
- ライター:猪子 亮 (Ryo Inoko)
- FY19 ネットワンシステムズに新卒入社
ビジネス開発本部にて社内/外 向けサービス開発、事業部門の支援を主に担当。
Web アプリケーションのフロントエンド、バックエンド開発(オンプレ/AWS)に加え、自動化推進(Ansible)、業務改善活動、開発エンジニア育成などを担当。
FY25 からシリコンバレーに駐在
スタートアップの発掘、市場調査などの業務に従事。
目次
1. Plug and Play とは?(超入門)
日本語サイトでは以下のように説明されています。
Plug and Playは、新しい未来をつくりだすような先進技術をもつスタートアップと各業界のリーディングカンパニー、大学や行政機関、そして投資家をつなげることでイノベーションを加速させ、世界が持続的に発展していくことを目指しています。
スタートアップ、大手企業、投資家をつなぎ、世界中のイノベーションを加速させることをミッションとして掲げ、2006年にシリコンバレーで創業。現在、世界18カ国30拠点以上に展開しており、ベンチャーキャピタルとしてDropboxやPayPal、Lending Clubなど多数のユニコーン企業を輩出してきました。またアクセラレーターとして、2020年は500社を超えるパートナー企業に参画いただき、1,000以上のプログラムやイベントを実施しながら2,000社以上のスタートアップの事業化・事業成長を支援しました。
—About Us, ABOUT PLUG AND PLAY
2. Selection Day とは?
アクセラレータープログラム開始前に行われる選抜イベントで、スタートアップがPnP パートナー企業に短時間ピッチを行い、どのチームが次のステップに進むかを投票で決める場です。
ピッチはカテゴリ(=PnP用語ではバーティカル) ごとにまとまって行われるため、探索したいテーマに沿った候補を一度に比較可能な場となっています。
その他のイベントとして6月と11月の年2回本社で行われる対外的な大型イベントのSummit などがあります。
- バーティカル(Vertical):
PnP では業界別プログラムをバーティカルと呼びます。
例) Enterprise & AI、Health、Fintech、Insurtechのほか、Advanced Manufacturing、Mobility、Energy、Brand & Retailなど。
PnP全体では25以上のバーティカルが展開されています。
参考: Vertical Industries: https://www.plugandplaytechcenter.com/industries

会場の様子
3. 当日の流れ
3.1. タイムスケジュール
- 8:30 頃 到着/受付
プログラム開始前のSelection Day ということもあり、比較的身動きは取りやすい人数規模
コーヒーとドーナッツを片手に着席、オープニングトークを待つ - 9:00 - 9:15 オープニング
- 9:15 - 9:30 基調講演(Plug and Play Tech Center Amit 氏)
- 9:30 - 10:30 スタートアップピッチ: Enterprise and AI Startup
- 10:30 - 11:30 スタートアップピッチ: Fintech Startup
- 11:30 - 13:00 Networking Lunch
用意されたケータリングを屋上でいただく
この日は学生と思われる見学者も多数見られ、オープンな場であるという印象 - 13:00 - 13:20 Archetype(フィジカルAI の企業) のデモ
デモではフィジカルAI のPoC 事例について、鹿島建設が手掛ける日本における河川増幅工事での活用が取り上げられた。
参考: How The 184-Year-Old KAJIMA Is Embracing an AI Future in Construction - 13:20 - 14:15 スタートアップピッチ: Insurtech
- 14:30 - 15:30 Enterprise & AI バーティカルのスタートアップ2社と面談
- (省略)
- 18:30 頃 - オフサイト ネットワーキングレセプション @Menlo Park
パートナー企業やスタートアップと自由に交流

屋上でのランチの様子
3.2. 内容
3.2.1. 基調講演
基調講演ではPlug and Play Tech CenterのAmit 氏による米国の社会課題の説明があり、これらの解決に繋がるスタートアップへの投資意欲があることが語られていました。以下はサマリです。
米国の医療:
米国での医療支出は世界最大だが国民の健康状態は先進国に見劣り。利用率の差ではなく、病院の統合による競争低下、管理コストの増大(他国の約5倍)、薬価の高さが主因として指摘。1975年から2010年の間に、医師の数は150%増加したのに対し、管理職の数は3,200%も増加したというデータもある。さらに肥満率や食習慣(例:欧州では禁止の農薬の話題)も健康問題の一因に。シンガポールの価格透明性や日本の食習慣・ライフスタイルなど、他国の事例から学ぶ余地がある。
高等教育:
学生ローン総額が約2兆ドルに達し、特に非STEMや無名校でROIへの疑念が強まり、高等教育への信頼が低下。卒業後も多額の負債が残り、従来型の大学教育が就業に十分つながっていないという認識が広がっている。
人材育成/職業訓練:
将来の雇用に対応するには実践的な職業訓練や徒弟制度への投資が不可欠。米国は他国に比べ徒弟制度の利用が低い一方、ドイツなどは普及している。大学一択ではなく、多様な育成ルートや起業家精神を育むプログラム(例:ティール・フェローシップ) の重要性が語られた。
健康に関する話題では、より良い状態である国の例として日本が取り上げられており、次のように述べられていました。
健康的な食事(未加工食品)、少ない食事量(「腹八分目」の習慣)、公共交通機関の利用、活動的なライフスタイル、教育省が監修する学校給食により、平均寿命が長く、特定の疾病率が低いとされます。
日本にいると中々気づけませんでしたが、アメリカで生活すると深く頷ける内容だと感じました。
- STEM:
Science, Technology, Engineering, Mathematics の頭字語で、科学・技術・工学・数学の分野をまとめた呼び名。
産業や社会基盤を支える分野で、需要が高く賃金も比較的高い職種が多い。
イノベーションや生産性向上に直結するため、各国が教育政策で強化している。 - ティール・フェローシップ(Thiel Fellowship)
投資家ピーター・ティールが2011年に設立した若手支援プログラム。
「大学進学が必ずしも最善の選択肢ではない」という考えのもと、23歳以下を対象に大学に通わず事業や研究に専念する条件で、2年間にわたり総額10万ドルの資金とメンターシップを提供するプログラム。
Oculus VR 創業者など著名な起業家も輩出しており、若者の挑戦を後押しする制度として注目されている。
3.2.2. スタートアップピッチ
Selection Day では、QA やコメントなどはなしに5分間の枠で各スタートアップが次々とピッチを行ってく形式でした。
ここでは個別の内容は扱いませんが、各バーティカルのピッチを横断して見えてきた点を下記にまとめています。
近頃カンファレンスやニュース記事などで扱われている内容がまさしく当てはまっている印象を受けました。
- エージェンティックAI の導入とそれによる自動化
メール送信、データ(DB) の変更、電話発信、インフラの制御など、行動するAI が当たり前に - 信頼性、安全性、ガバナンス
ハルシネーションの抑制、説明可能なAI 出力、レッドチーム、本番前のシミュレーション検証の他、データ主権に沿ったオンプレ/エッジへの展開 - 業界、業務特化型のAI
サイバー、建設、医療、自然災害など、ドメイン前提のソリューションが台頭 - ビジネスサイド向けの意思決定支援
断片的、マルチモーダルなデータを束ね、非エンジニアでもリアルタイムに判断できるUI や運用設計 - LLM からSLM へ
LLM の必要性は認識しつつ、特定ユースケース向けの小型、特化型AI を自社データで適合し、コストやセキュリティを両立
3.2.3. スタートアップ面談
今回Enterprise & AI バーティカルのスタートアップ2社と面談する機会をいただきました。
各社30分ずつの時間で5分間のピッチでは得られなかった情報やデモを見ることができ、直接対話可能な貴重な場となりました。
A 社はサイバーセキュリティ分野でのGenAI プラットフォームの標準化を目指した企業で、成熟度別にアプリを開発できる思想が印象的でした。

Gen AI プラットフォームにおける成熟度別3層モデル(先方の説明にもとづき作成)
B 社はデータサイエンティストなしに自然言語でデータ分析が行える世界を目指しており、自然言語から探索→仮説→検証→可視化 といったサイクルを回し、インサイトを提供してくれるものでした。
デモでは米大手通信会社での活用例をもとに、ユーザーは「なぜ私の解約率が上がったのか?」といったオープンな質問をするだけで、インサイトとその根拠となるデータへのリンクやROI、コスト試算などを含んだ詳細なアクションプランが出力される様子を見られました。
データ分析、BI といった分野はAI との相性がいいだけに、様々なプラットフォームやソリューションが乱立しており、各スタートアップは独自の強みがより求められる印象があります。
4. まとめ
Plug and Play のピッチは投資の機会を求めるスタートアップにとって投資家に直接アピールできる場であり、PnP パートナーもいち早くスタートアップの情報を得られる場でした。
また、ネットワーキングを通して様々な方と直接対話可能で、インターネットやAI を通してどこからでも効率的に情報を得られる現代においても、とても価値ある場だと感じました。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。