- ライター:細谷 典弘
- 2008年ぐらいからデータセンターネットワークの調査・検証を始め、2020年くらいまでは、マルチクラウド基盤に用いられるハードウェアとソフトウェアの最先端テクノロジーに関する調査・検証と、案件の技術支援をする業務を担当していた。特に Kubernetes に注目して検証を行っていた。
その後は、放送システムの IP 化に向けた技術調査・検証と案件対応を行っていた。
現在は、AI インフラのあるべき姿を調査している。
【主な保有資格】
CCIE Routing and Switching (#16002)
CCIE Data Center (#16002)
Red Hat Certified System Administrator in Red Hat OpenStack(RHCSA) (EX210)
電気通信主任技術者(伝送交換)
目次
業務特化型AIとは
今回取り上げるAIは、皆さんが普段使われている ChatGPT、Gemini、Copilotなどではなく、具体的には表1のような特定の業務を行うAIになります。
つまり、表1から分かるように、何でも出来るAIではなく、特定分野の専門性を持ち、特定業務の効率を改善するAIが、業務特化型AIと呼ばれています。
なお、業務特化型AIは「ドメイン特化型AI」と呼ばれることもあります。
業務特化型AIに必要なインフラの要件
表1の業務特化型AIを見てみると、次のような要件があるのが感じられます。
- リアルタイム性
- データ秘匿性
まず、リアルタイム性が求められる業務特化型AIとして、ロボット制御のAIを例に挙げます。
もしロボットアームの位置がずれたり、過剰な力が加わったりした場合、ロボットアームの制御が正しい状態に戻るまで製品に不具合が発生します。
また、顧客認証でもリアルタイム性は重要です。
金融であれば、不正アクセスに気づく時間が長くなればなるほど不正取引や不正引き出しの被害額が大きくなり被害が拡大します。
顔認証などの入退出システムであれば、不正入場や認証待ちの行列が発生する可能性があります。
コールセンターであれば、お客様への回答時間が長くなれば長くなるほど、顧客満足度は低下します。
次にデータ秘匿性が必要な業務特化型AIの例として、顧客データ分析を例に挙げます。
顧客データ分析では、住所・氏名・年齢だけではなく、購買履歴・行動履歴・趣味嗜好などのデータも利用されます。
これらのデータは個人情報保護法の対象であり、もし外部漏洩の発生や不正利用が発生すると、法的責任や業務停止だけではなく、社会的信用を失うことになります。
社内QAで使われるデータでも、メールの内容や社内システムのデータを取り扱うため、個人を特定する情報やIP アドレス、パスワードなどが含まれる可能性があります。
よって、業務特化型AIのシステムを構築する場合、リアルタイム性やデータ秘匿性を考慮する必要があります。
業務特化型AIはクラウドではなく、なぜオンプレミスにも優位性があるのか
前の業務特化型AIに必要なインフラの要件で述べたように、業務特化型AIのシステムを構築する際は、リアルタイム性とデータ秘匿性がインフラに求められます。
もしリアルタイム性が必要な業務特化型AIをクラウドで構築するときは、クラウドとの通信が課題になります。クラウドとの通信では遅延が大きく、遅延が問題になる可能性があります。
データ秘匿性が必要な業務特化型AIをクラウドで構築するときは、データを安全かつ適切に管理することが課題になります。
まず、自社の学習データが他社で利用される可能性があり、他社に自社の知財が活用される可能性があります。
また、顧客情報やログなどの情報漏洩を防止するため、データに対して次のような加工をする必要があり、多大な工数がかかります。
- 仮名化:個人を特定できる情報をIDなどに変換
- 匿名化:個人を特定できる情報の削除や復元できない状態への加工
- 秘匿化:データの暗号化やマスキング
さらに、データの管理は個人情報保護法などの法令に遵守する必要があり、クラウドではオンプレミスよりも対応が大変になる可能性が高くなります。
次のAI時代に備えたAIインフラ
現在、AI分野ではAIエージェントやエージェンティックAIと呼ばれる活用方法が注目されています。
AIエージェント、エージェンティックAIという言葉は様々な意味で使われていますが、ここでは以下のように整理します。
- AIエージェント:特定のタスクを個別に行う秘書のようなAI
- エージェンティックAI:目的達成のために自ら推論して計画を立てて実行し、さらに再試行するようなAI
両者は自律性のレベルに違いがありますが、「自律的に動作する」という点では共通しています。
表2で、社内ネットワークSE業務をAIエージェントとエージェンティックAIで比較してみました。
特にエージェンティックAIを実行するためには、複数のデータを収集し、推論・試行、そして再試行を行い、さらに外部のシステムとも連携します。つまり、通信量は今以上に膨大になり、クラウドで構築した場合には、通信コストが膨らむ可能性が高くなります。
まとめ
ここまで、業務特化型AIをクラウドで構築する場合の注意点を挙げてきました。
もちろん、クラウドで構築するメリットもオンプレミスで構築するデメリットもあります。業務特化型AIを構築するときは、そのメリットとデメリットを検討し、クラウドで構築するのか、オンプレミスで構築するのか、もしくはクラウドとオンプレミスのハイブリットで構築するのかを決定します。
次回はオンプレミスで業務特化型AIを構築するときのネットワーク設計や標準化の動向について取り上げます。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。