
急速に増加するデータ量とリアルタイム処理のニーズに応え、AIとエッジコンピューティングの融合が注目されています。本記事では、製造業や医療、公共インフラなど多様な業界での具体的な活用事例と、導入を支える最新技術・運用課題について解説し、今後の展望を探ります。
- ライター:島田 新五
- ネットワン入社後 ロードバランサーの技術主幹を担当、その後営業部門に異動し エンタープライズ案件を担当。その後、一度マーケティング部門を経験し、中部支社の営業部に転勤、エンタープライズ(特に製造業)案件を担当。現在は、マーケティング部門に異動となり、プラットフォーム系の商材を担当している。
目次
AIによって再注目されるエッジコンピューティング
現代社会において、IoTデバイスの爆発的な普及とAI技術の進化は、私たちのビジネスと生活を根本から変えつつあります。日々生成されるデータ量はかつてないほどに増大し、その情報をいかにリアルタイムで処理し、ビジネスに活かすかが企業の競争力を左右する時代になりました。

その中で、今改めて注目を集めているのが「エッジコンピューティング」です。AIアプリケーションの普及により、通信量の増大、リアルタイム処理などの従来のクラウドコンピューティングでは対応しきれない場面が増えており、エッジでの処理が不可欠となってきました。特に、リアルタイム性が求められる製造や交通、医療といった分野では、エッジとAIを融合させた「Edge AI」が、ビジネス変革の基盤として位置づけられています。
AIとエッジの融合が再注目される背景には、以下のような要因があります:
-
ミリ秒単位の低遅延が求められる用途の増加(自動運転、工場の制御など)
-
高解像度データの常時送信によるネットワーク負荷の増大
-
セキュリティ・プライバシー保護の強化要求
-
その場でAI推論を行い、即時の意思決定を可能にするニーズ
クラウドからエッジへのシフトは、単なる技術トレンドではなく、デジタル社会における運用現場の実情や事業継続性への配慮から自然発生的に起きている変革とも言えます。
エッジコンピューティングの大量展開が始まっている
エッジAIの活用を支えるためには、いくつかの重要な構成要素と技術が存在します。まず、データ収集の段階では、IoTセンサーやカメラなどから情報をリアルタイムで取得します。次に、収集したデータを即時に処理するために、産業用PCや専用のAIエッジデバイスが活用され、そこに搭載されたGPU(Graphics Processing Unit)やNPU(Neural Processing Unit)がAI推論を担います。推論には、あらかじめ学習済みのAIモデルが用いられ、エッジ側で異常検知や画像認識、行動解析などが行われます。
さらに、これらの処理を制御・統合するためのエッジオーケストレーションソフトウェアも不可欠で、クラウドと連携しながら、アプリケーションの更新や監視、セキュリティポリシーの適用が行われます。これにより、クラウドへの負荷を減らしつつ、現場での迅速な意思決定と制御が可能となります。
これらの技術的進展や運用面の改善を踏まえ、エッジデバイスはもはや一部の先進企業のみにとどまらず、多くの企業・自治体・医療機関などで本格導入が進んでいます。特に製造、小売、物流、公共インフラ分野では、数十〜数百規模のエッジ機器を現場に展開するケースが急増しています。これらの動向を背景に、各業界での具体的なエッジコンピューティング活用事例を以下にご紹介いたします。
製造業:スマートファクトリーへの進化

小売業:新たな顧客体験と在庫最適化

医療:即時対応可能な遠隔モニタリング

公共インフラ・スマートシティ:市民安全のためのデータ

メーカー各社が推進するエッジ展開の簡素化
期待が高まるエッジの大規模展開ですが、その実現には導入や運用面でのさまざまな課題をクリアする必要があります。
具体的には、以下の通りです。
-
各拠点での設置・設定の煩雑さ
-
バラバラな構成・ソフトウェア管理
-
障害時の迅速な対応体制
-
長期運用を見据えたセキュリティと保守

Dell Technologies
例えば、Dell Technologiesの「Dell NativeEdge」はゼロタッチプロビジョニング*¹による迅速な初期導入や一元的なポリシー管理による自動化を実現し、複数拠点の統合管理を容易にします。
これにより、従来の個別設定の手間や人的ミスを減らし、安全かつ効率的な運用を支援しています。また、vTPM*²やセキュアブート、LDAP連携などを含むゼロトラスト設計でセキュリティ面も強化されています。
*1 ゼロタッチプロビジョニング:遠隔から自動的にデバイスの初期設定や導入を行う技術
*2 vTPM(virtual Trusted Platform Module):仮想環境でのセキュリティ機能を提供するモジュール
Red Hat
一方、Red Hatの「Edge Manager」は、大規模なエッジデバイス群のフリート管理*³をGitOpsベースのポリシー駆動型で自動化し、OSやアプリケーションのライフサイクル管理も一括で行えるため、運用負荷を大幅に軽減します。
GitOpsとはコードとして管理されたポリシーに基づき環境を自動整備する仕組みであり、人手による設定ミスや遅延を防止します。さらに、OpenShiftやAnsibleとの連携によりインフラ全体の省力化を促進しています。
これらの例に限らず、HPE、Broadcom、Cisco、NVIDIA、Microsoftといった他の主要ベンダーも独自のエッジ戦略を展開しており、ハードウェアからミドルウェア、運用プラットフォーム、AIライブラリまで多層的な製品群が登場しています。
ベンダー選定においては、自社の業種や運用体制に合った機能・スケーラビリティ・エコシステム対応などを見極める視点が重要です。
*3 フリート管理:多数のデバイスを一括で監視・管理すること
ネットワンシステムズの取り組みとInnovation Showcase
ネットワンシステムズでは、エッジコンピューティングなどの先端技術に関する検証と知見の共有を積極的に行っています。弊社のネットワンブログでは各種ベンダー製品を用いた技術検証や実践例を紹介し、お客様の導入検討に役立つ情報を発信しています。
また、最新テクノロジーやネットワンで生まれた知見・新しいサービスなどを共に体験できるデモルームである「Innovation Showcase」では、AI処理やエッジセキュリティなどをテーマにしたデモやPoC環境を提供しています。具体的な導入イメージを持ちたい企業の皆様にとって、貴重な情報収集と検証の場となっています。
- エッジコンピューティングを実現するRed Hat Device Edge
- Red Hat Edge Managerによるエッジデバイスの宣言的な管理
- 新しくなったInnovation Showcaseを徹底解剖!提供コンテンツと最新事例のご紹介
導入を検討中の方は、ぜひInnovation Showcaseへお越しください。
エッジコンピューティングは、AIの普及とともに再注目され、社会実装に向けて急速に拡大しています。そして、今後の社会・産業のインフラを支えるキーテクノロジーとして、ますますその存在感を高めていくこと間違いなしです。
ネットワンシステムズでは、今後もこの分野での技術検証・共創活動を強化し、企業や社会の課題解決に貢献してまいります。
お問い合わせやPoCのご相談は、下記問合せフォームよりぜひお寄せください。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。