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プロセスマイニングとは?その手法を3つのステップでわかりやすく解説

ライター:吉田 将大
システムインテグレータでソフトウェア開発業務を経験した後、2018年にネットワンシステムズに入社。
前職での経験を活かした開発案件の支援や、データ分析基盤製品・パブリッククラウドの導入を支援する業務に従事。
保有資格: AWS認定ソリューションアーキテクトプロフェッショナル

目次

突然ですが、皆さんは「プロセスマイニング」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。

プロセスマイニングは、ビッグデータから価値のある情報を掘り出すというデータマイニングに由来するプロセス改善手法の一つです。

プロセスマイニングツールは、エンタープライズ ソフトウェアの中で最も急速に成長しているカテゴリの 1 つで、フォーチュン 500 企業の半数以上がすでに活用しており、ビジネスの成果と高い投資収益率の面で大きなメリットを享受しているといわれています。

今回は、プロセスマイニングの効果とその手法について3つのステップに分けて解説してみたいと思います。

企業のビジネスプロセスの現況と課題

プロセスマイニングの説明の前に、まず「プロセス」について考えてみたいと思います。

我々企業のビジネスには、多種多様のプロセスが存在しています。
プロセスとは、ある結果を達成するために特定の順序で行われる一連の作業です。

例えば営業部門であれば、

  1. リード(見込み顧客)を獲得する
  2. コンタクトを取る
  3. 受注する

であり、カスタマーサポート部門であれば、

  1. 顧客からの連絡で問題を認識する
  2. 問題の原因を調査する
  3. 解決策を検討する
  4. 問題を解決する

といったものが業務を遂行するためのプロセスとなります。
エンタープライズでは、これらのプロセスを数千規模の社員が日々行っており、また、CSM、ERP、SCMのような情報システム上で処理されることが一般的になってきています。

このような状況の中、これらのプロセスを管理し、改善していくことをミッションにしているマネージメント層やエグゼクティブは、

  • プロセスが本当に必要なものなのかどのように判断するのか?
  • プロセスに問題がある場合、どのように原因を特定してどのように改善するのか?

という課題に直面することになります。

従来のプロセス改善手法

現状のビジネスプロセスの課題が見えてきたら、企業はそれをどうやって改善していくかを考えます。

一般的なプロセス改善の方法としては以下のようなものがあります。

  • 標準化
    可能な限り再現可能にし、常に設計通りのプロセスを実行可能にすること
  • 合理化
    プロセスから冗長・不要な作業を取り除くこと
  • 最適化
    品質の向上やコストの削減など、より多くの価値を生み出すためにプロセスを再構築すること
  • 自動化
    人間の努力を必要とするプロセスの側面を取り除くこと

従来のプロセス改善では、これらの手法を、しばしば主観的な推測に基づいて、かつ多くのコストと時間をかけて、時には既存のシステムの総入れ替えを伴って実行してきました。

プロセスマイニングでも、上記の改善手法を適用していくことは同じですが、現在業務で使用している情報システムから出力されるデータからインサイト(洞察)を得て意思決定するという点でアプローチが異なります。

これにより、客観的な事実を基に、より早く正確に、今のシステムを作り変えることなくプロセスを改善できます

ステップ1: プロセスを可視化する

プロセスマイニングの最初のステップは、プロセスを可視化することです。

既存のプロセス改善が失敗する要因として、プロセスがブラックボックスになっており、その全容を正しく認識できていないことが挙げられます。これにより、改善効果の少ない施策を実施したり、効果を正しく評価できなかったりしてしまいます。

可視化のステップは、プロセスマイニングの世界では、「プロセスのX線(レントゲン)写真を撮る」と表現されます。人間の体でも、体の不調を発見するには、今まさに自分の体がどんな状況なのかを知ることから始めることと同じ考え方です。

プロセスマイニングでは、情報システムのイベントログを収集して、プロセスを人の目で客観的に認識できる形に可視化することから始めます。現代の業務プロセスの多くが情報システム上で処理されていることが、プロセスマイニングを可能にしています。

タイムスタンプ付きのイベントログには、プロセス内の各手順に関する様々な情報が含まれています。
例えば、カスタマーサポート業務のプロセスであれば、

  • 問い合わせ日時
  • ケースオープン日時
  • 原因調査開始日時
  • 担当者アサイン日時
  • 回答日時
  • 問題解決日時

といった情報を、実行ユーザやその他の様々な属性値とともにログに記録しています。
プロセスマイニングツールは、これらのイベントログから、プロセスを一意に特定するID、プロセスのステータス、イベントのタイムスタンプを使って、時系列に沿ったステータス遷移のバリエーションを可視化します。

※参考画像:弊社で検証・評価を行ったCelonis 社のプロセスマイニングツール

我々が日々業務遂行のために利用しているシステムから、洩れなく、誤りなくデータを取り込めていれば、これがデータによって浮かび上がったプロセスの全容ということになります。

これはプロセスマイニングの最初のステップであり、この時点で正しくプロセスを可視化できていないと以降のステップにどれだけ時間とコストをかけてもプロセス改善は成功しません
そのため、この時点でデータの値に誤りがないか、想定していたフローと大きな乖離がないか、データの件数が少なすぎたり、多すぎたりしていないか、といったことを、実際に業務を担当しているメンバやシステムの管理者などが協力してチェックしていくことが肝心です。

ステップ2: プロセスの非効率性を発見する

プロセスが正しく可視化できたら、現在のプロセスの非効率な箇所を発見していきます。

X線写真を見て実際にどこに悪い箇所があるのかを調査していくステップです。

プロセスマイニングツールでプロセスを可視化すると様々なことが見えてきます。
上の図で分かるように、プロセスのフローは全て同じ手順で1本の線を辿るわけでなく、実際は同じ業務のプロセスでも、内容や作業者などの条件によって様々に分岐しています。

例えば、

  • プロセス1件あたりにかかる工数の全体平均は2.5H
  • 最もパフォーマンスの高い社員は平均の半分以下の工数で完了している
  • ある特定のステータスに想定以上の工数がかかっている(ボトルネック)
  • 想定していないフローを辿っているプロセスが存在する(逸脱)
  • 同じフローを繰り返している(重複)

といったことがわかれば、それぞれのプロセスフローにどのような違いが存在しているかについて調査します。

プロセスマイニングツールでは、想定される非効率なパスをフィルター処理してドリルダウンし、全体のスループットが改善されるかどうか仮想的にテストできます。
また、ツールによっては機械学習により、ユーザが想定できていない非効率性を発見することもあります。

このように、正しく可視化されたプロセスに対して、データの加工やフィルタリング、時には担当者や顧客属性などの外部参照情報を紐づけ、プロセスの問題点は何かといったことを徹底的に洗い出していきます。

この時に重要なことは、目指すべきゴールと、その判断基準となる指標は何かということを事前に定義しておくことです。

データマイニングではビッグデータを使用してプロセスを分析します。
KGI、KPIを定義しておくことで、どのようにデータを加工する必要があるのか、どのような観点でデータをフィルタリングするのかということを見失わずに分析を進められます。

繰り返しになりますが、このステップでも、実際に業務を担当しているメンバやシステムの管理者などの協力を得ることが重要です。問題とされるプロセスは、本当に非効率なフローなのか、もしくは想定される必要なフローなのかといったことをディスカッションしながら進めていくことが必要になります。

ステップ3: 分析から得た洞察をアクションに変える

最後に、データから得られた洞察を基に、実際にプロセスを改善する施策を実施していきます。

人間の体で言えば、特定された不調の原因に対して、医療的な処置を実施していくステップになります。

前のステップで導き出されたプロセスの問題点に対して、冒頭で挙げた標準化、合理化、最適化、自動化といった施策を適用していきます。

社員によってプロセスフローのバリエーションにばらつきがあり、それがコスト増の原因と考えられれば、まずは高パフォーマンスなユーザのプロセスを基に標準化することで解決する可能性があります。

プロセスのボトルネックとなっている処理が不要であれば取り除き、必要な処理であれば、自動化によって時間短縮やコスト削減できないかを検討します。

プロセスマイニングツールの中には、データの取り込みや分析だけでなく、プロセスの自動化に寄与する機能を持つものもあります。
想定されたプロセスを逸脱した場合や、プロセスに遅延が発生した場合に通知を送信したり、データの取得元である情報システムに対して自動でステータスを変更するなど、データの可視化、分析だけでなく、プロセスマイニングによって導き出された問題点に対する改善策を実際の業務に適用するところまでを一貫して行えます。

このステップで実施した改善施策の結果、事前に定義したKGI、KPIが達成されるかどうかを、イベントログから収集されるデータからマイニングツールを通して継続して観察していき、必要であればステップ1やステップ2に戻り、再度可視化や分析の見直しというサイクルを繰り返すことで、プロセスを常に今より良い状態に改善していきます。

まとめ

今回は、プロセスマイニングでプロセスを改善する3つのステップについて紹介しました。

プロセスマイニングとは、簡潔に言えば「情報システムのイベントログから、価値ある情報を抽出すること」と言えます。

それは、工数管理の数字や業務担当者からのヒアリングだけでプロセスの全容や問題点を推測するような、根拠のない主観に基づいた既存のプロセス改善から、データから投影される実際のプロセスの仮想的なコピー(デジタルツイン)に基づき分析、及びシミュレーションするプロセス改善への変化を意味しています。

プロセス改善においては、完璧なプロセスなど存在しません。常にプロセスをより良い形に改善していく仕組み作りのご参考になれば幸いです。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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