
AIやIoTの技術進化により、私たちの生活はこれまでにないスピードで変化しています。その中でも、近年『マシン・カスタマー』という新たな購買者の概念が注目を集めています。本ブログでは、『マシン・カスタマー』の定義や注目される背景、具体的なビジネス活用事例を紹介しつつ、私たちの未来にどのような影響を与えるのかを探ります。
目次
マシン・カスタマーとは
『マシン・カスタマー』は、米Gartner®社によって以下の様に提唱されています。
“機械顧客とは、対価を支払って商品やサービスを入手する、人間以外の経済主体です。 人間の顧客や組織に代わって行動し、すでに私たちの間にも存在しています。 ITリーダーは、競合他社に先駆けて戦略を構築し、収益を上げるために、機械顧客の新たな事例を利用することができます。”
出典:Gartner®, Presentation Slides: 50 Emerging Examples of Machine Customers, Don Scheibenreif, Mark Raskino, 23 May 2024
また、『マシン・カスタマー』の拡大について、Gartner社では以下のように予測されています。
“ガートナーの調査によると、CEOたちは、2030年までに自社の収益の平均15%から20%がマシン・カスタマーからもたらされると考えています*1。ガートナーのモデリングでは、マシン・カスタマーが2030年までに数兆ドル規模の購入に直接関与したり、影響力を持つようになると予測されています。2028年までには、150億個のコネクテッド製品が存在し、顧客として行動し、自分自身や所有者のためにサービスや消耗品を購入する可能性があります。”
出典:Gartner®, Presentation Slides: 50 Emerging Examples of Machine Customers, Don Scheibenreif, Mark Raskino, 23 May 2024
マシン・カスタマーが注目される背景
『マシン・カスタマー』はなぜ注目されているのでしょうか。その背景を、技術の進化と社会的視点から考えてみたいと思います。
技術の進化
技術的な側面では、AI・IoT・通信技術の急速な進化が挙げられます。
AIの登場によって、膨大な量のデータをリアルタイムで分析し、消費者やビジネスにとって最適な選択肢を提示することが可能になりました。また、IoT技術の進化によって、さまざまなデバイスがインターネットに接続できるようになり、さらに、デバイス間のリアルタイム通信を加速させるため、5Gなどの超高速なインターネット通信技術も進化を続けています。これらの技術の進化によって、『マシン・カスタマー』はデータに基づいた自律的な購買や判断を実現できるようになりました。
社会的視点
社会的視点では、消費者の利便性・効率性を重視する姿勢や、企業の競争力強化が挙げられます。
今日の消費者は、時間を節約し、生活をより快適にする方法を求めています。このような消費者のニーズを満たすため、スマート家電など、自分で操作しなくても自律的にサービスを行う仕組みが増えています。また、『マシン・カスタマー』は、企業にとって顧客との関係をさらに深化させ、効率化する手段となり得ます。さらに、自律的な購入や判断により、無駄な消費を減らし、リソースの無駄遣いを防ぐことができるため、社会全体のサステナビリティ向上にも寄与します。
これらの理由から『マシン・カスタマー』は注目され、今後の成長が期待されています。
ビジネスにおける実用例
『マシン・カスタマー』はすでにビジネスにおいて実用化されています。以下に、代表的な実用例を3つご紹介します。
HP Instant Ink
HP社が提供する『HP Instant Ink』は、プリンタが用紙不足やインク残量が少ないことを検出し、自動で発注するサービスです。
出典:https://instantink.hpconnected.com/us/en/l/v2
Amazon Dash Replenishment
Amazon社が提供する『Amazon Dash Replenishment』は、対応製品が消費する日用品の日々の使用量を計測し、残量が少なくなったら、自動で商品をAmazonに再注文するサービスです。
出典:https://www.amazon.co.jp/Dash-Replenishment-%E8%87%AA%E5%8B%95%E5%86%8D%E6%B3%A8%E6%96%87/b?ie=UTF8&node=4830978051
Walmart サプライヤーとの調達自動交渉
Walmart社は、サプライヤーとの調達交渉において、Pactum AI社が開発した自律型交渉チャットボットの導入を進めています。パイロット運用では、目標の20%を大幅に上回る64%のサプライヤーと合意に達し、これによって平均1.5%のコスト削減と、平均35日の支払い期間の延長を獲得しました。また、交渉が成立したサプライヤーの83%が、このシステムを使いやすいと評価しているとのことです。
出典:https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9124
マシン・カスタマーの普及によって生じる変化と課題
『マシン・カスタマー』は一部の分野で実用化が進んでいますが、社会全体にはまだ広く普及していません。今後、社会全体で普及が進んだ場合に予想される変化と課題について考えてみます。
変化
『マシン・カスタマー』が社会全体に普及すると、ビジネスの在り方に大きな変化をもたらします。企業が『マシン・カスタマー』を顧客とする新しいビジネスモデルが登場し、B2M(Business to Machine)サービスの拡大や、自律的な購入や取引を支えるための新しい社会インフラが構築される可能性があります。また、マシンが膨大なデータを活用して取引を行うため、今以上にデータの重要性が増していくことも想定されます。
課題
『マシン・カスタマー』の普及に伴っていくつかの課題も浮上します。
まず懸念されるのは、セキュリティとプライバシーの問題です。マシンが購買や取引に利用するデータが不正アクセスや悪用のリスクにさらされる可能性があり、個人情報や取引履歴がサイバー攻撃の標的となることが考えられます。
このような課題に対しては、TLSによる通信暗号化、ゼロトラストモデルの導入、アクセス権限管理の徹底など、最新のセキュリティ技術を活用した対策が求められます。
また、マシンによる購買ミスや不適切な取引が発生した際の責任が曖昧になるといった倫理的な問題も無視できません。
このような課題に対しては、責任の所在を明確化するためのルール整備や、AIの意思決定プロセスの透明性を向上させることで、トラブル発生時にも適切な対応が可能になります。
今後の展望
『マシン・カスタマー』は、企業や社会全体に新たなビジネスチャンスをもたらすことが期待されます。異業種間でのデータ相互活用や共創によって新しい製品やサービスが生まれ、社会全体の効率性や利便性が向上する未来を想像すると、とてもワクワクします。
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出典:Gartner®, Presentation Slides: 50 Emerging Examples of Machine Customers, Don Scheibenreif, Mark Raskino, 23 May 2024
1 2022 Gartner CEO and Senior Business Executive Survey: This survey was conducted to examine CEO and senior business executive views on current business issues, as well as some areas of technology agenda impact. The survey was conducted from July 2021 through December 2021, with questions about the period from 2021 through 2023. One-quarter of the survey sample was collected in July and August 2021, and three-quarters was collected in October through December 2021. In total, 410 actively employed CEOs, and other senior executive business leaders qualified and participated. The research was collected via 382 online surveys and 28 telephone interviews. The sample mix by role was CEOs (n = 253); CFOs (n = 88); COOs or other C-level executives (n = 19); and chairs, presidents or board directors (n = 50). The sample mix by location was North America (n = 176), Europe (n = 97), Asia/Pacific (n = 86), Latin America (n = 40), the Middle East (n = 4) and South Africa (n = 7). The sample mix by size was $50 million to less than $250 million (n = 58), $250 million to less than $1 billion (n = 81), $1 billion to less than $10 billion (n = 212) and $10 billion or more (n = 59).
Disclaimer: Results of this survey do not represent global findings or the market as a whole, but reflect the sentiments of the respondents and companies surveyed.
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