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SD-WAN?セキュリティ?米国の大企業も悩むマルチクラウドの活用と5つの注目領域

ライター:村上 丈文
国内外ITベンダーとの関係構築および商品・サービスの企画・開発とライフサイクル管理の責任部門をリード。

1998年3月横浜国立大学経済学部卒業。ユーザ系情報システム会社を経て、2001年5月 ネットワンシステムズ株式会社に入社。応用技術部にてネットワークエンジニアとして大手ベンダーやスタートアップの製品を担当した後、国際業界団体で標準化、コミュニティ活動に従事。その後、2012年4月より4年間Net One Systems USA, Inc.にて駐在員として新規商材の発掘、市場調査、顧客アテンドに従事。2016年4月より現職。2017年4月よりネットワンコネクト株式会社の経営会議メンバーを兼務。

CCIE R&S #8114
JNCIE-SP #125

目次

マルチクラウド活用に向けた企業の状況と課題

企業のクラウド利用が拡大するのに伴い、マルチクラウドの活用への意向も高まってきています。IDG COMMUNICATIONS, INC.社の調査レポートである「2018 Cloud Computing Survey」によると、回答した企業のうち42%もの企業がマルチクラウドを活用しているとのことです。

ITを用いてビジネスゴールを達成するためには、企業は脅威への対応と進展する技術の取り込みを同時に実施する必要があります。対象範囲が自社のデータセンターやキャンパスのみであっても大変ですが、複数のクラウドへと管理範囲が広がっていくと、さらに複雑性が増してきます。

このような状況下で企業は、本当に優先すべき要求事項が何で、それらを解決するためにどのような技術を使い、どのようなスキルセットを伸ばして、組織をどのように変革して取り組んでいけばよいのかを見出すことが必要ですが、要求事項に対する解決策として出てくるものも多様なため、フォーカス領域を見出すことはますます難しくなっています。

かつては少数のITベンダーがテクノロジーをリードしている状況もありましたが、いまや多数のスタートアップが台頭してきているのに加え、同様の解決策を提供するプレイヤーがITベンダーだけでなく、クラウドサービスプロバイダ、テレコムキャリアと多様に広がってきています。単一ベンダーにいくつかの課題解決を集約することで、ある程度の単純化は図れますが、一つのベンダーに依存し過ぎるあまり、選択肢が限定されてしまうといったベンダーロックインの状況に陥るのは避けたいので、そのさじ加減や、対象領域についても熟考が求められます。

マルチクラウド活用の未来について議論するユーザグループ「ONUG」とその活動内容

ONUGは、そのような共通の課題を解決すべく、北米の大手金融事業者を始めとした複数の企業のIT エグゼクティブたちが中心になって創設されたユーザグループです。今では、ベンダーやクラウド事業者、サービスプロバイダ、アカデミア、政府関係者、調査機関などエンタープライズITに関わるさまざまなステークホルダーが、これに加わっています。

ITエグゼクティブによるチャレンジやベストプラクティスの共有に加え、共通の要求事項の集約や、それを解決するオプションについて議論し、互いに学べる場となっています。

ONUGはもともとOpen Networking User Groupというグループで、文字通りOpen Networkingの分野に特化していました。たとえば、SD-WANに関して企業が導入する上での必要な要件を2013年時点ですでにまとめあげるなど、新しい技術を使いやすくするための活動を実施し、いくつかの場面でこれまでも業界に影響を与えてきています。

Open NetworkingからOpen IT Infrastructure、ハイブリッドマルチクラウドと領域が変わるのに合わせて、コミュニティ名もネットワークのみにこだわらず、ONUGが正式名称となりました。

ONUGの活動は主にワーキンググループ(以下、WG)を通して実施されます。WGによってその進め方は若干異なりますが、グループでの活動はユースケースの要求事項の定義やスコープの設定に始まり、各ベンダーが要求条件を如何に満たしているかを証明するためのPoC(Proof of Concept)デモ、それら全ての情報を統合した共通RFPテンプレートの作成や、リファレンスソリューションの共有というステップで進んでいきます。

これらの成果は半年に一度行われるカンファレンスで共有されます。下記の図は2013年から実施されてきたカンファレンスで、どのような活動が中心であったかを示したものです。インフラの仮想化からソフトウェアへの変化、ITの変革を通じたセキュアデジタルエンタープライズへの変化と、テーマが時代に合わせて変遷していることが見てとれます。

(THE ONUG Journey, ONUG FALL 2018におけるKeynoteセッションより)

現在のONUGのWGの主要な目的は、エンタープライズITを技術、組織、スキルそして文化の再編を通してハイブリッドマルチクラウド環境に適合できるものへと変革することであり、そのために必要なクリティカルな要求事項やリファレンスソリューションを見出し、発展させていくことです。

当然ながら、これらは非常に大きなテーマとなるため、この数年間の間にいくつかのWGに分けて議論がなされています。既に活動を終えたWGもいくつかありますが、2019年2月現在、5つのWGが活動しています。

各WGが対象としているのは、1)全体戦略、2)セキュリティ、3)可視化と分析、4)SD-WAN、5)コンテナの5つの領域です。非常に興味深いのですが、これらのトピックは私が日本の企業の方とお話をする際にもよくテーマに上がる内容です。日本の企業におけるマルチクラウドの状況は環境や歴史的背景も異なるため、米国の先進的なエンタープライズの状況とはやや異なる点も、当然多いのですが、大きな方向性や課題と考えていることは実はあまり変わらないと言えるでしょう。そのため、日本企業にとってもマルチクラウド戦略を策定したり、フォーカス分野を定めたり、対策を検討したりする上で、彼らが何を議論しているのか、その議論の結果、何が生まれてきたのかを把握することは非常に有用であると私は思っています。

各WGで議論している内容を下記に簡単に紹介します。こちらは2019年2月現在、掲載されているONUGのサイトの情報を参考に記載しております。最新の情報については下記のサイトを参照ください。(英語ページです。)
https://www.onug.net/community/working-groups/

HMC WG(Hybrid Multi Cloud WG)
ハイブリッドマルチクラウドの統合や使い分けに必要な、各種要素を議論しています。つい最近、ITエグゼクティブのみが参加可能なWGとなり、ベンダーやプレスの参加は許可されていません。WGの役割としては大きく二つあり、その他のONUG WGで解決すべきマルチクラウド関連の技術的要求事項の提言と、Global 2000企業がクラウドに適応する上での最大な障壁や障害を認識すること、となっています。後者に関しての対象範囲は技術的なものにとどまらず、IT部門のカルチャー変革の必要性や組織の変革、クラウドガバナンスやコンプライアンス、自動化やオーケストレーション、サイバーセキュリティ、データプロテクション、ポータビリティやレジリエンシーなど多岐にわたります。HMC WGはONUG全体の方向性や優先度付けに影響を与え、課題解決に向け業界を動かす、という役割を担います。

S-DSS WG(Software Design Security Service WG)
サイバーセキュリティやデータプロテクションは、デジタルトランスフォーメーションやマルチクラウドの実現にとってキーとなるユースケースです。S-DSS WGのフレームワークは、ポリシーとワークロードを結びつけるインテントベースのセキュリティアーキテクチャで構成されます。このアーキテクチャによると、ワークロードはベアメタルやハイパーバイザ―、コンテナ、サーバレスなどのホストモデルに依存せず、ポリシーの実行はオンプレミスやクラウド上などの物理的な場所に関係なく実行されます。

M&A WG (Monitoring & Analytics WG)
M&A WGのフレームワークはその名の通り、ハイブリッドマルチクラウド環境におけるモニタリングや分析のためのアーキテクチャであり、物理・仮想インフラおよびアプリケーションにおける情報の収集や送信、分析を物理的なロケーションによらず実行できることを目指しています。

SD-WAN 2.0 WG
SD-WAN 2.0 WGはエッジやマルチクラウド接続に関するユースケースの要求事項を集約しています。このWGは論理ネットワークのパフォーマンスとスケールのセキュリティとの両立など、次世代のSD-WAN環境に求められる各種要件のサポートにフォーカスしています。

Container Networking WG
業界がハイパーバイザ―からコンテナベースのワークロードに移っていくなかでコンテナオーケストレーションの自動化もコミュニティにとって興味のあるトピックですが、インフラを統合的に管理するためにどのようにソフトウェアを組み合わせていけばよいかについて十分に課題や解決策が共有されているわけではありません。このWGではまずコミュニティでコンテナに関するユースケースの要求事項を集約することをゴールとしています。

WGで実施している活動のうち、PoCのデモについてはONUGのサイトでビデオがあげられているほか、過去のWG活動を通して作成されたホワイトペーパーなども成果物の一つです。たとえばSD-WANに関するエンタープライズとしての要求事項をあげたホワイトペーパーのほか、マルチクラウドにおけるネットワークやアプリケーションのモニタリングのためのKPIや手法についてまとめたホワイトペーパー、RFPのモックなどがONUGのサイトに登録すればダウンロード可能です。これらは各WGのスコープとする分野におけるITの戦略を策定や、策定済みの戦略におけるギャップ認識などに活用されることを目的に作られています。

ネットワンもONUGのWGに参加

弊社は2017年8月よりONUGのWGに参加し、これまで2017年秋から2018年秋まで3回にわたってPoCデモも行いました。日本特有のユーザ事情に合わせてONUGのユースケースを具現化し日本のお客様にお届けすること、我々自身がお客様との会話の中で発見した課題についてコミュニティ側にフィードバックすること、海外の大手ベンダーやスタートアップ、ユーザ企業など、さまざまなステークホルダーとの関係構築や強化を目的として、活動を行っています。

前述のとおり、ONUGはOpen Networking User Groupという名称から始まり、ハイブリッドマルチクラウド環境においてGlobal2000企業が取り組むべき課題を抽出し、解決策を提示すべく活動しています。

私たちネットワンもまたマルチクラウド環境においてお客様がITをビジネスに活用できるよう、さまざまなソリューションやサービスを提供していきますが、私は、異なる環境をつなぐネットワークがこれらのキーコンポーネントであると考えています。弊社が創業以来培ってきた、ネットワークにおける知見やお客様との経験を活かすことができる場になることを期待して、ひきつづき参加を続けていきます。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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