- ライター:塩屋 晶子
- 2012年ネットワンシステムズに入社。Ciscoを中心としたコラボレーション(ビデオ)製品を中心に、新製品の技術検証、案件支援やお客様へのデモンストレーションなど啓発活動に従事している。
最近では、新技術を組みあわせた新しいソリューション開発や検証も行っている。
目次
はじめに
昨年5月にオープンしたイノベーションセンターでは、データをもとに判断するデータドリブンな新しい働き方へのアプローチや社内における従業員のエンゲージメントを高めるため、様々な取り組みが行われており、イノベーションセンター自体を実験場として、データを収集・蓄積・分析したものを働く社員や場所にフィードバックをしていくことを目指しています。
今回はオフィスにおける環境データ(センサーデータや映像データ)をいかに実践の場に取り込んでいくことが出来るか、という観点で映像データの利活用について、プロトタイプの1つの取り組みをご紹介させて頂きます。
開発したソリューションについて
エッジコンピューティングとは
映像処理のアーキテクチャとしては、クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングがあります。データを利活用していく上では、大量のデータと高速な処理に対応できる環境が必要となります。
従来のクラウドコンピューティングでは、すべての情報をクラウドに集約し、高性能サーバーで処理をしていますが、ネットワークを通じて遠距離のデータ送受信を行う関係で、通信の遅延が避けられませんでした。一方、エッジコンピューティングでは、データを生み出すデバイス近くの境界に配置することで、限りなく低遅延のリアルタイムな処理が可能となります。
図1. エッジコンピューティング
アーキテクチャ
構成としては、映像データの分析・処理については、NVIDIAのDeepStreamを採用しました。DeepStreamは、ビデオなどのデータをDeepLearningで効率よく解析するためのソフトウェアです。DeepStreamには、DeepStream SDK(画像処理用のソフトウェア開発キット)が用意されており、NVIDIA GPUを利用した高度なインテリジェントビデオ分析アプリケーションの開発が簡単に行えるツールとなっています。GPUサーバーに搭載したDeepStreamの分析エンジンを利用して映像データを分析することで、複数のソースデータを指定しマルチ処理することも可能です。
映像処理した結果として、人の座標データをメッセージキューとしてMQTTメッセージでアプリケーションサーバに送信し、アプリケーションサーバにて分析した結果を描画するという仕組みで構築しました。
図2. アーキテクチャ
プロトタイプ
今回はエッジコンピューティングの映像データ利活用の一つのユースケースとして、イベント会場の中の混雑度・動線分析を行いました。
DeepStreamでの処理
- 入力データを受け取るための設定(指定のフォルダ先の動画やRTSP等の指定が可能)
- 入力された映像データの解析処理
- 解析処理の結果を指定先に出力(映像データファイルやMQTTメッセージ等の指定が可能)
アプリでの処理
- 斜影で映っているカメラの映像データ内のオブジェクトX, Y座標を俯瞰で見える場合のX, Y座標に変換処理
- 俯瞰図側に、変換後のX, Y座標をプロット
試してみてわかったこと
- オブジェクトが映像の奥(遠く)の方でも追尾が出来ている
- オブジェクトがクロスした場合でも、一意のIDとして認識できている
- 一部、植栽を人として誤認識する場合もあった
図3. 混雑度分析・動線分析のプロトタイプ画面
今回、混みあった場合も含めて問題なく分析処理できることが分かったので、今後の展望としては、お客様へのご紹介・ご要望を集めながら、ユースケース化を検討していきます。
映像データの個人情報取り扱いについて
今回、プロトタイプの開発を進めていく上で考慮が必要だったのは、社内のカメラかつ防犯目的の映像データとはいえ、映像データ自体は個人情報として扱いが必要となるという点です。特に、利用するデータが個人情報として扱うかの判断としては、映像の中に映っている人の特徴量を扱うかどうかがポイントとなります。そのため、利用するデータとしてはその人個人が特定出来ない形で、マスキングしたデータを利用することで、個人の情報として取り扱われることがないため問題とはなりません。
参考:経済産業省:カメラ画像利活用ガイドブックver3.0
https://www.meti.go.jp/press/2021/03/20220330001/20220330001.html
おわりに
今回はエッジコンピューティングの一つのユースケースとして、映像データ利活用の取組みをご紹介させて頂きました。
社会課題に対して、多様な視点からICTを活用したソリューション、プロトタイプを開発しています。共創を含め、ご興味がある場合は、弊社営業担当までご連絡を頂けますと幸いです。最後まで、ご覧いただきまして有難うございました。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。