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Video over IP:PTPネットワークの冗長化について

目次

放送システムのライブプロダクション分野では、4K/8Kを見据えた次世代システムの実現に向けて、IP技術を活用したネットワークインフラの導入が進み始めています。これまでのSDI技術で実現してきたベースバンドから大きく変革が求められるため、検討にあたり、具体的な構成などで不安を感じていらっしゃる方も多いのが現状だと思います。本記事では、IP技術にてネットワークを構成する際に重要な時刻同期技術であるPTPにおける冗長化についてご紹介します。

PTPの概要

PTPの基本的な動作については、弊社コラム「Media over IPのPTP技術」をご覧ください。コラムでは、仕組みや役割について説明しています。ここではもう少し具体的なパラメータについて触れておきます。

PTPでは時刻同期するために、Syncメッセージ、Follow_upメッセージ、Delay_RequestDelay_Responseがやり取りされ、時刻のズレ(Offset)を算出します。業界標準規格であるSMPTE2059では、このメッセージはマルチキャストで通信することになっています(224.0.1.129のグループアドレスが使用されます)。そのため、映像や音声などの転送に用いるマルチキャストグループは、同じグループアドレスを使用できません。

また任意で設定できるパラメータがいくつかありますが、システム全体で同期するためにはこれらの値を揃えておく必要があります。ネットワーク機器だけでなく、PTPタイムサーバや、IP-SDIコンバータなど全ての機器で同じにする必要がありますので、事前に確認しておくと良いと言えます。主要なパラメータは下記4点です。

Domain number : PTPにより同期するドメインの値で0127の範囲で設定

Announce Interval : アナウンスメッセージの送信間隔

Sync Interval : syncフレームの送信間隔

Delay request Interval : Delay requestフレームの送信間隔

設定パラメータの値として、機器によっては秒単位での設定ではなく、-2-3など周期での設定を必要とする場合が比較的多いため、合わせて理解しておくと良いかと思います。1秒を0として、-1毎に半分、+1毎に2倍となります。

 2 : 4 s

 1 : 2 s

 0 : 1 s

-1 : 1/2 s = 500 ms

-2 : 1/4 s = 250ms

-3 : 1/8 s = 125 ms

PTPの冗長構成

PTPのテクノロジーには、BMCABest Master Clock Algorithm)が組み込まれており、同一ドメイン内でPTPMasterとして動作することができる、GrandmasterBoundary Clockとの間でAnnounce Messageをやり取りし、最も優先度の高いClockに同期することができるようになっています。万が一、Grandmaster Clockに同期がとれないような事態になった場合には、次に優先度の高い機器のClockに同期するような動作になるため、タイムサーバなどを複数設置することで、精度の高い同期を維持することができます。

BMCAの優先度に関するパラメータは複数あります。
どのパラメータを比較して優先度を決定するかは順番が決まっており、図のパラメータの上から順に比較し、決着がついた時点で終了し、次の項目は比較しません。

システム運用管理者が、任意に設定できる項目はPriority1Priority2で、それ以外の項目は機種や環境に依存しますので、意図した機器をGrandmasterとするためには、Priority1Priority2の設定値を同一ドメイン内で、どのように設計するかを事前に決めておく必要があります。その際メンテナンスや障害の時に、どの機器のClockに同期するのかも含めて検討する必要があります。

好ましい状況ではありませんが、Priority1およびPriority2の設定を他の機器と同じ値に設定してしまっていても、6番目のパラメータであるユニークIDMacアドレス)により必ず唯一の機器が最上位のMasterとなる仕組みになっています。

BMCAを考慮したPTPネットワーク冗長

PTPに冗長構成を可能とする仕組みとして、BMCAがあることをご理解いただいたところで、具体的にIPネットワークを構成するにはどうすべきかをご紹介します。

まず、GNSSなどの時刻源と同期できるPTPタイムサーバを用意する必要があります。システム内の全ての機器がこの時刻に同期するため、PTPタイムサーバは2台以上で冗長させたいポイントとなります。

SMPTE2110-7で規定されているようにIPネットワークは2つ用意し、放送コンテンツデータを複製し、それぞれのネットワークに通すことで冗長性を実現しています。つまりIPネットワークは2つに分離されています。この分離されたネットワークに対して、PTPにより時刻同期させるには、この2つのネットワークは物理的には接続させ、PTPの信号のみ転送し、それ以外の通信は転送しないような論理的な設定をする必要があります。

物理構成パターンとしては、下記2つの構成が基本的な例となります。

上図の場合は、PTP Grandmasterは冗長されていますが、それに直結されたBCの役割をするスイッチが単一障害点となっており、冗長構成としては不安な点があります。また、システム拡張やリモート接続などを考慮してAB面以外のネットワークを構成する必要が出てきた場合には、どこへ接続すべきか非常に難しくなってしまい拡張性に欠ける構成といえます。ただ、ネットワークの物理構成はシンプルにできますし、比較的小規模なシステムであればコスト面からもこの構成が適切な場合もあります。

もう一つの構成パターンは、PTP配信用のネットワークとして、スイッチを2台構成する方法です。先の構成の問題点であった、単一障害点もなく、新たなネットワークに対してもPTP配信用ネットワークのスイッチに接続することができるため、拡張性と構成のシンプル化を両立しています。スイッチが追加で必要になりますが、拡張が予定されているような中規模以上のシステムであればこの構成をベースに検討をしていくと良いと言えます。

まとめ

本記事では、放送システムのライブプロダクションにおけるIPネットワークの設計に必要なPTPネットワークの冗長方法についてご紹介しました。IPネットワークは自由な構成ができるため、可用性、運用性、拡張性などを複合的に考えてどのような冗長構成にするか検討する必要があります。どういったパターンが考えられるかなど今後の検討の一助としていただければと思います。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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