ページの先頭です

ページ内を移動するためのリンク
本文へ (c)

ここから本文です。

IPDRでCATVインターネットの公平制御を!

ライター:松本 考之
ユーザ識別、アプリケーション識別を用いたトラフィックコントロールサービスの評価・検証業務を担当している。
お友達はシグネチャを用いたパターンマッチングと振る舞い検知。ライバルは暗号化技術。でも、個人情報とプライバシーを守るために最近和解した。
振る舞い検知君が連れてきた機械学習君と、最近仲が良い。

目次

ラグビーワールドカップに、東京オリンピック。大きなスポーツイベントが近づいてきましたね。
いろいろなメディアがその熱戦を伝えるべく、準備に大忙しですが、インターネットでの動画配信ももちろんその一翼を担っています。
インターネットを利用した動画配信サービスは、高画質化とそれに伴う広帯域化が著しく、2018年度の統計では、全世界のインターネットトラフィックの58%が動画トラフィックとなっています[1]
人気の高い動画コンテンツの配信時だけに限らず、恒常的に動画トラフィックがISPの帯域の多くを占めている現在、利用者ごとに公平に帯域を利用してもらう公平制御の重要性はとても高くなっています。

公平制御とは?

限りある帯域を利用者間で公平に利用してもらうには、帯域を超えた通信要求があった場合に、利用者間の帯域利用をお互いに、制限しあって、通信量を帯域内に収める必要があります。
この通信量の制限を利用者間で徹底的に公平に行うのが「公平制御」です。

図1 利用者10人の利用帯域を30Mbpsに単純制御する場合の例

図1は公平制御の特長を説明するために、10人の利用者がそれぞれ通信を行っていて、その合計が65Mbpsだった場合を例としています。
この10人の利用者の中から、20Mbpsの通信をしている太郎さんと、1Mbpsの通信をしている花子さんの帯域がどのように制御されるかを説明します。
図1では、合計65Mbpsの通信を30Mbpsの帯域に抑えるために、全利用者の帯域を単純に約45%に制限しています。そのため、太郎さんの20Mbpsの通信は、約9Mbpsに、花子さんの1MBpsの通信も約0.5Mbpsに制限されています。
一見して、この帯域制御は45%の制限が全利用者に公平に適用されているように見えますが、花子さんにとっては大変不公平です。
太郎さんも花子さんも同じサービスを利用しているのに、太郎さんは9Mbps、花子さんは0.5Mbpsしか通信を利用していません。
帯域を30Mbpsに制限して、それを10人で公平に分配するのであれば、30Mbpsを10人で割った、一人当たり3Mbpsの通信量となります。
この場合、太郎さんの通信はさらに制限されて3Mbpsになってしまいますが、花子さんの1Mbpsの通信はそのまま1Mbpsで利用を継続できます。
その図が次の図2です。

図2 30Mbpsを公平制御した場合の例

図2では利用者の通信を一括で約45Mbpsに制限するのではなく、一人3Mbpsという公平な帯域割り当てを行っています。
太郎さんは9Mbpsからさらに3Mbpsになってしまっていますが、実は3Mbpsではなく、3.4Mbpsの帯域が利用できています。
これは、公平制御の機能である「できるだけ、帯域を余らせない」機能によるものです。
太郎さんは、もともとの通信が20Mbpsですから、一人当たり3Mbpsの割り当て帯域を大きく超過しています。
しかし、花子さんはもともとの通信が1Mbpsですから、一人当たりの3Mbpsという割り当てに対して、2Mbpsの帯域が余っています。
この余った帯域を太郎さんのような、帯域が制御されている利用者に公平に分配する機能があるため、花子さんの余った帯域は太郎さんや、ほかの帯域が制限されている利用者に分配されているのです。
この単純な公平制御の仕組みは、実はかなりの機器処理能力が必要です。
図の例では常に10人が同じ速度で通信していますが、実際は通信している人数(割り算の分母になる数)は常に変動しますし、誰が、どれくらいの速度で通信しているか?(余った帯域を誰にどれくらい割り当てるか?)も常に変動します。
この調整を10人ではなく、ISPの同時通信利用者数である、数万人~数百万人単位で実行するには、ルータやスイッチ製品ではなく、公平制御機能を提供する専用の機器が必要になります。

IPDRでマンション毎の公平制御を!

この公平制御機能は様々なISPネットワークで利用できますが、今回はCATVネットワークでの利用例をご紹介します。
CATVネットワークではIPDR(Internet Protocol Detail Record)を用いる事でケーブルモデムを束ねるCMTS(Cable Modem Termination System)からケーブルモデム情報を公平制御装置に通知することが可能です。

図3 IPDRを利用した公平制御の利用例

図3では、マンション毎に一律1Gbps帯域制御を行い、1Gbpsの帯域制御に含まれる各部屋の利用者ごとに公平制御を行っています。
この例では、ブロードバンドルーターで接続された1号室から8号室の利用者は、1Gbpsの帯域を公平に分け合うことができます。
このような制御をマンション毎に設置したケーブルモデムではなく、CMTSと集約ルータ間に設置した公平制御装置で実現するために、公平制御装置はIPDRでCMTSからケーブルモデムのMACアドレスや、ケーブルモデムがブロードバンドルーターに配布しているIPアドレス群の情報を受け取っています。
IPDRで受け取ったそれらの情報を利用して、公平制御装置はマンション毎の一律1Gbps帯域制御と、マンション内の各部屋の公平制御を実現しています。

冒頭で触れたスポーツイベントの動画配信や、5Gによる超広帯域モバイル通信等、ユーザのトラフィック要求は今後さらに増大していきます。
これは、ISPのネットワーク設備に対する問題だけではなく、利用するエンドユーザの満足度にも大きな影響を与えます。これらの問題の解決方法として、適切な公平制御による帯域の有効活用をご紹介しました。


[1] Sandvine(2018). 「The Global Internet Phenomena Report」 <https://www.sandvine.com/phenomena> Page.4

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

RECOMMEND