電波で遠くへ配線する
-無線LANブリッジの注意点と目安

ビジネス推進本部 応用技術部
エンタープライズSDNチーム
丸田 竜一

建物と建物の間、山麓から山腹・山頂など、通信ケーブルを張って通信環境を整備することが難しい場所は多く存在する。
そこで無線LANを代替として、有線ケーブルを敷設せずに通信環境を整備する方法がある。これは無線LANブリッジと呼ばれる。
今回は、無線LANブリッジを検討する上での注意点、通信できる距離の目安について紹介する。

1.はじめに

無線LANブリッジは、限られたエリアの多くのクライアントに通信環境を提供する一般的な無線LANと違い、建物と建物の間や山麓と山頂の間など、2拠点間をつなぐために利用される。一般的な無線LANにおける注意点に加え、違った観点からも注意が必要である。

特に重要なポイントとして、アンテナとアクセスポイントの選定、通信路の確保があげられる。また、2拠点間はどれくらいの距離まで延長できるのかも気になるポイントである。拠点間をつなぎ通信環境を確保するため、これから紹介する注意点を考慮しながら導入を検討することを推奨する。

2.モデルの選定

まず、無線LANブリッジに適した製品を検討する。無線LANブリッジを構成するために、少なくとも適したアンテナとアクセスポイントを選定する必要がある。

アンテナは特に指向性が高いアンテナを選定する必要がある。特定の方向に強く電波を送信し、同時に特定の方向から強く電波を受信できるアンテナである。一般的な無線LANで使われるアンテナは、周囲に通信環境を提供するために広く電波を送受信することができるよう、指向性が低く設計されているが、それとは正反対の性質を持つアンテナである。この性質は利得ともいわれ、dBiという単位で表現される。アンテナのモデルによって性質は異なるが、一般的にはdBiの値が大きいほど指向性が高く、より特定の方向へ電波を送受信できる高利得アンテナと呼ばれる。周囲に通信環境を提供する必要がなく、特定の方向にある拠点と通信を行うための無線LANブリッジでは、このようなアンテナを選定する。

続いて、アクセスポイントの選定である。アクセスポイントは前述のアンテナとの組み合わせで選定する。アンテナとアクセスポイントの組み合わせには制限がある。コネクタ形状が合致し接続が可能であったとしても、使用してはいけない組み合わせがある。組み合わせが可能な構成は決まっている。これは、電波法令で規定されている等価等方輻射電力(EIRP)の上限値を超えないようにするためである。そのために、無線LANブリッジでの利用に向けたアクセスポイントがリリースされている。

以上のことから、アンテナとアクセスポイントの性質を理解し、製品を選定することが重要である。メーカーが公開しているアンテナとアクセスポイントの組み合わせから、ブリッジを目的とした構成を選定できる。

3.通信路の確保

次に、実際に設置する場所の検討も必要である。無線LANは空間中の電波を使って通信する。電波は光と音の中間のような性質を持っており、直進性は高いが遮蔽物に弱いという特徴がある。2拠点のアンテナとアンテナの間に電波を遮るような障害物が入ることや、ゴミや雪などが付着することが通信に影響を与える。また、風雨によってアンテナの向きがずれてしまうこともある。これらが原因となって通信が不安定になり、通信が断たれてしまうことがある。そのため、障害物が存在しない空間を設け、アンテナに異物をつかないよう対策し、アンテナ間の見通しを確保することが重要である。

加えて、フレネルゾーンへの考慮も必要である。アンテナ間で送受信される電波は一点を一直線にすすむだけではなく、その直線を中心とした楕円体の経路を通じて送受信される。特に通信に影響を与える部分を第1フレネルゾーンという。アンテナ間に電波を通す管のような通信路ができるのではなく、樽型の通信路ができるようなイメージである。通信路の確保においては、障害物のない樽型の通信路を確保する必要がある。

第1フレネルゾーン半径(樽のもっとも太い部分の半径)は周波数とアンテナ間の距離から計算することができる。例として、2.4GHzの電波を1km離れたアンテナ同士で送受信した際、フレネル半径は約5.5m 直径は約11mである。電波通信を遮らないために、この空間を確保することがベストである。

figure1
設置した時に問題なくとも、設置後に樹木が茂ってくることや、クルマや人の往来が発生することも注意が必要である。フレネルゾーンの中に障害物が入らないよう設置し、アンテナへの着雪や異物の影響を防止することが望ましい。

4.通信が期待できる距離

無線LANブリッジを検討する時に気になるポイントは「アンテナ間の距離をどれだけ離すことができるか」という点である。これはアンテナ利得とアクセスポイントの送信出力、自由空間伝搬損失の計算することによりおおよそ判明する。
Cisco Systemsからリリースされている屋外用無線LANアクセスポイントAP1530シリーズのアンテナ外付モデルと、高利得アンテナを組み合わせて使用した場合に期待できる通信距離は以下のとおりである。2.4GHzでは13dBiのアンテナを使用し、5GHzでは14dBiのアンテナを使用している。

table1

周囲の電波環境などの要因によりこの値を大きく下回ることも考えられるが、理想的な状態で1km弱の距離を802.11nの高いMCS indexで通信することができると計算できた。MCS indexとは、802.11nやacで数多くあるデータレートをわかりやすく表現したものである。計算に使用したAP1530シリーズではMCS index 15が最も高速データレートを表す値となる。

もちろん、無線通信であるため、有線通信ほどの品質は得られないことが多い。しかし、使用するために特別な許可が不要の無線LANを使って、これだけの距離を通信することができれば、配線が困難な場所での有線通信の代替として活用できるだろう。

まとめ

有線ケーブルの配線が困難な場所において、無線LANを有線の代替とすることは可能である。今回は1km弱の距離で通信が可能と計算することができた。しかし、一般的な無線LAN以上に、通信経路の確保や構成に注意が必要である。その点を意識して使えれば、配線が困難な場所へも通信環境を提供できる。

最後に重要なことは、免許が不要な無線LANであるため、他の通信からの影響を受け、品質が低下する場合もあることである。自由と引き換えに制限があることを意識すれば、より便利に無線LANを利活用できる。

執筆者プロフィール

丸田 竜一
ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部
応用技術部 エンタープライズSDNチーム
所属

入社以来無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、及び、提案や導入を支援する業務に従事。
・第一級陸上特殊無線技士
・第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞

イベント/レポート

pagetop