
サムネイル画像:筆者が撮影「INNOVATE24 Opening Keynotes」より
カンファレンスはConnect・Protect・Createの3つのキーワードで始まりました。
前回の記事では、自律ネットワークにおけるインテントの役割とAI・M/Lとの関係性、そしてネットワークのインテントへのオブザーバビリティに関する弊社の取り組みについてご紹介しました。
今回は、オブザーバビリティの仕組みから得られたインサイトを基にした、Actionの自動化について考察します。
先日開催されたTM Forum INNOVATE24のセッションでの最新情報と、弊社での具体的な取り組みを交えながら、考察していきます。
- ライター:赤坂 真樹
- 2007年にネットワンシステムズ入社後、技術担当としてCATV/社会インフラ、通信キャリア、製造業などの様々な業界を経て応用技術部にて先進技術を担当
2024年4月より、Net One Systems USA, Inc.に勤務
米国シリコンバレーに駐在し、先進技術調査とスタートアップ企業の発掘業務に従事
野山をこよなく愛する。最近はネットワークの自律化に注目している。
目次
開催概要:TM Forum INNOVATE24とは?
TM Forum INNOVATE24は、通信業界におけるAIと自動化などの最新動向について情報交換が行われる重要なイベントです。2024年9月24日から25日にかけて、テキサス州ダラスのGilley’s Dallasで開催され、私も現地で参加してきました。
このイベントには、900人以上の通信業界のリーダーが集まり、AIと自動化の実践的なロードマップを構築するためのツールキットやノウハウ、そして現在の課題が共有され、活発な議論が交わされました。
私が特に注目したセッションは、自律ネットワークの進化とその実用化に向けたワークショップ「Autonomous Network & the Path to ‘Zero-X’」です。自律ネットワークは、AI、ビッグデータ、クラウド、エッジコンピューティングなどの技術と連携し、サービスの迅速化、コスト削減、管理の簡素化を目指して各テレコムオペレーターが取り組んでいます。
また、第1回「ネットワークはどの様に進化するのか」で紹介したTM Forumによる「Autonomous Networks Technical Architecture」でも重要なポイントとなる、「Zero-X」(ゼロタッチ、ゼロウェイト、ゼロトラブル)に向けての現状と課題、そして機会についても活発な議論が交わされました。
右から
Himanshu Polavarapu氏 Verizon Associate Vice President - GTS Enterprise Architecture
Velamur Sudharsan氏 Verizon SVP & CIO, Network Systems
Sampath Paranavitane氏 InfoVision VP & Head of Global Strategy
Abhilash Vantaram氏 InfoVision VP Technologies & Solutions, Head of Cloud & Data, EmTech & Innovation
今回のセッションでは、自律ネットワークにおけるAIとデータの統合、主要な推進要因、障害、および企業と消費者市場に影響を与えるユースケースについて詳しく説明されました。
出典:INNOVATE24イベントページ
https://www.tmforum.org/events/innovate-americas
世界のテレコムオペレーターの現在の自律レベルは?
Sudarshan氏は、自律ネットワークの進化する状況について説明し、効率的なネットワーク管理のためには人間による介入を最小限にすることが重要であると強調しました。
彼は、従来のワイヤレスネットワークとは異なり、5Gは横断的なドメインにわたる運用を必要とするため、自律ネットワークが必須であると説明しました。また、ホームインターネットのような、常時接続が不可欠なユースケースでは、従来のサイロ化された運用方法では対応できないと指摘しました。
Sudarshan氏は、業界の成熟度レベルをTM Forumが策定した自律化レベルを用いて説明し、現状多くの企業がレベル2または3の段階に位置しており、運用の枠組みを強化することでより高いレベルの自動化を目指していると述べました。
TM ForumがCSP向けに取ったアンケート結果でも全ての項目で完全手動は1割以下となっており、約3割の事業者が既にクローズドループを実現している事実には驚きました。
図:自律レベルマトリクス
Himanshu氏は、自律ネットワークを促進するための基盤として、AIとリアルタイムデータ統合の重要性について詳しく説明しました。データ統合や既存インフラの変革における業界全体の課題にもかかわらず、これらの技術はネットワークの監視、トラブルシューティング、そして顧客体験の向上に寄与します。彼は、AIが運用効率を向上させるだけでなく、セキュリティ脅威や進化する顧客ニーズに対応するための大規模なネットワーク変更にも重要であると強調しました。
このディスカッションでは、組織および技術の適応の必要性も浮き彫りになりました。TM ForumのODAのような一般的なフレームワークの採用は有望とされていますが、具体的な運用状況に合わせたカスタマイズが必要です。
また、生成AIがネットワークの知識のギャップを埋め、技術者に効率的な問題解決ツールを提供する方法についても議論されました。
最後には、自律ネットワークが成熟するにつれて期待される未来について議論しました。敏捷でインテリジェントなネットワークは、ネットワークスライシングやリモート外科手術などの新しいサービスを支えるために、瞬時に自動調整が可能である必要があると指摘されました。
インフラ領域へのAI・M/L適用の最新サクセスストーリーの紹介 ~TM Forum INNOVATE24より~
9月25日午後のセッションでは参加オペレータによるケーススタディ・サクセスストーリーのセッションが行われました。
その中から自律ネットワークに関連する取り組みをご紹介します。
AT&TのPranav Das氏とRed HatのFrancisco Hernandez氏によるこのプレゼンテーションは、ネットワーク運用センター(NOC)の自動化を促進し、自律ネットワークへの道を切り開くためのプラットフォーム、DarkNOCの進化について発表がありました。

DarkNOCの主要な構成要素(発表より抜粋)
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AI Insights from the Network
このコンポーネントは、さまざまなネットワークドメイン(コア、トランスポート、RAN)で動作するさまざまなAIソリューションからデータを収集します。ドメイン固有言語モデルと高度な分析を活用して、改善のためのインサイトと推奨事項を提供します。 -
Actionable Automation
このコンポーネントは、標準化された自動化言語を使用して、AIインサイトを実行可能なステップに変換します。DarkNOCでは、さまざまなテクノロジーを抽象化し、複数のドメインを管理する能力を持つAnsibleを、自動化言語として選択しています。 -
GenAI Ansibleコード生成
Ansibleスクリプトの作成を自動化するために、DarkNOCはGenAI(ジェネレーティブAI)ツールAnsible Lightspeedを活用しています。これらのツールは、AIインサイトを、高品質なAnsibleコードに変換し、プロセスをさらに自動化し、手動開発の労力を削減します。
上記のDarkNOCは、コアネットワークとRANネットワーク環境でのテストに成功しており、今後のネットワーク運用の自動化に大きなメリットをもたらす可能性があります。また、Pranav Das氏は、今後の展望としてDarkNOCを継続的に進化させること、さらに他のドメインでのアプリケーションやデジタルツインなどの技術と統合していくことを示していました。
ネットワークの自律化への課題と、未来へ向けたAction
今回のINNOVATE24全体を通して、自律化への課題は概ね以下の4点が挙げられていました。
自律ネットワークへの道のりを阻む課題
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データ統合
ネットワーク全体からデータを収集し、AIモデルで活用可能な形式に整えることは、非常に手間が大きい -
AIモデルの信頼性
AIモデルの出力に対する信頼性を確保し、人間の介入を最小限に抑えることは、技術的な課題だけでなく、人間の行動変容も必要となる -
レガシーシステム
既存のシステムを新しい自律ネットワークのアーキテクチャに統合することは、不可能なものもあり、大きな労力を要する -
オープンAPIの活用
顧客やパートナーがネットワークAPIを利用して独自のサービスを開発できるようにするためのセキュリティや信頼性確保は、重要な課題となる
自律ネットワークは、通信業界の未来を大きく変える可能性を秘めています。AIとデータの活用によって、ネットワークの効率性、セキュリティ、信頼性、柔軟性が向上し、消費者に新しいサービスや体験を提供できるようになります。
ただし、まだまだ多くの課題があり、各通信事業者が積極的に取り組み続けることで、業界全体でこれらの課題を解決し、未来を形作っていくことが求められます。
そういった意味で、INNOVATEは非常に有意義なイベントです。今後も引き続き注目していきたいと思います。
弊社での取り組み、Ansible Lightspeedの紹介
最後に自律ネットワークへの弊社の取り組みとして、上記のサクセスストーリーでも紹介したRedhat Ansible Lightspeedを活用したネットワーク機器への適用検証についてご紹介します。
※本ブログでは実施した内容と結果の概要のみご紹介します。
Ansible Lightspeedとは
Ansible Lightspeedは、Red Hat社のAnsible Automation PlatformとIBM社のIBM watsonx Code Assistant for Red Hat Ansible Lightspeedを連携させ、AIを用いてAnsible Playbookを生成する機能です。このサービスを利用するには、Ansible Automation Platformとwatsonx Code Assistantの両方の契約が必要ですが、どちらもトライアル利用が可能です。
■検証構成

今回は実施したシナリオからネットワーク機器に対する設定変更について抜粋して紹介します。
- シナリオ ネットワーク機器の設定自動化
PaloAlto NetworksのFirewallの設定変更内容を実行するためのPlaybookをAnsible Lightspeedを使って作成する - 主要確認ポイント抜粋
Ansible熟練者が手動でPlaybookを作成する際に選択するモジュールと、Ansible Lightspeedが推奨するモジュールを比較 - 想定されるモジュール
①コマンドをそのまま投入するモジュール(例:xx_command, xx_config)
②設定する内容に特化したモジュール(例: xx_vlan, xx_user)
人間としては②のモジュールが推奨される事を期待したいところです。
- 結果
期待した結果を得るためには、プロンプトに工夫が必要でしたが、意図したモジュールでタスクが生成されました。ただし、日本語プロンプトではCommandモジュールで生成されてしまうことがあり、意図しない結果が出ることもありました。そのため、現状では英語で丁寧なプロンプトを記載する必要があります。

当たり前ではありますが、学習データによって適したモジュールでのタスク生成の精度が大きく変わるため、実際の運用現場ではモデルチューニング機能を使って精度を向上させる必要があります。また、ネットワーク機器を対象とする場合、現状ではモデルチューニング無しでの運用は難しいことが分かりました。
この様に、自律化ネットワークを構成するコンポーネントとしてAnsible Lightspeedは非常に有効なツールであり、自律ネットワークを目指す事業者に鍛えられる事で、デフォルトでの精度向上が期待されます。
その結果、エンタープライズのネットワークにおいても、自然言語により、ネットワーク機器の設定変更や運用を指示する事が出来る未来はすぐそこまで来ていると感じさせられます。
全3回にわたり、自律ネットワークについて考察してきましたがいかがでしたでしょうか。
自律ネットワークのアーキテクチャ、インテント・オブザーバビリティ、そして今回のActionの自動化と進めてきましたが、弊社ネットワンシステムズでは、データを活用した自律型ネットワークの実現に向けて、ネットワーク運用のワークフロー全体を構成するコンポーネントを整理し、取り組みを進めています。

自律ネットワーク全体のワークフローイメージ図:ネットワンシステムズが作成
ネットワンシステムズのイノベーションセンターでは上記の各領域についてのデモンストレーションの体験や、自律ネットワーク実現に向けたワークショップなどにご参加頂けます。ご希望の方は弊社担当営業までご連絡下さい。
◆ネットワンシステムズ【イノベーションセンター】
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。