Kubernetes に注目している。
また最近では、放送システムの IP 化に向けた技術調査・検証も行っている。

【主な保有資格】
CCIE Routing and Switching (#16002)
CCIE Data Center (#16002)
Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack(RHCSA) (EX210)
電気通信主任技術者(伝送交換)

目次

放送システムを IP 化したときに、ネットワークの冗長において気を付けるべき点があります。ネットワークエンジニアが今まで通りのネットワークの冗長方法で IP 化された放送システムを冗長化すると大変なことが起きます。

また、現在 SDI の放送システムに携わっているエンジニアの方が IP を勉強して放送システムを構築するときにも、同じ間違いをしてしまう可能性があります。

今回は、今まで IP に携わっていなかった方にも分かりやすく、放送システムの IP 化をするときに必要なネットワーク冗長方法(SMPTE 2022-7)を紹介します。

SMPTE 2022-7 で、放送システムの IP 化に必要なネットワーク冗長が規格化されています。

ネットワークの冗長方法

ネットワークを冗長するときには、一般的には2つの方法が用いられます。

1つ目は、スイッチのリンクの本数を増やす方法です<図1>。

<図1>

2つ目は、SMPTE 2022-7 で紹介する、スイッチの台数を増やす方法になります。

また、耐障害性を上げるためには、これら2つの方法を組み合わせます。

しかしながら、ただこれらの方法を使うだけでは、放送システムに必要な信頼性を確保することができません。

なぜでしょうか? 

そこには ECMP(Equal Cost Multi Path)の弱点があります。

ECMP とは、ユニキャストでは、5-tuple と呼ばれる Source IP Address Destination MAC Address などの5つの要素でハッシュ計算を行い、使用するリンクを決めるテクノロジーになります。

放送システムの IP 化で使われるマルチキャストにおいても、Source IP Address Group Address などを使ってハッシュ計算が行われ、使用するリンクを決定します。

例えば<図2>左側のように Spine1 Leaf1 の間に 100Gbps のリンクが2本ある状態において、12Gbps の映像が 8本流れているリンクと 3本流れているリンクがあるとします。このとき、新しい 12Gbps の映像を流したいときにもハッシュ計算が行われ、運が悪いと、<図2>右側のように新しい映像を流すことができないリンクを使う可能性があります。


<図2>

このような状態になると、新しく追加された映像だけではなく、すでにそのリンクを使っていた映像全てで映像の乱れが発生します。
この問題に対しては、以前「放送システム IP 化に向けたネットワーク技術」で取り上げた NBM (Non-Blocking Multicast) で解決することができます。しかしながら、NBM を使っても、Spine 1台だけでは、 Spine が故障しただけで、放送システムに必要な IP の通信が全てダウンしてしまいます。そのため、Spine 2台必要になるのですが、この2台目の Spine の追加方法が大変重要になります。2台目の Spine の追加方法に関しては、次のSMPTE 2022-7 でご紹介します。

SMPTE 2022-7

SMPTE 2022-7 で求められている放送システムに必要なネットワーク冗長は、<図3>の右側にあるようなネットワークを2面作る方法になります。

<図3>

では、なぜ、左側の一般的なネットワークの冗長化では問題があるのでしょうか。この問題も、ネットワークの冗長方法で取り上げた ECMP が原因になります。

<図4>左側のように、カメラから同じ映像を2台の Leaf スイッチに送出していたとしても、結局 Spine1 を使うか Spine2 を使うかは、ECMP のハッシュ計算次第になります。

つまり、カメラから2台の Leaf スイッチに送出された映像は、同じ Spine 経由でモニターに転送される可能性があるため、1台の Spine の障害で、映像にロスが発生してしまいます。

<図4>

この問題を解決する方法がネットワークを2面作る方法になります。

<図5>のようにネットワークを2面作っておくことで、A面のスイッチやリンクで障害が発生したとしても、カメラから送出した映像は全てモニターで受信することが可能になります。受信側は2つの映像をほぼ同時に受け取ることになりますので、受信側の装置で、同じ映像のどちらを使用するかを選択します。

<図5>

まとめ

上記で見てきたように、一般的なネットワーク冗長化テクノロジーを使用しただけでは、放送システムに必要な信頼性は得られません。

リンクの帯域をあふれさせないような仕組みや、ケーブルやスイッチなどの物理障害が発生したときにも、放送システムに必要なパケットを受信器までにドロップせずに送信する設計が必要になります。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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