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米国企業のCIOたちが目指すITのビジネスプラットフォーム化

ライター:村上 丈文
国内外ITベンダーとの関係構築および商品・サービスの企画・開発とライフサイクル管理の責任部門をリード。

1998年3月横浜国立大学経済学部卒業。ユーザ系情報システム会社を経て、2001年5月 ネットワンシステムズ株式会社に入社。応用技術部にてネットワークエンジニアとして大手ベンダーやスタートアップの製品を担当した後、国際業界団体で標準化、コミュニティ活動に従事。その後、2012年4月より4年間Net One Systems USA, Inc.にて駐在員として新規商材の発掘、市場調査、顧客アテンドに従事。2016年4月より現職。2017年4月よりネットワンコネクト株式会社の経営会議メンバーを兼務。

CCIE R&S #8114
JNCIE-SP #125

目次

 2013年に米国東海岸の企業中心で立ち上げられたマルチクラウドのユーザグループONUG(ONUGについての解説はこちらの過去ブログへ)ですが、コロナの影響でこの一年はオンラインでの開催となっています。ネットワンシステムズは2017年よりワーキンググループ(以下、WG)に加入し、2019年までは現地で年2回カンファレンスへの参加を続けていました。ところが、コロナの影響でカンファレンス自体がオンライン化したため、昨年5月、昨年10月に引きつづき今回もオンラインでの参加となりました。
 オンライン化といっても悪いことばかりではありません。いくつかのセッションでは事前に録画を行っていることもあり、開催後すぐにアーカイブを見ることができます。また、距離に制約がないため参加者が激増しており、ONUGコミュニティとしてもより多くのユーザにリーチしやすくなっています。イベントの開催用のプラットフォームには昨年大きく成長したHopinを利用しており、様々なセッションの内容をほかの人のコメントを参考にしながら見ることもできるなど、難しい内容でも格段にキャッチアップしやすくなっていると言えるでしょう。

今回のONUGでの議論を下記のポイントでまとめ、本記事より4つの連載記事でご紹介していきます。

1.米国企業のCIOたちが目指すITのビジネスプラットフォーム化 ※本記事
2.クラウドはOperationalizeのフェーズへ
3.クラウドのOperationalizeに向けたONUGのアプローチ
4.Elastic Infrastructure - ネットワンの取り組み

コロナ禍で重要性が高まるビジネスプラットフォームとしてのIT

 ONUGカンファレンスでは毎回、大企業における取り組みや経験が共有されますが、今回もモルガンスタンレー社のSigal Zarmi氏がビジネスプラットフォームとしてのITの活用の例を紹介していました。モルガンスタンレーでは2020年の3月には従業員の90%以上をリモートワークに移し、ビデオ会議、チャット、ドキュメント共有などはクラウドサービスを活用して行われています。また、顧客向けサービスのオンライン提供も拡充しています。単純に既存のベンダーのツールを業務に適用するだけでなく、デジタル化を通じたプロセスの効率化も実施しています。資産管理サービス向けの電子署名ソリューション展開などはその一例です。American Bankerの記事"Morgan Stanley's transformation chief pushes cloud tech, diversity"の中でSigal Zarmi氏がこれらの取り組みについて言及しています。
 ソリューションが導入された結果だけを見るとそんなに難しくないことのように見えますが、実際には既存のビジネスなどのデジタル化を行う場合には導入のリスクを正しく見積もった上で、既存のIT資産も含めて統合的に管理する必要があります。特に金融やヘルスケア、製造のような既存市場における大企業はデータ流出などテクノロジーによる負の側面への配慮に加え、様々な規制やコンプライアンスへの対応も必要となります。そのため利便性のためにコントロールを犠牲にすることは許されず、このバランスを取ることが求められます。また、単純なツール導入ではなくプロセスの変革を求めるような場合、ビジネス側の参画が必須となります。
 対面のチャネルが利用できないといった制限が生まれた今回のようなケースでは「できない」を「できる」に変える話なので効果も体感しやすく、ビジネス部門にとっても導入の意義が明確です。また、CEOがトップダウンで進めるような施策も比較的容易に進めることができるケースです。が、本当にITをビジネスプラットフォームとして活用していくためにはより現場に近いレベルでIT部門とビジネス部門が協調して動くことが求められます。例えば、RPAやAI、自動化といったキーワードが出てきていますが、このテクノロジーを活用方法やビジネスバリュー、そしてリスクをIT部門とビジネス部門が双方で理解することが必要になります。

(画像:ONUG Spring 2021より)
Source: Enterprise Cloud: Getting Ready for Scale and Flexibility @ONUG Spring2021
https://onug.net/events/operationalizing-flexible-it-business-platforms-at-scale/

 今回のONUGにおける議論で面白かったのは、Business Buy In、つまりビジネス部門がITのイニシアチブへ賛同するという表現をしながらも、ビジネスパーソンがテクノロジースキルを身に着ける必要性に言及していた点でした。これからのITはビジネスへの影響がより大きく、より早く出てくることになります。新たな規制への対応としてのデータの管理もより厳格に求められることになります。これらはもはやビジネスコンポーネントの一つとなっていくため、ビジネス部門においても自動化をはじめとしたテクノロジースタックに関するスキルが必要となり、これが2年から3年後には大企業における組織の在り方をも変えていく、とのことです。
 新たなテクノロジーは次から次へと出てきますが、ITに携わる人間はやはりこの変化するテクノロジースタックを抑えるということを常に意識した方がよさそうです。本当にIT業界では勉強する内容に事欠かないですね。
 次の記事ではその中でも変化の激しいクラウドに関連してONUGでも言及され始めている、クラウドのOperationalizeというキーワードについて解説したいと思います。

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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