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スマートシティの実現には地道な下支えが重要

目次

新型コロナウィルス感染症の影響が長期化する中、感染症の拡大の防止とともにビジネス・経済生活の両立ということが市民生活の大きな課題となっている。これは、内閣府がSociety5.0として掲げている社会問題の解決と新しい価値の創造の両立という目標に相通ずるものである。Society5.0では、未来都市スマートシティへの期待として従来の地域課題の解決とともに新しい価値の創造とそれによるサービスやビジネスの創出をかかげている。サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)が実現するというものである。社会問題の解決と新しい価値の創出、それはまさに、コロナ後のニューノーマルに求められている姿そのものである。スマートシティの発展形として”スーパーシティ”という構想で提唱されている。しかし、一足飛びにそこまでいくには乗り越えなければならない様々な課題があり、”いまできることは何か?”というところからスタートしていくしかないのも現実である。本ブログでは、スマートシティ・スーパーシティを取り巻く課題とそれに対する方策について考察する。

1.スマートシティの進展

スマートシティの文字通りの概念は、ICT技術の活用による市民生活の質の向上を意味するものであり、その対象は、市民生活に関わるサービスすべてが含まれる。すなわち、行政サービス、金融、教育、ヘルスケア、社会福祉、交通、観光、防災、物流、環境保全などである。

スマートシティという概念が提唱されはじめたのは、2011年の東日本大震災前後の頃にさかのぼるが、その段階では社会に共通する問題をテクノロジーで解決する、いわば負をゼロに戻すという側面の方が強かったと記憶する。初期のスマートシティは、ハードウェアメーカー主導の実証事業という形が主流であった。電機メーカー、住宅メーカー、エネルギー関連などの大手企業が、自社の製品を活用して対象となる課題解決を実証する事業を提案し、それに対して経済産業省をはじめとした関連省庁や自治体が補助するという形態である。例えば、地域のエネルギーの地産地消のための大量の蓄電池や需給管理システムの導入などである。この形は、対象となる課題の解決にその製品が有効であるという実証には役立っているが、市民目線での課題解決というより、メーカーの持ち物の有効性の検証という意味合いが強かった。

第2期のスマートシティは、データの利活用による地域課題の解決ということが主要なテーマに掲げられ、行政主導でICT企業が技術や製品を提供するという形で進んできた。また、IoT技術の進展によりセンサーデータの利活用例の実証の側面が強かった。ハードウェアによる解決から、データの利活用、すなわちセンサーデータとソフトウェアによる解決である。しかし、ある特定の目的のためにだけしかデータは利活用されておらず、別の目的でそれを活用する点は考慮されていない傾向があった。その結果、分野毎、ITベンダー毎に異なるインタフェースの仕様のシステムが導入され部分最適されたシステムが乱立するという状況に陥った。ハードウェアにしろ、ソフトウェアにしろ、その技術がどこにあてはまるか? というアプローチである。技術主導でそれがどこにあてはまるか?というアプローチは、恩恵を受けられる人や環境が限定されてしまう傾向にある。その結果、格差がますます生まれてしまうことも否めない。

内閣府が提唱する第3期のスマートシティは、複数分野や複数都市でのデータの利活用ということを要件に掲げており、この構想をスーパーシティ構想と呼んでいる。そして市民目線、市民参加による新たな価値創造ということも重要なテーマとなっている。昨今誕生した菅新政権は、マイナンバーカードの普及を加速することを求めており、同じIDでサービス同士が連携し、市民一人ひとりに寄り添った形のパーソナライズされたサービスが提供される姿を目指している。

2.スマートシティを実現するには地道な下支えが重要

スマートシティ・スーパーシティを実現する上でキーになるのは、様々なデータとサービスとを仲介する役目を果たすプラットフォームの機能であることは確かであろう。ただし、その課題は、プラットフォームを構成するハードウェアやソフトウェアだけの問題ではない。最大の課題は、データの整備とセキュリティであると筆者は考える。

2-1.データ利活用環境の整備

スマートシティが扱うデータは非常に多岐にわたる。

都市を構成する施設や設備に関する設計・構成データ、それらが動作している実態や環境の状態を表すセンサーデータ、そこで生活する市民に関する情報、などさまざまである。

具体的には、地形情報、建物情報、道路情報、水道管情報、交通機関情報、交通情報、更には人間の位置情報、自然環境の水位、気温、騒音などの計測データなどがある。行政で扱う市民の属性や健康、教育に関する情報もある。IoTSNSなどを活用してそのデータの種類はますます増え続けることは間違いない。

データの利活用形態にも変化が起こっている。

従来のICTシステムは、個別の用途に応じた収集、集約、加工、蓄積、分析・活用というデータ処理のパイプラインが動いていた。

しかし、近年のIoTSNS、スマートフォンなどの普及により、データの発生源は多地点、広域にわたり、その活用形態も単一ではなくなっている。この傾向は、新型コロナの影響によるテレワーク、リモートワークの普及により更に後押しされることは間違いない。また、集めたデータの分析処理も応答に即時性が要求される場合もあれば、比較的長期の傾向が把握できればよいという場合もある。AI・機械学習を例にとると、学習段階では分析結果に即時性が求められないが、推論段階では即時性を求められるなどである。従来のデータ処理のパイプラインよりも多様で複雑なパイプラインをスマートシティのプラットフォームは実装できないといけない。

このような変化の中で非常に重要になるのは、データハンドリング技術である。

データハンドリング技術とは、多様なデータを意味ある形として使えるようにするための技術であり、その中には次のような技術が含まれる。

・もの(主としてIoTデバイス)からデータを取り出す技術 

・データを使う人に送りとどける技術

・データを加工・集約する技術

・データをカタログ化して保存する技術

・データ同士の関連性、つながりを可視化する技術

・システムとシステム間でデータを連携する技術

これらの技術は、従来はあまり意識する必要がなかったが、今後はスマートシティのプラットフォームを下支えしていく重要な技術になることは間違いない。それによって従来よりもデータは見つけやすくなるとともにデータ同士の相互関連性も意識してサービスを提供できるようになる。

2-2.セキュリティへの配慮

市民の安全の確保とプライバシーの保護は、スマートシティの非常に重要な要件のひとつである。広域にわたり様々な装置が接続されるスマートシティでは、従来のサイバーセキュリティにはない脅威やリスクも考慮しなければならない。例えば屋外にエンドポイント(センサー、カメラ)が設置され、そこが悪意ある攻撃者の侵入経路になりうる。扱うデータの多くにプライバシー情報も含まれる。そしてそれらを踏まえて達成すべき最大の課題は、個人を特定する情報とその個人に必要な情報が上手に連携して価値を提供しながら安全性を確保することである。従来の物理的な信頼性の境界で防御を行うだけでは不十分であり、認証認可技術、暗号化技術・匿名化技術などを適材適所で取り入れていく必要がある。

3.スマートシティの先にあるもの

従来の科学技術やデジタル技術の進展は、格差も産んできた。デジタル文化は若者のものであり高齢者は取り残されていった。サービスは、マスのお客様を相手に、最大公約数的なサービスを提供して利益を上げることが主眼であった。少数のニーズは、それがその人にどんなに重要な事柄であっても切り捨てられていった。自治体が提供する公共サービス、企業が提供するサービスは別のものと割り切られてきた。

スマートシティ・スーパーシティとそれによってもたらされるべき新しい価値の創造には、様々な格差の是正、社会全体としての持続可能性ということが要件に含まれている。

デジタル技術は、高齢者を助けるために利用され、ひとりひとりの個性にあった教育が施され、その人の体質や疾病歴によりそった医療が施されるのが未来社会の目指す姿である。

そのような姿の実現には、一時的に大量の資金を投じて施設を造るとか、工場を誘致するなどのかつての箱もの行政的なやり方は全く合わない。新たな価値を生み出すためのデータの利活用環境の継続的な整備という地道な下支えこそが将来を切り開くに違いない。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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