
- ライター:山下 聖太郎
- 2007年にネットワンシステムズに入社し、無線LANの技術担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事しています。
最近ではサービス開発チームに所属し、無線LANやクラウド技術を利用したサービスの開発、提案をしています。
CCIE Enterprise Wireless(#61036)、第一級陸上特殊無線技士
第5回 シスコ テクノロジーコンテスト 最優秀賞受賞
Cisco APJC Partner Innovation Challenge 2019 Japan Sector 最優秀賞受賞
目次
「お昼くらいに無線LANの通信が遅くなると言われて困ってるのだけど…」
ご自宅で無線LAN使っている方であれば、
この一言を聞いた瞬間にビビッとくるものがあるのではないでしょうか。
お昼時という事なので、無線LANと同じ2.4GHz帯を利用する電子レンジと、電波干渉しているのかもしれません。
休憩中に一部のユーザが、大容量のコンテンツをダウンロードして、無線LANの帯域を食いつぶしているのかもしれません。
お客様との会話の中でその見解をお伝えすると、下記のような疑問を投げかけられた事がありました。
「電子レンジから2.4GHz帯の電磁波が漏れるというけど、最近の電子レンジならそんなに影響無いのでは?」
そんなお客様の疑問を解き明かし、問題を解決するべく、
趣味が高じて購入した私物のUSBタイプのスペクトラムアナライザを取り出し、いざ、電子レンジの影響について調査をしてみました!
果たして、どの電子レンジでも影響は同じなのか?
どれだけの距離まで影響があるものなのか?
本コラムではその調査内容について共有させて頂きます。
やるぜ やるわ
調査1:どの電子レンジでも影響は同じなのか?
まず比較的最近の電子レンジの動作を見るべく、
2017年製造の最大ワット数の異なるA社製電子レンジと、B社製電子レンジを用意しました。
電子レンジを30秒間動作させ、その間スペクトラムアナライザを隣に置き、漏れている2.4GHz帯の電磁波の強さを計測します。
すると、図1のように最大ワット数が大きいA社製電子レンジの方が強く、電磁波が漏れている事が確認できました。
図1.A社製とB社製の電子レンジの漏れている電磁波の強さの比較
この結果から下記の事が分かりました。
- 比較的最近の電子レンジでも2.4GHz帯の電磁波の漏れはある。
- 電子レンジの製品の仕様によって漏れる2.4GHz帯の電磁波の強さは異なる
- 2.4GHz帯で無線LANが利用している1ch~13ch全てに影響があり、中でも11chが最も大きな影響を受ける。
「電子レンジの仕様で漏れる電磁波の強さが違うんですね、通信への影響の違いもあるんですかね」
調査2:どれだけの距離まで影響があるものなのか?
次に、A社製とB社製の電子レンジが実際の無線LAN通信にどの程度影響を及ぼすのか
図2、図3のような環境を作り、30秒間電子レンジを動作させて、それぞれの距離毎に通信速度測定を実施してみました。
図2. 距離別の通信速度測定時の構成
図3. 距離別の通信速度測定時の位置関係のイメージ
・A社製電子レンジの結果
速度計測を開始し、途中から30秒間電子レンジを動作させたところ、図4のような結果となりました。
電子レンジ動作中は10m付近までは殆ど無線LAN通信が出来ない状態になり、
電子レンジが作動中にもう1台無線LAN端末を接続しようとした所、接続が出来なくなってしまいました。
図4.A社製電子レンジによる距離別の速度
そして驚いたことに電子レンジから70mの距離が離れた場所でも通信速度が半減したため、
例えば近隣の民家や建物が電子レンジを利用する事で、無線LANの2.4GHz帯の通信が遅くなる、という事も日常的に起こりえるであろうことが分かりました。
「70m離れてても影響があったんですか、思ったよりも遠くまで影響があるんですね」
・B社製電子レンジの結果
次に、A社と比べて比較的漏れている電磁波が弱かったB社製電子レンジも同様に調査してみました。
図5.B社製電子レンジによる距離別のスループットとスペクトラム
A社製の結果と比較をすると、電子レンジが動作中の通信への影響はA社製よりも低いため、
漏洩している電磁波の強さによって無線LAN通信への電波干渉の強さも変わる事が分かりました。
又、B社製でも70m離れた距離で通信速度に影響を与えている事から、電子レンジによる2.4GHz帯の電波干渉というのは、無視できるものではない事も分かります。
「なるほど、電子レンジを使うお昼時は、無線LANの2.4GHz帯は何があってもおかしくないですね」
まとめ:どの電子レンジでも2.4GHz帯の無線LAN通信に大きく影響を与える
電子レンジによる2.4GHz帯の無線LANへの影響というのは、近ければ近いほど影響度が大きく、
最新の製品であっても、広範囲に渡り無視できない影響がある事が分かりました。
なお、電子レンジによる電波干渉の対応策としては、下記の対応が一般的です。
- 電子レンジの設置場所の変更
- 2.4GHz帯だけでなく5GHz帯の併用
- 端末側やアクセスポイント側で5GHz帯の接続を優先させる設定を実施する。
今回のお客様でも、調査結果をお伝えしこれらの施策を実施する事で問題は無事解決となりました。
「5GHz帯を利用して改善したので電子レンジの影響だったようです、ありがとうございました!」
おわりに
近年の無線LANは利用できるチャネル数が多く、電波干渉源が少ない5GHz帯をメインで利用する事が主流になってきており、電子レンジなどの電波干渉によるトラブルを聞く機会も少なくなってきています。
しかし端末が2.4GHz帯にしか対応していないなどの理由で、2.4GHz帯をメインで利用しているお客様もまだまだいらっしゃいます。
2.4GHz帯は無線LAN以外にも様々な規格の製品が同じ周波数帯を利用している周波数帯のため、
今回のように電子レンジなどの電波干渉における影響を理解した上で、無線LANを便利にご活用頂ければ幸いです。
なお、5GHz帯だけの規格であったWi-Fi5(IEEE802.11ac)とは異なり、
新しい無線LAN規格であるWi-Fi6(IEEE802.11ax)は2.4GHz帯でも利用ができるため、Wi-Fi4(IEEE802.11n)から安定性や速度も向上はしております。
次回は別のお客様からご質問頂いた、「Wi-Fi6は今買うべきなの?」という疑問について、
70台のWi-Fi6対応ノートPCを使った、高密度端末検証の結果を元に解説したいと思います。
※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。