2026年3月、さくらインターネットの「さくらのクラウド」が、デジタル庁のガバメントクラウド対象クラウドサービスとして正式に採択されました。
これまでガバメントクラウドといえば、Amazon Web Services(以下AWS)、Microsoft Azure(以下Azure)、Google Cloud、Oracle Cloud Infrastructureが中心でしたが、今回、国産クラウドである「さくらのクラウド」が正式な選択肢として加わったことは、自治体や教育委員会をはじめとする公共分野のお客様にとって大きな関心ごとになっているのではないでしょうか。
- ライター:山崎 恵子
- 教育委員会のお客様と次期基盤のグランドデザインを検討しています。
先生方の働き方改革、教育DXの実現、データ利活用を念頭に、
パートナー企業様とともに、セキュアでコスト効果の高いIT基盤を構築するご支援をいたします。
目次
公共市場向けICT基盤として利用できるのか?
当社の検証チームでは今回の正式採択を受けて、「ガバメントクラウド向けだけではなく、一般的な公共分野のICT基盤としても活用できるのではないか」という観点から技術検証を実施しました。
検証にあたっては、さくらインターネットおよび日頃より連携している各メーカーのご協力のもと、さくらのクラウド上での各種製品の動作確認や構成検証を行いました。
その結果、今回の検証範囲においては、対象製品が問題なく稼働することを確認できました。もちろん、すべてのシステムや製品にそのまま適用できるわけではありません。しかし、これまでAWSやAzureを前提として検討していた公共分野のシステム基盤に対しても、「さくらのクラウド」が有力な選択肢となり得ることを確認できました。
今回の検証構成および、ご協力いただいた製品・ソリューション
今回の検証では、ネットワーク、セキュリティ、バックアップ、ログ管理など、公共分野向けICT基盤を構成する主要コンポーネントについて動作確認を実施しました。
ご協力いただいた各社の皆さまに、この場を借りて御礼申し上げます。
- さくらインターネット:さくらのクラウド(IaaS型クラウド基盤)
- A10 Networks:A10 vThunder(ロードバランサー/アプリケーションデリバリー)
- デジタルアーツ:i-FILTER(Webフィルタリング)
- Palo Alto Networks:VM-Series(vPalo)(次世代ファイアウォール)
- Veeam Software:Veeam Backup & Replication(バックアップ/災害対策)
- インフォサイエンス:Logstorage(ログ管理・統合ログ分析)
※順不同
図1:検証環境全体
【検証環境の補足】
Linux仮想マシン:「さくらのクラウド」で標準提供されているパブリックアーカイブの「AlmaLinux(RHEL互換)」を利用
Zabbix:公式サイトよりパッケージをダウンロードして構築
Syslog:オープンソースの「rsyslog」を利用
「さくらのクラウド」の魅力
今回の検証を通じて、当社が特に注目したポイントは次の3点です。
1.ISMAP登録済みのソブリンクラウド
国内3拠点(石狩、東京、大阪)のデータセンターを展開し、ISMAPにも登録されている国産クラウドであること、そしてデータ主権・国内法令遵守を重視できることは、「さくらのクラウド」の大きな強みです。
近年は、米国のCLOUD Actの施行により、「データを日本リージョンに保存しているから安心」とは必ずしも言い切れなくなっています。米国企業が運営するクラウドサービスは、法的手続きに基づきデータ開示を求められる可能性があるためです。
その点、「さくらのクラウド」は日本企業が運営し、国内法の下でサービスが提供されていますので、データの保管場所だけでなく、運営主体や法的管轄の観点からも公共分野のお客様に安心してご利用いただけます。
※ソブリンクラウドとは、自国の法律や規制に基づき、データやシステムの主権を確保できるクラウドサービスを指します。
2.コスト管理のしやすさ
クラウド利用料は従量課金が主流であり、利用状況や為替の影響によってコストが大きく変動することがあります。その点、「さくらのクラウド」は円建て請求で、仮想マシンは「10時間までは時間単位」「20日までは日額」「20日を超えると月額固定料金」が適用されるため、費用を見積もりやすい料金体系になっています。さらに、送受信ともに転送量課金がなく、帯域費用込みで利用できるため、想定外の通信費増加を気にする必要がありません。
年度単位で予算管理を行う公共分野において、親和性が高い仕組みであると考えられます。
3.ハウジングとの組み合わせ
さくらインターネットは、クラウドサービスだけでなくデータセンターサービスも提供しています。既存機器を活用したい場合など、クラウドとハウジングを組み合わせたハイブリッド構成も選択いただけます。
検証チームよりコメント
今回の検証は、仮想化基盤とネットワークを専門とする、当社のSE 2名が中心となって実施しました。検証開始前は、「国産クラウドならではの知識や学習が必要なのではないか」と考えていましたが、実際にはその心配はほとんどありませんでした。
2名とも「さくらのクラウド」の利用は今回が初めてでしたが、約1か月半という短期間で、検証環境の設計・構築から各種評価まで完了することができました。仮想サーバ、ネットワーク、VPN、オブジェクトストレージといった基本機能は直感的に利用でき、クラウド特有の複雑さを意識する場面はほとんどありませんでした。
仮想サーバやネットワークの作成も分かりやすく、画面に沿って操作するだけでスムーズに構築を進めることができました。「さくらのクラウド」の仮想サーバは、Linuxで広く利用されているサーバ仮想化技術「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」をベースとしています。しかし、利用者がKVMの専門知識を求められる場面はほとんどありません。実際の検証でも、KVMを強く意識することなく、既存の知識や経験を活かしながら違和感なく環境構築を進めることができました。
また、A10、i-FILTER、Palo Alto Networks、Veeam、Logstorageといった製品も問題なく導入でき、既存環境の設計思想を大きく変えることなく、お客様環境を短期間で再現できました。
図2:各製品の検証内容
さらに、Amazon S3互換の「さくらのオブジェクトストレージ」についても検証を実施し、ログやバックアップデータの保管先として活用できることを確認しました。
<SyslogサーバおよびLogstorageからのログ保管>
SyslogサーバやLogstorageで保管しているログについては、AWS CLIのS3コマンドを利用して、さくらのオブジェクトストレージへ問題なく転送できました。
※あらかじめプロファイル「sakura」にアクセスキーおよびシークレットキーを設定
- Syslogサーバのログ転送
aws --profile sakura \
--endpoint-url https://s3.xxx.sakurastorage.jp \
--region jp-east-1 \
s3 sync /var/log/archive/ \
s3://bucket/syslog/ - Logstorageのログ転送
aws --profile sakura --endpoint-url https://s3.xxx.sakurastorage.jp --region jp-east-1 s3 cp C:\archive\ s3://bucket/logstorage/ --recursive
<仮想マシンのバックアップデータ保管>
Veeam のバックアップリポジトリとして「さくらのオブジェクトストレージ」を指定し、仮想マシンのファイルレベルのバックアップが利用できることも確認しました。
図3:Veeam のバックアップデータを保存した「さくらのオブジェクトストレージ」
なお、VeeamのR&D Forumsで公開されている「Unofficial object storage compatibility list」においても、「さくらのオブジェクトストレージ」が掲載されています。
参考情報
Unofficial object storage compatibility list for Veeam Backup & Replication
Sakura Internet Object Storage (cloud object storage)
検証で判明した技術的な注意点
一方で、検証の中ではあらかじめ留意しておくべきポイントも確認できました。その一つが、仮想サーバのUUIDの扱いです。
さくらインターネットの技術情報にも記載がありますが、サーバの停止・起動やホスト移動などによりUUIDが変更される場合があります。
https://manual.sakura.ad.jp/cloud/support/technical/hostserver.html#uuid
今回検証した製品の中では、A10 vThunderがUUIDベースのライセンス認証を採用しているため、本事象の影響を受けました。A10 vThunderには「FlexPool」というライセンス形態も用意されており、これを利用することで回避することも可能ですが、ライセンス認証に UUID を利用する製品は、仮想アプライアンス型のファイアウォールをはじめ数多く存在します。
こうした背景から、UUID 固定化オプションの提供についてさくらインターネットへ要望したところ、前向きに検討いただけるとの回答をいただきました。
検証メンバーの感想は、”さくらのクラウドは「必要な機能をシンプルに使えるクラウド」である”というものでした。これを聞いて、「高機能であること」よりも、「迷わず使えること」が強みのクラウドであり、「まずはクラウドを使い始めたい」「運用の複雑さを抑えたい」という組織にとって、有力な選択肢になり得ると考えられます。
当社の今後の取り組み
当社ではこれまで、AWSやAzureなどを活用した公共ICT基盤の構築を数多く支援してきました。今後は、これらのクラウドに加え、「さくらのクラウド」も重要な選択肢の一つとして位置付け、お客様の要件や予算、運用方針に応じた最適な基盤をご提案してまいります。
クラウド選定において重要なのは、「どのクラウドが優れているか」ではなく、「お客様にとって最適な基盤は何か」という視点です。国産クラウドという新たな選択肢が加わった今、当社はマルチクラウド時代にふさわしい提案力をさらに強化し、お客様のICT基盤整備とDX推進を支援してまいります。
最後に、今回の検証にご協力いただいた さくらインターネットおよびメーカー各社の皆さまに、改めて感謝申し上げます。
ネットワンシステムズでは今後も、お客様により多くの選択肢をご提供できるよう、さまざまなクラウド基盤・ソリューションの技術検証を継続してまいります。
さくらインターネット株式会社 コメント
このたび、ネットワンシステムズ様に「さくらのクラウド」を公共分野のICT基盤という観点から幅広く検証いただき、大変うれしく思います。
公共分野におけるクラウド活用では、クラウドサービスそのものの機能だけでなく、ネットワーク、セキュリティ、バックアップ、ログ管理など、さまざまな製品・ソリューションと組み合わせ、実際のシステムとして構築・運用できることが重要です。
今回、ネットワンシステムズ様の豊富な知見のもと、複数の製品を組み合わせた実践的な構成で検証いただき、「さくらのクラウド」が公共分野におけるICT基盤の選択肢となり得ることを確認いただけたことに、大きな意義を感じています。
私たちは「さくらのクラウド」を、行政機関や自治体をはじめとする公共分野のお客様に、より幅広く安心して選択いただけるクラウドへと成長させてまいります。
今後もネットワンシステムズ様をはじめとするパートナーの皆さまと連携しながら、お客様の要件に応じた多様な選択肢を提供し、日本の公共分野におけるクラウド活用とDXの推進に貢献してまいります。
さくらインターネット株式会社
公共営業部 部長 小松 沙羅
パートナー様と共に“期待値を超えていく”
ネットワンシステムズの行動指針より
さくらインターネット様 :https://www.sakura.ad.jp/
A10 Networks様 :https://www.a10networks.co.jp/
デジタルアーツ様 :https://www.daj.jp/
Palo Alto Networks様 :https://www.paloaltonetworks.jp/
Veeam Software様 :https://www.veeam.com/jp
インフォサイエンス様 :https://www.infoscience.co.jp/
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。
組織・製品等の名称は執筆時点のものです。