- ライター:塩屋 晶子
- 2012年ネットワンシステムズに入社。Ciscoを中心としたコラボレーション(ビデオ)製品を中心に、新製品の技術検証、案件支援やお客様へのデモンストレーションなど啓発活動に従事している。
最近では、新技術を組みあわせた新しいソリューション開発や検証も行っている。
目次
背景
生成AIの急速な普及は、私たちの仕事や生活を劇的に便利にしています。しかし、その裏で、見過ごすことが出来ない「隠れたコスト」が急増しています。それは、AIを動かすデータセンターの電力消費量です。事態は深刻化し、日本政府はついに罰則付きの省エネ規制導入へと踏み切りました。
省エネ対策は、かつての「推奨事項」から企業の「生き残りをかけた必須条件」へと一変しました。AI需要が急拡大する今、エネルギー管理への対応は待ったなしです。
市場動向
AIサーバーが引き起こす「電力消費5倍」という衝撃
AIがデータセンターの電力消費に与えるインパクトは、私たちの想像をはるかに超えています。国際エネルギー機関(IEA)の報告書によると、世界のデータセンターの電力需要は、2030年までに2024年比でおよそ2倍になる見通しです。
図1.データセンター電力消費 (2024~2030年)
出展:国際エネルギー機関(IEA)の報告書「Energy and AI」
Executive summary – Energy and AI – Analysis - IEA
2030年に見込まれる世界のデータセンターにおける電力消費945TWhという数字は、現在の日本の総電力消費量をわずかに上回る数字です。
図2. 2030年世界のデータセンター電力消費の数字のたとえ
「PUE 1.3以下」が絶対目標に。日本の省エネ義務化と罰則
日本政府はついに具体的な規制強化に乗り出しました。経済産業省は省エネ法を改正し、データセンターに対して罰則を伴う厳しいエネルギー効率基準を設ける方針を固めています。
- 対象: 2029年度以降に新設されるデータセンター
- 基準: 稼働2年後の電力使用効率(PUE)を「1.3以下」にすること
- 罰則: 基準未達の場合、改善命令に従わなければ100万円以下の罰金が科される可能性がある
- 既存施設への目標: 2030年度までに「PUE 1.4以下」という努力目標を設定
ここで基準となる「PUE(Power Usage Effectiveness)」とは、データセンターのエネルギー効率を示す世界的な指標です。「データセンター全体の消費電力 ÷ IT機器の消費電力」で算出され、値が1.0に近いほど、空調や電源設備での電力ロスが少なく、効率が高いことを意味します。経済産業省によると、2014年度以降に日本で建設されたデータセンターの平均PUEは「1.47」です。これと比較すると、新基準である「1.3以下」がいかに挑戦的な目標であるかが分かります。この規制は単なる努力目標ではなく、新たな競争上のベースラインを意味します。
PUEスコアを効率的に下げるには
PUEスコアを効果的に下げるためには、主に「空調効率の向上」「電源システムの効率化」「IT機器の効率化」の3つのアプローチがあります。
- 空調効率の向上
現在はGPUの高発熱化により、液冷の採用が急速に進んでいます。- ホットアイル/コールドアイルの分離
- 外気冷却(フリークーリング)の導入
- 液冷(Direct to Chip など)
- 電源システムの効率化
データセンター全体の消費電力には、IT機器に電力を供給する過程で生じる電力損失も含まれます。- 高効率なUPSの採用
- 変換段数の削減
- 高電圧配電
- IT機器の効率化
IT機器自体の消費電力を抑えることも、間接的にPUE改善に繋がります。- サーバーの集約と仮想化
- 省電力性能の高い機器の導入
- 未使用機器の電源オフなど運用方法の見直し
図3. PUEスコアを効果的に下げる3つのアプローチ
このようにPUEのスコアを効率的に下げるには、空調設備の電力だけではなく、IT機器の消費電力を抑えることもポイントとなります。
ただ、どれも始めてみるにはなかなかハードルが高そうです。中でも今すぐできそうなこととしては「未使用機器の電源オフ」でしょうか。とは言え、どのIT機器の電源を落とせば良いのかを判断することも簡単ではありません。私たちがどのようなテクノロジーとアイデアを組み合わせて、電力削減に取り組んできたのか、次章以降でご紹介していきます。
技術概要
私たちが目指したのは、電力データが細かく取れる環境をつくっていくことで、IT資産をコンセント単位で可視化し、電力削減にむけたアクションへとつなげることです。
電力効率や脱炭素へのアプローチとして、水冷サーバーやコンテナ型データセンターといった「新しいファシリティ技術」が注目されています。一方で、既存の設備ですぐに取り組める「運用の高度化」の代表例が「インテリジェントPDU(iPDU)」の活用です。
iPDUを用いて詳細な電力データを可視化することで、「ゴーストサーバー(稼働していないのに電力を消費している機器)」を特定し、遠隔操作で電源を遮断するといったアクションが可能になります。大規模な設備投資が必要な冷却技術だけでなく、こうしたIT負荷そのものを適正化するアプローチも、サステナブルなITインフラには不可欠です。
iPDUは単なる電源タップではなく、ネットワーク経由で電力の監視と制御を可能にします。
図4. インテリジェントPDUとは
- 電力の「見える化」: PDU 単位やコンセント単位で電流・電力を計測し、ラックごとの負荷状況を正確に把握します。
- 遠隔制御: サーバーがハングアップした際に、現地に行かずにリモートで電源を再起動できます。(ただし、強制的な電源操作はデータ破損のリスクを伴うため注意が必要です)
- オプション: 温湿度センサーと連携させて、ラック内の温度や湿度も計測が可能です。
これらの機能は、PUE 目標達成に不可欠な「現状把握」と「運用の効率化」を強力に支援します。iPDU は、これからのデータセンター運営において極めて重要なツールとなるでしょう。
電力データの活用
energy boardとは
当社で開発した電力可視化サービス「energy board」では、データセンター/サーバールームの電力・温度をアウトレット(コンセント)単位で可視化し、分析タグを付加することで、多角的に分析・施策実行まで支援するサービスです。従来の分電盤/ラック按分による粗い電力把握では打てなかった、データドリブンな省電力・運用改善施策を可能にします。ラック・機器単位での実測データに基づく省エネ、PUE改善、CO2削減、テナント別課金・KPI管理を推進できます。
図5. energy boardダッシュボードイメージ
ケース例(3rd party連携含む)
- ホットスポットの特定:冷却配分の見直し/空調制御の最適化で温度上昇を抑制。
- ラック・機器ごとの消費把握:高消費機器の移動やワークロードの平準化によるPUE改善。
- CO2算出とKGI/KPI管理:年度目標へ向けた定量的な施策評価。
energy boardの開発思想
なぜ、単なる可視化ツールでは不十分なのか。私たちが「energy board」に込めた開発思想と、それを実現する独自のアイデア「タス・ヒク・カケル」という3つのアプローチをご紹介します。
図6. 組み合わせの理論:タス、ヒク、カケル
- タス(足す):PDUコンセントに、タグデータを付加することで、利用用途別、機器ベンダー別、部署別など分析したい観点で、電力データに意味付けを持たせることができます。また、電力データ+温度データ+機器属性を組み合わせ、複合指標(例:機器ごとの温度あたり消費)を作ることで、単独データでは見えない課題を浮かび上がらせる使い方もできます。
- ヒク(引く):DCIMサービスは多機能なため、専門家でないと理解しにくいUIや専門用語が用いられている場合があります。そこで、本当に見るべきポイントに絞り込み、「電力マネジメント」に特化することで、誰が、何に、どれくらいの電力を使用しているかを明確に把握できるようになります。
- カケル(掛ける):電力とGXの意思決定を掛け合わせることで、電力可視化は、「運用改善」から「GXのKPI管理」へとストーリー化できます。CO2削減効果を算出し、電力削減を単なる省エネ活動ではなく、投資効率の最適化へと導きます。
これらの組合せで、「見るためのデータ」から「行動に繋がる示唆」へと昇華させます。
テストマーケティングで得られた示唆
これまで実施してきた電力可視化の取り組みにおいてはテストマーケティング活動を通じて、データセンター増設における電力可視化の検討や検証環境の電源を落とす施策を検討されているお客様などの需要も併せてお伺いしてまいりました。電力の見直しの取り組みについての温度の高まりを実感してきております。
(効果について詳しく知りたい方は、弊社までお問い合わせください)
当社では、はじめにオンプレミスで基盤を構築しましたが、データの拡張性を考えてクラウドアプリで作成へとシフトしました。エッジサーバをオンプレミスに設置することで拠点拡張を容易に、ストレージの増設のスピードもたかめることができます。
テストマーケティングで得られた示唆
- 根強いオンプレ志向
取り扱うデータ自体の機密性は必ずしも高くないケースでも、セキュリティポリシーや社内規定の観点から、オンプレミス構成を好まれる傾向が強く見られました。 - コストへのシビアな視線
国内では依然として通常のPDUが一般的であり、iPDUの導入コストが普及のハードルとなりがちです。だからこそ、いきなり全体導入ではなく「スモールスタート」で効果(省エネ・CO2削減・工数削減)を実証し、投資回収の道筋を作ることが重要です。
いきなり大規模に展開するのではなく、まずは1〜2本のiPDUから始めてみることを推奨しています。energy boardのトライアル(例:ノード数2、データ保存期間2か月)をお試しいただくことも可能です。
最後に
実際のデータで示すことが最も説得力を持ちます。「可視化」はゴールではなく、改善へのスタートラインです。単に電力を「見る」段階から、データを元に「動かす(制御・改善する)」段階へ。まずは手元の1本から踏み出してみませんか。
当社イノベーションセンターにあるShowcaseのデモ施設では、電力可視化の取り組みで得られたノウハウなどを紹介します。是非お気軽に、当社の営業担当までお問い合わせください。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。