
この記事のポイント
『ONUG Fall 2023』のレポートを前・後編の2回にわたってお届けします。
今回は、企業が生成AIを取り込む方法や問題点、AIの導入動向についてご紹介します。
◆前編レポート (今回のBlog)
・技術トレンドとその進化
・具体的な利用例
・企業が導入する場合の課題と機会
◆後編レポート (次回続編) 12月上旬公開予定
・OpenAI 利用における注意点
・ChatGPT におけるコスト管理例
・コスト分析結果からのアクション実行例
- ライター:坂田 玲子
- ネットワンアカデミー講師として、約10年マルチベンダ環境における企業やサービスプロバイダのネットワーク構築・運用コース、RedHatコースを担当していたが、Ansibleを利用した自動で演習環境を提供するセルフラボを2016年に開発したことで、講師から自動化推進担当へ、現在はNetOneSystemsUSAで駐在員として日々奮闘中。
イラストが得意で、当社のキャラクター「コアルータン」をデザインした。
CCIE Routing and Switching
CCIE Service Provider
目次
はじめに
米国の大手企業が中心メンバーであるマルチクラウドのユーザグループのONUGですが、年に2回開催されるカンファレンスが今年もONUG Fall 2023として、米国時間の10月24日から2日間に開催されました。今回のONUGでは、生成AIがキーノートセッションでも取り上げられており、企業にAIを取り込む方法や問題点、特に、金融業界を中心にONUGユーザグループでAIの導入動向が議論されました。本ブログにて、ONUG Fall 2023で見えてきた北米企業のITトレンドと、弊社ネットワンシステムズが登壇したPoCセッションについて、2回にわたってご紹介します。
技術トレンドとその進化

< AIを中心としたテクノロジの進化 >
Andy Brown氏とPhil Tee氏のキーノートセッションでは、AIの企業導入に関する深い洞察を提供し、多くの参加者から関心を集めました。Andy Brown氏はSand Hill East, LLCのCEOであり、UBSやマイクロソフトでの経験を持つ一方、Phil Tee氏は元MoogsoftのCEOであり、最近デル・テクノロジーズに買収された後、現在はデルでAR戦略を推進する研究科学者として活動しています。
セッションは、AIを中心とした技術トレンドの進化に関する洞察から始まりました。近年、進歩的な企業はクラウドを利用し、インターネットから得た膨大なデータを活用して競争優位を築いています。特に、2022年にはデータブリックスやスノーフレークのような企業がデータ分析と処理の分野で目立ってきました。
また、COVID-19パンデミックがAIのサプライチェーン管理への応用に新たな視点をもたらしたことについても言及しました。ブロックチェーンや分散型台帳技術(DLT)のような新しい技術がAIと組み合わさり、世界中のサプライチェーンや貯蔵システムの統合と効率化を進めており、Phil氏は、デルのような企業がすでにグローバルなサプライチェーンを構築し、これらの技術革新に積極的に取り組んでいることを説明しました。
このようなサプライチェーンは今後次々に形成されていき、ここへの参加可否が企業の競争力を左右するため、すべての企業が積極的に参加すべきであると熱く語っていました。
さらに、2028年にかけて「エコノミックネットワーク」という企業、消費者、サプライヤー、流通業者、金融機関など、経済活動に関与する様々な主体が相互に連携し合いつつ形成する複雑なネットワークが誕生し、AIの進化がこれら全体を相互接続する形で進展することが示唆されました。
具体的な利用例
Andy氏は、JPMorganのプロダクトマネージャーがChatGPTを使用してウェルスマネジメントの新しいUIを構築した事例を具体例として紹介しました。開発経験がないにもかかわらず、この技術を用いて開発者に明確な要件を伝えることができたというこの事例は、AI技術がもたらす革命的な可能性を示しました。セッションでは、このような技術の使用が最終ユーザーに大きなメリットをもたらすことに焦点を当て、「創造性の民主化」という概念が提案されました。
また、マイクロソフトとグーグルによるコパイロットとデュエットの影響についても議論が行われました。これらのAIアシスタントが金融機関やビジネス、金融アナリストの作業プロセスにどのような変革をもたらしているかについての分析が提示され、プロセスの加速と効率化の可能性についての洞察が共有されました。ウォールストリートの企業からの報告では、若手の従業員がこの技術を使ってコーディングのパフォーマンスを80%から280%にまで向上させたという驚きの事例が紹介されました。
ロンドン証券取引所とマイクロソフト間の戦略的パートナーシップに関する話題もセッションのハイライトの一つでした。この発表では、マイクロソフトがロンドン証券取引所の4%の株式を取得し、彼らのボードに最高の技術者の一人であるスコット・ガスリーを迎え入れたことが明らかにされました。この取引は、マイクロソフトが金融セクターへの進出を図る重要なステップとして、テクノロジーと金融の分野での協力を推進する目的を持っていました。同様に、GoogleとDeutsche Bankが行った提携も紹介され、大手テクノロジー企業が金融業界への影響を拡大していることが示されました。
企業が導入する場合の課題と機会
セッションの終盤では、AIの導入における課題に焦点を当てて進行しました。Phil氏は、1回のAIトレーニングに6500万ドルもの費用がかかるという驚異的な事実を取り上げ、企業が直面する技術的な挑戦を浮き彫りにしました。さらに、彼はジェネリックなデータと特定のデータの使用の違い、そして多くの人々が大規模な言語モデルを「ブラックボックス」として受け入れている現状について指摘しました。参加者からは、AIモデルの決定過程を説明する難しさについての質問も出されました。

< AI開発におけるプロンプトエンジニアリングとリソース活用 >
Phil氏は、「プロンプトエンジニアリング」という新しいスキルセットの必要性を強調し、これがAIモデルに望ましい出力を生成させるための入力を設計する重要な技術であると述べました。また、開発者が既存のモデルを活用することの効率性についても言及しました。彼はAIアプリケーション開発におけるコンピューティング資源の配置の重要性、特にハイブリッド環境とクラウドリソースの組み合わせについても強調しました。
Andy氏は、Skyhiveの成功事例を紹介し、これがAI導入の課題にどのように応えるかを示しました。Skyhiveは企業が従来の役割ベースからスキルベースへの移行を支援するソリューションを提供しており、特に経営幹部が将来のビジネスニーズに応じて人材戦略を立てることを可能にします。彼は、経営幹部が3年後に必要となる機械学習の専門家、データサイエンティスト、プロセスエンジニアリングを理解できる人材などの要件を特定し、それに基づいて戦略を立てることの重要性を明確にしました。
Skyhiveのシステムは、企業がどこに向かっているのか、そして将来最も重視されるスキルが何であるかを理解するのに役立ちます。従業員は自身のキャリア構造をこの洞察に基づいて調整でき、同様のキャリアパスを歩んできた他の人々から学ぶことができます。例えば、彼らがどのような資格を取得し、どのようなキャリアの移動を経て出世したかなどの情報が参考になります。
大手グローバルUK銀行がSkyhiveをわずか16週間で実装し、12ヶ月未満で投資収益率(ROI)を達成した事例も紹介されました。Skyhiveは完全にコンプライアンスを遵守し、説明可能なAIを使用しており、企業が新しいテクノロジーを導入する際のリスク管理方法として注目されているとAndy氏は述べていました。
セッションの終わりには、参加者からの質問が活発に行われ、AIの実用的な利用方法やAIを利用したネットワーク運用への統合に関する多くの議論が交わされました。これにより、会場からはAI活用への積極性と興味が明確に感じられました。
まとめ
AIの採用は、競争上の優位性を保つために不可欠ですが、その過程でコストやAIに関するスキルの獲得といった課題が存在します。これらの問題を解決するためには、人材、プロセス、ツールを効率的に導入することが重要です。このアプローチにより、技術トレンドに応じて進化し続けることが可能となるでしょう。
また、ChatGPTを利用したアプリケーションにおいて、APIのコストは大きな課題となっています。この問題に対する具体的な解決策については、ブログの後編で詳しく紹介する予定です。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。