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ペーパーICT支援員の仮想教室 ~教育のDXとGIGAスクールテクノロジー編のアンサンブル~ 「教育のDX・・企業や自治体のDXと同じ」編 その2

ライター:阿部 豊彦
経歴:エンタープライズ系インフラの提案、設計、構築や、SDN提案、
工場IoTネットワークやセキュリティのコンサルなどを担当。
ファシリティ、インフラ、セキュリティなどボーダーレスです。
昨年末から文教フィールドへ参入。

目次

(その1)では、企業や自治体のDXと教育のDXは同じで、考え方や進め方など、DXの本質は「教育のDX」でも変わらない、と言いました。教育のDXは、これから試行錯誤しながら作っていく段階だと思います。まずは、変革の一歩手前のできることの「改善」でとどめ、将来DX(変革)していくことも、現状での選択肢と思います。「企業や自治体のDXと同じ」と言いましたが、DXに失敗する場合も全く同じとも考えられます。まずは、一歩改善へ踏み出すことです。

それでは、企業や自治体でDXを進めるにあたり、問題点としてあげられている点を「教育のDX」に照らし合わせながら、見ていきましょう。

過渡期の教育

教育は、明治23年(1890年)の教育勅語から130年以上変わらず、「生徒みんなが同じ教育を受ける」という環境を提供することが目標だったと思います。ですので生徒全員に同じ教育をして同じテストを行い、優劣を競うことが可能でした。つまり「教育の機会均等」を一斉学習(集合学習)で効率的に実現してきたんだろうと思います。

さらに深い学びのために、GIGAスクール構想による一人一台のPC配布によって、より個々の学習に寄り添った最適な学びを提供することが、問われていくことになるのでしょう。それぞれの子供たちに寄り添った個別最適な学びを実現するためには、今のままでは先生が足りません。特に先生の時間が全く足りない。つまり人手不足です。これは、民間企業と変わりません。そこで、DX、つまりデジタル変革の力を借りることになります。

多様な子供たちの(個性や)能力に応じた教育を提供すべきと「教育基本法(昭和22年、平成18年改訂)」に書かれています。おそらく文面の意味は、「試験に合格してより良い学校へ進学してください」ということだと思います。

これからは、教育のマスプロダクションを縮小し、この文面を「個別最適な学び」として読み替えていくことになるのかもしれません。

教育のDXを実現する要素「X」

DXの世界で考えると、先生はいち事業家です。生徒は、その事業家の提供するサービスを受ける側のユーザーとなります。教育のDXでは、教育手法を発展させるために、先生は常に学ぶ姿勢が必要となります。どんなICTサービスやアプリを、授業にどのように組み込めば集合教育を効率化でき、個別最適な学びを支援できるのか? を先生は考えることになります。常に考える必要があるのは、スマホなどと同じで、その手法は数年で陳腐化するかもしれないテクノロジーに依存するからです。(一方で、大学の教授に画期的な手法創造を任せるのは別ルートのアプローチですね。)

一般的にDXするには、意識改革やデザイン思考、最新技術知識などが必要とされ、とにかく「DX人材を育成せねば」・・と言われています。教育のDXもほぼ同じと考えます。教育のDXを含む一般的なDXを実現するために必要な改革を、「X」としてまとめてみました。これらの改革は自分自身であり、組織を変えるところから始まります。起承転結でいう事の起こり「起」にMX、CXが該当します。「起」が実現できないとDXが達成できませんので最も重要な「X」です。

 DXを実現するために必要かつ重要な「X」たち

MX 意識改革 身の回りから課題を抽出(日常の当たり前を見直す、この段階で技術知識は不要)

CX 文化制度改革 心理的安全の確保。課題や良い解決事例を先生の間でシェアする。新しいアイデアや手法を採り入れる。

TX 技術革新 課題を解決する新しい教育アプリを使いこなす。アプリに限らず作ることもあるかも。

SX 持続可能な改革 ESDでは「持続可能な社会の創り手を育む教育」。教育はSDGs17の目標の一つ。「質の高い教育をみんなに」が目標。

MX、CX、TX、SX

最初に、MXは意識改革です。現状のやり方に慣れどっぷり浸かってしまい、問題点を見失っている状態から脱却し、「やりたくないこと」、「無駄と思うこと」、「つらいこと」などを意識すること。この段階で解決への技術知識は不要です。他の人がやっていることも自分事化して感じられれば、さらにいいわけです。

次に、CXは文化や制度の改革です。一言でいえば「出る杭は磨かれる」です。変革するわけですから杭は飛び出してきます。その飛び出した杭を適切に評価できる制度と、「心理的安全」が必要となります。簡単にいえば出る杭は打たれない、出た杭は皆によって、よりよきものに昇華する。さらに言えば、出た分だけ評価される。そんなカルチャーが必要なんです。トンカチが頭の上にあっては、保身するしかありませんので。

MX、CXで重要な考え方として「デザイン思考」があります。デザイン思考は、先生の行動や心理と向き合ってよく観察する(自分事化)ことから始まる課題解決のプロセスです。お互いが安全だからこそ、全く異なる意見を交換しながらも、建設的に前に進め、結果として、新しいものを作り出せます。

心理的安全がないと、DXへの動きは制約されてしまいます。安全が保障されたうえで、多くの人と意見交換ができ、DXへの多様性がもたらされる。そんなCX、文化改革が必要とされています。いってみれば、「協働のDX」ですね。

そして、TXは技術革新です。最新のテクノロジーである人工知能(AI)や統計分析技術などを使って、教育の課題を解決しようとするICTサービスやアプリを利用することです。期待通りの成果を発揮できるか? は、あくまで使う先生次第なのはこれからも変わらないでしょう。Society 5.0で、「高度な技術を使うが、人間中心の社会」(内閣府)としたように。

MXもCXも、自分事であったり組織の問題であったりします。「個別最適な学び」や「協働の学び」を実現するための多くの技術(TX)は、技術を持つ教育系の民間会社から提供されると思います。そのTXを実現するサービスやアプリを授業の中でうまく組み込み、生徒を指導するのは先生ですので、それがどんな技術でどんなしくみなのかは、知っておくべきだと思います。

最後のX、SXは持続可能な社会の実現です。つまりサステナビリティは、DXするにも避けられないテーマとなってきています。スーパーシティをデジタルだけではなく、ゼロカーボンとデジタルを一体で考えないといけなくなったのと同様です。教育のDXでのSXは、EDS(持続可能な開発のための教育)で述べられているように、「持続可能な社会の創り手を育む教育(ESD)」をすることです。(もちろんICT(PCなど)を使うことでペーパーレス=ゼロカーボンがひとつ実現できます。)

なんでもDXできそうな・・ウソ

技術革新さえあれば、どんなこともDXできて、画期的な教育現場が完成するようなイメージを持たれるかもしれません。残念ながら現実は、すべての校務に変革がもたらされ、すべての授業が何かオートメイションのように進行して、個別の評価がアウトプットされるような世界は当分やってきません。一部の校務がテクノロジーによって変革されるだけです。(残念ながら、予算の都合もありますし。)依然としてリアルに「人が中心の新しい社会(教育)」ではあります

よく上げられる「教育のDX」への課題として2点あります。

① 生徒を見る時間が削られるほどの「先生の過剰業務、恒常的多忙」

② ICT環境を活用しきるための「先生のICTリテラシーの不足」

①、②ともかかわってくる「学びの革新」と「校務の革新」

①は、業務を見直し効率化するか、なくすしかありません。業務を見直し、デジタルで業務革新することで、時間を作ることになります。「先生の働き方改革」も効果があるとは思いますが、業務時間をへらすためには業務革新しかありません。

②は、PCなどのICT環境が整備され、それらを利用するためのリテラシーがないわけではなく、差が大きいということだと思います。結果として、同じことをしてもICT活用スキルに違いが出てしまう可能性があります。文部科学省の学習指導要領に、「情報活用能力が学習の基盤となる資質・能力」と位置付けられています。これを実現するには、先生にも「情報活用能力、情報モラル、情報セキュリティなどの知識」が必要となるはずです。

①は校務の効率化や変革を、デジタルの力で実現することになります。

②は実際に使って、どのように学びを確信していくか見ていただくしかありません。

EdTech

教育そのものが、デジタル化によってソフトウエア(アルゴリズム)や、機械学習、AIでの分析や最適化のようになりつつあるということは間違いのない事実です。ただ、多感であらゆる可能性がある子供たちを画一的には扱えないので、アルゴリズム化も大変でしょうし、AIでデータを学習しようにも過去にPCがなかったため、デジタルな学習記録というものがありません。したがって、これからデータをとり試行錯誤することになります。(「誤」には早く気が付きたいですね)

さて、EdTech(Education x Technology)はご存じの通り、教育の現場に、教育の校務にテクノロジーを導入することで変革(DX)をもたらすことです。つまり「教育のDX」そのものを実現するサービスやアプリのことです。

(その1)にも書きました「オンライン授業」もその一つです。ほかにもイーラーニングで、どこでもいつでも一定の学習ができ、LMS(学習管理システム、Learning Management Systemで教材配布や採点、結果の管理ができます。LINEなどのSNSで保護者との連絡も超スムーズ・・という具合に「教育現場の働き方や教え方改革」が可能になるでしょう。

三種類の学びの特性

オンライン授業やイーラーニングは「一斉学習」のイメージが強いですが、個別最適の学び「アダプティブラーニング」自主的な協働の学び「アクティブラーニング」を提供する、EdTechも今後どんどん出てくると思います。そうすることで、教育のDXが実現されることでしょう。

EdTechのもう一つの役割は、「収入や地域による教育格差の解消」です。一人一台のPCを使って、いつでもどこでも個人の能力や理解に合わせた学習を提供できるようになるためです。もちろん、提供されるEdTechサービスのでき次第ですが、保護者の塾へ通わせる経済力の違いや、地方であるが故の教育機会の少なさなど、PCがネットにつながることで、大きく解消されることでしょう。(期待してます。)

教育のDXで実現されるゴール

校務の効率化と変革

最後に先生の「働き方改革」です。効率(生産性)をあげるとか、持ち帰って家で仕事するという話が中心になりますが、こなすべき業務量は、ほとんど変わらないと思います。少し集中して取り掛かったくらいでは、必要な時間は変わらないはずです。

先生の校務として、宿題のプリントやその回収採点添削など授業に関すること、成績の集計、課外活動といわれる学校行事、部活動、給食指導、清掃指導や、父兄との連絡帳のやり取りや、給食費の徴収などの業務があると思います。このようなどちらかと言えば間接業務による先生の多忙状態を改善する必要があると言われています。

例えば、CBT(Computer Based Testing)での宿題に切り変えれば、採点は瞬時に完了しますし、不正解の統計出しや再学習を促すことも、自動的にできるようになるでしょう。また、連絡帳のような紙ベースのやり取り(押印もあるらしい)もSNSのような連絡手法に切り換えれば、ずっと効率化することでしょう。さらにネットを使った他校教師間のドキュメント類やICTの授業への取り込み方の共有も効果的です。給食費は公会計化も。また、EdTechを利用して授業を進めることで、課題に取り掛かる子供たちの姿をもっとたくさん見られることでしょう。

教育効果に直接関係のないすべての業務には、抜本的な変革を起こすべきである。とよく言われます。いわゆる間接業務からDXしていきましょう。まずは、身の回りのアナログな業務を探しだし、デジタルに置き換えることからスタートです。

日本を幸せにする教育のDX

単に、クラウドサービスを利用するのがDXではありません。そこで提供される教育サービス&コンテンツや学習の分析が、どのように生徒や先生に良い変化を与えるのか? が教育のDXの見どころです。まだ、発展途上な教育サービスが多いのかもしれませんが、個別最適な学びや協働の学びを支援し、収入や地域による教育格差の解消が進むことと思います。

ICT支援員がサポートする「デジタルな学習環境」
GIGAスクール構想によって、ICT支援員のサポートする領域は、PCやタブレットという範囲にとどまらず、一般企業のIT支援部門と同じくらい広くなったと思います。PCやタブレット、企業向けWi-Fi設備、クラウドを含むソフトウエア、セキュリティから情報モラルまで広範かつ重要な領域をサポートしていく必要があります。

ICT支援員は先生とともに、教育のDXを実現する最前線に位置しているわけで、こどもたちの学習環境と先生の校務環境という両面で「デジタルな学習環境」を支えていく必要があります。

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次回はロールプレイングゲームのように分岐します。

「見えないWi-Fiテクノロジー・・業務用無線LAN」編

「イントロ ICT支援員」編

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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