
- ライター:奈良 和樹
- 約12年、通信事業者向けの営業として、サービス設備、社内設備、法人営業部門などの現場を経験。その後、新領域や業界横断で活動すべく、営業推進部門へ。
モットーは「中心は顧客課題」。特定のテクノロジーに縛られず、幅広く扱いながら最適な組み合わせを模索して提案活動を行っている。
目次
2022年11月に世界人口が80億人に達する予測が出ており、人類は増加傾向にある一方で、日本においては働き手が減少する「2040年問題」が目前に迫ってきています。政府からはデジタル田園都市国家構想として各地域・都市における改革を進めていますが、ハコ(テクノロジーやツール、サービスなど)を用意するだけでは成功しません。まずは考え方を変える必要があります。
本日は、成功するために必要不可欠なCRMについてご紹介します。
1:デジタル田園都市国家構想の実現に必要不可欠なCRM(Citizen Relationship Management)
デジタル田園都市国家構想において最も大切だと感じるのは「No one left behind / 誰一人取り残されない社会の実現」という基本姿勢です。年齢や性別、出身や居住地などに関係なく多様性を受け入れる社会であるために、誰であっても蚊帳の外に置かれない必要があります。
ただ、情報を積極的に発信しても、全ての人に届けるのは容易ではありません。人口が今後も減少していく中、現実世界でのつながりを支えるために、デジタルで広くつながりを持っておくことが大前提になってきます。このため、まずは市民と行政や教育などの機関、各種システムとがデジタルでつながり、いつでもどこからでも情報をやり取りできる仕組みが必要になります。
次に、つながっている状態を保つためには、その仕組みが忘れられずに利用され続けなければなりません。利用するための敷居が高い、操作が分からない、使う必要がない、などの阻害要因を排除し、利用者が快適に使え、目的を果たせ、満足度が高まるための持続的な改善努力が求められます。
つまり、利用する市民全てをサービス利用者と見立て、良好な関係を維持し続けることが目標になります。勘や経験だけでなく、データを活用しながらこれを実現するために、CRMを活用していく事が必須になってきます。
2:CRMとは何か?
既に民間企業の多くでCRMは利用されています。この場合、CはCitizenではなくCustomerになりますが、複数の顧客との関係性を俯瞰的に見ていく、あるいは、担当者の主観だけに寄らずにデータで客観的かつ定点的に見て、顧客満足度を高めるために必要な施策を検討し、実行して、効果を確認する、というサイクルを実施しています。
公共の分野においてもCRMを取り入れる動きがありました。1990年代にニューパブリックマネジメントとして団体の運営方法を見直す動きがあり、2000年代に日本でも着目されいくつかの施作が行われましたが、大きく浸透することはありませんでした。
それが、次項で紹介する理由により、再び着目を浴びてきているのです。
3:いま再び着目される理由
データを政策検討の根拠として活用していくEBPM(Evidence-based policy making)を日本でも取り入れていく動きがありますが、データ分析する上で最も重要なことは「分析するために十分な量と品質のデータがあること」です。このデータの確保が現在では格段にやりやすくなっています。
一番の大きな要因はスマートフォンの普及です。たまに「高齢者はまだ持っていない」と言う方がいらっしゃいますが、統計でみると2020年の時点で9割近くの世帯で保有しており、インターネットを閲覧するデバイスとしてはNo.1で使われています。パソコンで閲覧する人が約5割、スマートフォンでは約7割との調査結果が明らかにされています。
(総務省 情報通信白書 令和3年版より)
ちなみに、気になってWebで検索してみると、
・固定電話はやや減少しながら約66%の世帯が保有
・自転車や自動車の普及率は50~60%程度
とのことで、自転車や車、固定電話やパソコンよりも普及しているのがスマートフォンであるのは間違いなさそうです。このパーソナルデバイスがあるために、過去に比べて飛躍的にデータを取得することが容易になっています。
この点はビジネス業界にも大きな影響を与えており、例えば小売業界ではデジタルがリアル世界を全て包含するOMO(Online Merges with Offline)戦略が台頭するなど、考え方の根底から変えるほどの影響をもたらしています。
同じように地域の様々なサービスがオンライン化されることで、公共サービスの在り方そのものが変化を余儀なくされるでしょう。
4:デジタル化の落とし穴
一方で、ただ闇雲にデジタル化しても成功しないことも明らかです。一例になりますが、現在の電子申請の利用経験は25%を下回っており、利用しない主な理由としては、「そもそも知らない」「やれることが限られている」「使いにくい」というアンケート調査結果が出ています。
(総務省 情報通信白書 令和3年版より)
サービス利用者の立場にとって、必要とされるサービスを揃えること、使い勝手が断念させる理由にならないUI/UXを設計すること、サービス自体の認知度を戦略的に高めていく事(この点が特に大切なのですが、それについては別の機会に)が重要と言えます。
また、SNSや特定のアプリに依存し過ぎてしまうことも将来的なリスクになり得ます。これまで無料だったキャッシュレスサービスや携帯電話サービスが有料化に踏み切ったニュースがありましたが、無料を永久保証したサービスはなかなかありません。民間企業が存続をかけて戦略的に進める中で、無償だったものが有償化されることは十分考えられますし、外部から非難すべきことではありません。ただ、そのために提供されていた公共サービスが中断されるような事態は避けなければなりませんので、特定のものに過度な依存は禁物です。
5:まとめ
誰一人取り残されない社会の実現のため、オンラインでつながる基盤の必要性、そのためにCRMが有効であることをご紹介しました。また、デジタル化の落とし穴にも触れましたが、細かいものを挙げ始めると書ききれません。ICTインフラについても、独立系SIerとして顧客視点を大切にしながら検討を進めているところです。
ご興味ございましたら、ぜひお声がけください。VUCAと言われる時代を泳ぎ切れるように、お客様と共に額に汗をかいてまいります。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。