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次世代コンピュータとして注目を集める量子アニーリング

匠コラム

ビジネス開発本部 第1応用技術部
第1チーム
知念 紀昭

連載インデックス

はじめに

次世代計算機として注目されている量子コンピュータ、その方式の一つである量子アニーリングについて、二回に分けてご説明致します。

ノイマン型CPUの限界、注目される量子コンピュータ

半導体の集積率が18か月で2倍になるというムーアの法則が限界を迎え、従来のノイマン型CPUから次世代計算機への期待が高まっています。その候補の一つとして量子コンピュータが注目されています。

量子コンピュータは、古典力学では説明できない量子力学の現象を利用したコンピュータです。量子力学は原子のような微細な世界における物理現象を説明する力学です。量子力学で微細な粒は粒子の性質と波の性質の両方を合わせ持ちますが、主に以下の三つの性質が量子コンピュータに関係しています。

(1) 量子重ね合わせ:従来のコンピュータでは値を0または1で保有することによって計算が行われますが、量子コンピュータでは上向きスピンと下向きスピンで表現されます。そして量子コンピュータでは上向きスピンと下向きスピンの2つの状態を同時に保有しています。これを量子重ね合わせと呼びます。これを観察した時点で古典力学状態に移行してどちらかの状態に収束します。

fig1-1
図:量子重ね合わせ

(2) 量子もつれ:ある一つの量子の状態が、別の量子の状態に依存する現象を「量子もつれ」と呼びます。古典力学の世界では遠く離れたもの同士では相互作用が及びにくくなりますが、量子力学の世界では距離が離れていても相互作用が働きます。それはあたかも量子同士が「絡み合っている」ような関係で、重要な量子力学特性となります。

fig1-2
図:量子もつれ

(3) 量子トンネル:古典力学では超える事の出来ない領域を通り抜けてしまう現象です。古典力学では、山を乗り越えるだけのエネルギーを持っていない限り山の向こう側には到達できません。しかしながら量子力学の世界では、エネルギーの山を越えてよりエネルギーの低い谷に瞬間移動できます。あたかもトンネルを抜けてすり抜けたような現象のため、量子トンネルと呼ばれます。

fig1-3
図:量子トンネル

量子コンピュータはこれらの性質を利用しています。現在提案されている量子コンピュータの種類は、量子アニーリング方式と量子ゲート方式です。量子アニーリング方式は、組み合わせ最適化問題を解く事に特化した機械で、現時点で現実に近い問題が解ける量子コンピュータと言われています。量子ゲート方式は様々な問題を量子アルゴリズムで解ける万能機械で、量子加速により指数関数的な計算速度向上が見込まれていますが、実用化に至るまでは5~20年程度必要と言われています。

量子アニーリング

量子コンピュータの方式の一つである量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解く事に特化したコンピュータで、幾つかの制約はありますが現実的に解を得ることが出来ます。アニーリングとは、金属などの材料を加熱した後に徐冷する「焼きなまし」のことで、内部の組織を均質化する操作で、刀の製造などが例として挙げられます。

fig1-3
図:量子やきなまし

量子アニーリングは、量子重ね合わせと量子もつれの状態をもつゆらぎの過程で、焼きなまし(アニーリング)のような処理を行う方法です。高温時には大域的な解の探索を、また低温では局所的な解の探索を行い、そして量子トンネルの効果で局所解を避けて大域的最適解への到達が期待されています。アニーリングされる組織は、イジングモデルという結晶を構成する量子のスピンの向きを計算する簡易的なモデルで表すことが出来ます。スピンの向きは上向きもしくは下向きの状態を取っており、量子のお互いの相互作用と外部の磁場の作用を受けます。外部の磁場が大きい状態は焼きなましにおける高温状態に相当し、外部の磁場を徐々に小さくしていく過程が焼きなましの過程に相当します。

イジングモデルは個々のスピン変数の+1/-1の値を調整して、イジングモデル全体のエネルギーの最小状態を求めます。ここで量子の相互作用エネルギーをJで、外部の磁場エネルギーをhで、スピン変数をsで表わすと、イジングモデル全体のエネルギーは以下のようになります。

fig1-4
図:イジングモデル
fig1-5
図:エネルギー式

焼きなまし前には、各量子のスピンは上向きと下向きの両方の状態(重ね合わせ)を同時に持っています。焼きなまし後に観察すると、各量子は全体のエネルギーを最小化する上向きもしくは下向きのスピン状態になります。量子アニーリングを用いると、ミリ秒以下というわずかな時間でこの全体のエネルギーを最小とするスピン変数の組み合わせを求めることが期待できます。それぞれのイジング変数が+1/-1の値を取るため、N個のスピン変数の組み合わせ計算は2のN乗回必要となり、個数が増えると計算爆発になり従来のコンピュータでは膨大な時間を要します。

量子アニーリングマシンを実現するD-Wave

量子アニーリングマシンはD-Waveというカナダの会社が実用化しており、現時点で購入もしくは時間レンタルして利用することが可能です。D-Wave社は1999年に創業した量子コンピュータを開発・製造・販売・レンタルする会社で、2年に一度性能を倍増させた新しい量子アニーリングマシンをリリースしています。2019年11月現在で、2048量子ビットを備えたD-Wave 2000Qが最新機種となります。量子演算はQPU(Quantum Processing Unity)で行われます。QPUは断熱・防磁・電磁シールドされた真空内に設置されており、15mK(ケルビン)以下で作動します。量子演算は、ニオブのリングを絶対零度近くに冷却し超伝導状態にして、電流が右回りと左回りに同時に流れる現象を利用しています。QPU自体は電力をほぼ消費しないため、低電圧で演算可能です。

D-Waveによる量子アニーリングの計算処理は以下の手順で実施されます。

(1)磁場作用を強めて各量子ビット(先述の格子に該当)が独立して量子状態となる
(2)量子アニーリング処理が開始される
(3)磁場作用の低下によって量子ビット間の相互作業が強まる
(4)各量子ビットは量子もつれ状態となり様々な組み合わせの可能性が出現する
(5)量子アニーリング処理を終了する
(6)古典力学状態に移行して、最低エネルギー状態もしくはそれに近い状態になる
(7)量子ビットの向きを観察する

D-Wave社の量子アニーリングマシンにはRest APIが用意されており、PythonやCやMatlabからライブラリをインストールすることによって利用が可能となっています。

おわりに

今回は、次世代の計算機である量子コンピュータとその方式の一つである量子アニーリング、そして量子アニーリングを実現するD-Wave社についてご紹介致しました。D-Wave社の量子アニーリングマシンを用いれば、様々な組み合わせ最適化問題を解くことが出来ます。次回はD-Wave社の量子アニーリングマシンを用いたネットワーク経路最適化問題への適用例をご紹介いたします。

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執筆者プロフィール

知念 紀昭

ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス開発本部
第1応用技術部 第1チーム
所属

仮想化ハードウェア・ソフトウェアの評価・検証業務、クラウドソリューション業務などを経て、現在は機械学習ビジネスを担当している。

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