
今年6月に開催されたInterop Tokyo2025に、データセンターネットワークとデータセンター間接続という2つのテーマで弊社から出展いたしました。その内容について一部ご紹介いたします。
- ライター:中嶋 太一
- 現在は東日本第2事業本部SP事業戦略部にて、応用技術部時代よりかはフロント寄りのプリセールス業務に従事。
過去には、XOCにてCisco/Juniper社のルータやスイッチを始めとしたNI製品全般の障害対応業務や応用技術部にてCisco ASR9000/NCS5500(IOS-XR), Juniper Mist Wired/EX, Apstra/QFXの製品担当業務に従事。
保有資格:
CCIE RS, SP
JNCIP-DC, SP, ENT
JNCIS-MistAI-Wired
目次
背景と目的:Interop Tokyo 2025 展示の狙い
展示概要
Interop Tokyo 2025では、Cisco Systems社(以降Cisco社と省略)のブース内にて弊社が2つのテーマで出展しました:
- データセンターネットワークのソリューション
- データセンター間接続のソリューション(本ブログの対象)
展示詳細:Interop Tokyo 2025 出展情報
https://f2ff.jp/2025/interop/exhibitor/show.php?id=3149&lang=ja
本ブログでは、2つ目のテーマであるデータセンター間接続のソリューションに焦点を当てます。具体的には、「データセンター間接続の可視化と運用効率化」に関してとなります。
展示の背景
近年、データセンター間のトラフィックは急増しており、接続装置の状態や性能をリアルタイムに把握することが、安定したサービス提供と効率的な運用のために不可欠です。
展示の目的と構成
今回の展示では、データセンター間接続を模した検証環境を構築し、以下の2つの技術要素を紹介しました:
PCA(Provider Connectivity Assurance)
- ネットワーク性能と装置状態の可視化を目的とし、GUI画面の動画を通じて、リアルタイム監視の様子を紹介しました。
RON(Routed Optical Networking)
- データセンター間の長距離伝送を実現する技術の一部として、100G-ZRオプティクス(DP01QS28-E20)を静態展示しました。
※補足:当初はDP01QS28-E20を用いた実機検証を予定していましたが、納期の都合により、今回は一般的な25Gイーサネットインタフェースでの検証を実施しました。
なぜ PCA / RON の検証が重要なのか?
RON
RONは、IPレイヤと光伝送レイヤを融合し、EVPNやSegment Routingなどの上位サービスと連携することで、次世代ネットワークアーキテクチャを実現するCisco社のソリューションです。特に、データセンター間の長距離伝送、ネットワーク構成の簡素化、運用自動化に貢献します。
PCA
PCAは、ネットワーク性能の測定・分析・可視化を行うツールです。
主な特徴:
- Assurance Sensorをネットワーク内に分散配置し、高精度な性能測定を実施
- SNMPベースの監視に依存せず、Telemetryによるリアルタイムデータ収集が可能
- より詳細かつ即時性の高いネットワーク状態の把握が可能
PCA × RON の統合的価値
この2つの技術を組み合わせることで、以下のような長距離伝送の次世代運用ソリューションが構築可能になります:
- ネットワーク構成の簡素化
- 性能のリアルタイム監視
- 障害対応の迅速化
- SLAの保証とQoE向上
RONとは?
RONは、Cisco社が提唱するIPとオプティカル(伝送)を融合したソリューションです。既存ソリューションのIP over DWDMと比較し、Layer1のオプティカルを含めた物理ネットワークの簡素化を目指すことは同じではあるものの、過去にはなかった上位のサービスとして、Segment Routing /EVPNの活用やCisco Crosswork Network Automation 製品群を用いたコントローラによるネットワークの自動化も含まれる内容になります。
更なる詳細に関しては、過去に私が作成の下記ブログを参照してください。
ルータエンジニアから見たRouted Optical Networking (RON: ロン)
https://www.netone.co.jp/media/detail/20241108-01/
下記が100G-ZRオプティクスの展示状況です。来場者の皆様からご好評をいただいており、スマートフォンで写真を撮影される方も複数名いらっしゃいました。
図1.

事前にCisco社がネットワークインフラ(キャリア / ISP)部門において、下記のWDM長距離伝送ソリューションをInteropのAWARDに申請し、見事に審査員特別賞を受賞しました。詳細に関しては、下記URLを参照ください。
100G-ZR (Cisco QSFP28 100G ZR Digital Coherent Optics Module) によるWDM長距離伝送ソリューション
ネットワークインフラ(キャリア / ISP)部門
PCAとは何か?概要と目的
PCAは、マルチベンダ環境で、ネットワークの性能を測定、洞察による可視化を提供するソリューションです。主な目的は以下の通りです:
- トラブルシューティングの迅速化
- SLA(サービスレベル合意)の保証支援
- 運用コストの削減
- MTTR(平均修復時間)の短縮
- ネットワークの安定性・効率性の向上
このソリューションは、Cisco社が旧Accedian社を買収し、同社の製品「Skylight」をリブランディングしたものです。主に通信事業者向けですが、電力・ガス・金融分野などでも導入事例があります。
PCAが解決するネットワーク課題
アシュアードサービスの迅速な立ち上げ
- QoE(体感品質)やCoS(サービスクラス)に基づく差別化が可能
- 顧客満足度向上と収益成長に貢献
ネットワーク全体の可視化
- 高精度なネットワークおよびサービス試験
- 単一ダッシュボードでのエンドツーエンド品質確認
- 運用効率の向上と障害対応の迅速化
リアルタイムのパフォーマンスインサイト
- Assurance Sensorによる詳細なメトリクス収集
- 他社製データとの相関分析
- 機械学習ベースの分析による即時性の高い洞察
業界標準に基づくテスト支援
- RFC2544、Y.1564などの標準に準拠した測定
- スケーラブルで信頼性の高いテスト環境の構築
WAN依存アプリケーションのパフォーマンス監視
- 業務・運用アプリケーションの構成依存/利用依存の可視化
- ネットワーク設計・運用の最適化に寄与
PCAの全体像としては下図のイメージとなります。
図2.

引用元:ATX録画と資料:Provider Connectivity Assurance (旧 Accedian Skylight) の概要
https://community.cisco.com/t5/-/-/ba-p/5236325
PCAの主な機能
PCAは、ネットワークの状態を多角的に監視するための機能を備えており、主に以下の3つの機能に分類されます。
1. Active Monitoring
TWAMP(Layer 3)や Ethernet OAM(Layer 2)などのプロトコルを用いて、ネットワーク性能を能動的に測定します。測定結果はリアルタイムでPCAに送信され、即座に可視化・分析が可能です。
測定方法の概要:
- HW Sensor SFPから送信されたパケットにタイムスタンプ等のメタデータを付与
- 対向のSFPでそのパケットを受信し、遅延・ジッター・パケットロスなどの性能指標を取得
- 測定データは各種コンポーネントを経由して、PCA Analyticsに送信・蓄積されます
2. Passive Monitoring ※今回の検証では未実施
ネットワーク内を流れるトラフィックをキャプチャし、PCAに送信してパケットやフローの詳細分析を行う機能です。トラフィックの傾向や異常検知に有効です。
3. Device Monitoring
ルータやスイッチなどのネットワーク機器から、Telemetry(プッシュ型)でIF統計情報やCPU使用率などのデータを収集し、PCA上でリアルタイムに監視します。
従来との違い:
- SNMPによるポーリング(プル型)では、監視間隔が長く、CPU負荷も高くなりがち
- telemetryでは、より細かく・効率的にデータ収集が可能
本検証では、以下の2機能に焦点を当てて実施しました:
- Active Monitoring
- Device Monitoring
時間の都合上、Passive Monitoringは今回の検証対象外といたしました。
PCAを構成する主要コンポーネント
PCAは、複数のコンポーネントによって構成されており、それぞれが役割を分担してネットワークの可視化・性能測定・運用支援を実現します。以下は代表的な5つのコンポーネントです。
1. PCA Analytics
概要:クラウドネイティブなSaaS型プラットフォームで、収集されたパフォーマンスデータをリアルタイムに可視化・分析します。
主な機能:
- 単一ダッシュボードでネットワーク全体を俯瞰
- 詳細なパフォーマンスメトリクスの表示
- KPI/SLAのリアルタイムレポート生成
例:Active Monitoringで取得したデータをダッシュボード上で可視化
2. Assurance Sensors
概要:ネットワーク内の特定ポイントに配置され、パフォーマンスデータを収集するセンサー群
種類:
- Hardware Sensor:SFPタイプやモジュールタイプがある(特にSFPタイプは他社に類例が少ない)
- Software Sensor:コンテナ上で動作するSensor Agent
動作原理:
- SensorはSender/Reflectorの役割を持ち、テストパケットを送受信
- 実際のトラフィックと同様のネットワーク影響を受けることで、リアルな性能測定が可能
例:TWAMPを用いて、SFPタイプのHardware Sensor間で特定区間の性能を測定
3. Sensor Collector
概要:Assurance Sensorsや外部ソース(3rd Party)から時系列パフォーマンスデータを収集・変換し、PCA Analyticsにアップロードするコンポーネント
役割:
- データの収集・前処理
- フォーマット変換
- 分析基盤への連携
4. Legacy Orchestrator
概要:Assurance Sensorsの設定・管理を一元的に行うオーケストレーションプラットフォーム
主な機能:
- TWAMPセッションの作成・管理
- センサーの構成管理
例:複数センサー間の測定セッションを一括設定
5. Sensor Control
概要:主に各種Sensorの検出・管理を行うソフトウェア
主な機能:
- センサーの登録・制御
- Service Activation Testing(SAT)やCarrier Ethernetサービスの提供支援
連携:Legacy Orchestratorと連携し、センサー情報の同期を実施
例:新規センサーの検出後、Orchestratorに登録して測定セッションを構成
下図はPCAで利用されるコンポーネントがまとまったイメージとなります。
図3.

引用元: ATX録画と資料: Cisco Provider Connectivity Assurance のパフォーマンスモニタリング
https://community.cisco.com/t5/-/-/ba-p/5260426
PCAのユースケース
PCAの代表的なユースケースは以下の通りです:
- トラフィック断などの障害検知と、障害箇所の迅速な特定
→ 障害発生時の影響範囲を即座に把握し、復旧対応を迅速化。 - 各リンクの帯域利用率の分析によるボトルネックの特定とキャパシティプランニング
→ 将来的なトラフィック増加に備えたネットワーク設計に活用。 - 設定変更や新規機器導入時の影響評価
→ ネットワーク構成変更に伴う性能への影響を事前に検証。 - サービス開通前のテストによる問題箇所の事前特定
→ 商用サービス開始前に品質を担保し、トラブルを未然に防止。 - ユーザ体感に直結する遅延・ジッター・パケットロスのリアルタイム測定
→ QoE(体感品質)の維持・向上に貢献。
今回の検証内容
本検証では、以下の2つのモニタリング手法を用いました:
- Active Monitoring(TWAMP)
Hardware Sensor(SFPタイプ)を用いて、ネットワークの遅延・ジッター・パケットロスをリアルタイムで測定。 - Device Monitoring(Telemetry)
ルータにTelemetry設定を行い、インタフェースのトラフィック状況やCPU/メモリ使用率などの装置情報をリアルタイムで可視化。
検証構成
以降の図4.及び図5.のように、NCS540/version 25.1.1に実装し、相互接続した環境で検証を行いました。RONという観点では、ネットワークのシンプル化を意識したEVPN VPWS/ELAN over SRv6 uSID/ISISv6を利用いたしました。
Active Monitoring:
HW Sensor SFP間の性能測定用のテストパケットがEVPN ELAN over SRv6経由で流れます。
Device Monitoring:
試験機からのトラフィックはEVPN VPWS over SRv6経由で流れます。
図4. 構成

図5. 物理配線 ※Te-14とありますが、GigabitEthernetのGi-14の誤りです。
下図は、Active Monitoringにおいて利用されるSFPです。形状は一般的なSFPではありますが、ケーブルなしの状態でも装置へ実装することできます(アウトライン型)。※ケーブル接続する場合は、インライン型です。
今回の検証では、アウトライン型を利用しました。
図6. HW Sensor SFP (1G Short-Reach (SX) Transceiver, S1G-TE-PM-D-I)

図7. HW Sensor SFP (100/1000bT (CU) Transceiver, S1G-SX-PM-D-I)
引用元:Cisco Provider Connectivity Assurance Sensor SFP Data Sheet
検証結果
・PCA Analytics上の表示
Active Monitoringにより、TWAMPを用いて、ネットワークのパフォーマンス測定ができました。具体的には、ELAN over SRv6の遅延、ジッター、パケットロスの確認が継続的にできました。
図8.
Device Monitoringにより、ルータにて設定のtelemetry情報の取得ができました。具体的には、リアルタイムでEVPN VPWS over SRv6上を流れるトラフィック情報やCPU/メモリ情報の確認ができました。
図9.
以上、ネットワークにて性能測定ができた情報をダッシュボードで正常に確認することができました。
実際のInteropの展示では、上記内容の動画のキャプチャを行い、デモ動画を流しました。
PCA導入で考えうる課題と対策
1.データ量の増加と管理負荷
課題:
Active MonitoringやDevice Monitoringにより、パフォーマンスデータが生成されますので、大量のセッションが存在する場合には、ストレージや分析基盤に負荷がかかる可能性があります。
対策:
- Sensor Collectorによるデータの前処理(フィルタリング・変換)の最適化
- 保存期間やデータ粒度に関するポリシーの策定
- 不要データの削減によるリソース効率の向上
2.既存システムとの統合性
課題:
既存の監視ツール(例:SNMPベース)や他社製品との連携において、データ形式やプロトコルの違いが障壁となる場合があります。
対策:
- Sensor Collectorによるサードパーティデータの取り込みと変換機能の活用
- TWAMPやY.1564などの標準プロトコルを活用した統合設計
- 段階的な移行計画により、既存ツールからPCAへのスムーズな移行を実現
3.リアルタイム性とネットワーク負荷のバランス
課題:
Active Monitoringによるテストパケット送信がネットワークに負荷を与える可能性があり、特に帯域が限られた区間では影響が懸念されます。
対策:
- テスト頻度やパケットサイズの調整
- 重要区間のみを対象とし、帯域が限られた区間での利用の回避
- TWAMP設定の最適化により、反射側の負荷を軽減
4.運用スキルの習得と人材育成
課題:
PCAは従来のSNMPベースの監視とは異なる運用モデルであり、各コンポーネントの理解と操作スキルが求められます。
対策:
- Cisco社が提供するトレーニングプログラムや技術ドキュメントの活用
- 社内での技術勉強会やハンズオン研修の実施
- 初期フェーズでは外部ベンダーの支援を受け、徐々に内製化を推進
5.エンタープライズ向けへの適用性
課題:
PCAは通信事業者向けのソリューションであり、エンタープライズ用途ではコスト面や機能過剰の懸念があります。展示会ではエンタープライズからの関心もありましたが、導入には慎重な検討が必要です。
対策:
- エンタープライズ向けには、より軽量でコスト効率の高いCisco社のThousandEyesなどの代替ソリューションを検討
- PCAの一部機能(例:Active Monitoring)を限定的に活用することで、導入コストを抑える選択肢も検討可能
参考情報:
Cisco ThousandEyes
全体を通しての所感
以上、ネットワークの可視化や性能測定に関心のある技術者にとって、PCAとRONの組み合わせは、従来の運用手法を大きく進化させる可能性を秘めていることが確認できたかと思います。リアルタイム性・柔軟性・可視性を兼ね備えたこのアプローチは、将来のネットワーク運用のスタンダードとなるかもしれません。
RONに関しては、もともと検証などを通じたナレッジがあったため、そこまで難しくはありませんでしたが、PCAに関してはゼロベースからのスタートであり、事前学習から環境構築、検証、動画作成、展示会での説明に至るまで、一連のプロセスは非常に密度の高いものでした。Interop2025開催までの短期間での対応となりましたが、Cisco様からの多岐にわたる技術支援とご協力がなければ、ここまでの成果を得ることは困難だったと感じています。心より感謝申し上げます。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。