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NEXT GIGA(スマートスクール)へ ~ スムーズなクラウド利用をはばむものは?  ~その1

ライター:阿部 豊彦
経歴:エンタープライズ系インフラの提案、設計、構築や、SDN提案、
工場IoTネットワークやセキュリティのコンサルなどを担当。
ファシリティ、インフラ、セキュリティなどボーダーレスです。
昨年末から文教フィールドへ参入。

目次

はじめに

GIGAスクール構想(Global and Innovation Gateway for All)は、201912月に文部科学省から発表され、小学校の児童、中学校の生徒1人に1PCと、全国の学校に高速大容量の通信ネットワークを整備し、多様な子どもたちに最適化された創造性を育む教育を実現する構想です。

当初3年計画で学習用端末(PC)を導入する予定でしたが、本年度(令和2年度)中にすべてを導入することになり、インターネットやクラウド利用への年度ごとのスムーズな移行が難しくなりました。また、全国には小中高、特別支援学校あわせて約35,000校あり、約1,300万人の生徒が順次インターネットに接続することになります。

また、1025日に文部科学省は、デジタル教科書を希望した教育委員会などに小学生(5,6年生)は1教科分、中学生は2教科分の全額を国が負担し、令和3年度予算の概算要求に関連経費50億円を盛り込むと発表しました。

さて、「スムーズなクラウド利用」をはばむものとして、やはり「遅い!」が思い浮かびます。そして当然インターネットアクセスですので「安全か?」も気になる点です。つまり、問題(ボトルネック)になりそうな点は、いわゆる「通信速度(通信帯域)」と「セキュリティ」でしょう。

その1 通信速度(通信帯域)(Wi-Fi(無線LAN)区間、有線LAN区間)
その2 通信速度(通信帯域)(外部回線の利用)編
その3 通信速度(通信帯域)(デジタル教材と学校サーバ)編
その4 セキュリティ(Wi-Fi(無線LAN)区間)編
その5 セキュリティ(有線LAN区間、外部回線の利用、テレラーニング)編

の5部に分けて考えていきます。

その1 通信速度(通信帯域)(Wi-Fi(無線LAN)区間、有線LAN区間)

GIGAスクール構想にかかれている「高速大容量の通信ネットワークを整備」、つまり

インターネット回線 = 学校外部接続通信回線 = 外部回線

に注目することが多いのですが、トータルに学校内ネットワークがスムーズなものであるか?も含めて考えていきます。

多くの学校で「インターネットが遅い」という声を以前からたくさん聞くわけですが、本当のボトルネックはどこでしょうか? 検討すべき部位は、実は多岐におよびます!

   図38.png

通信のボトルネックが発生すると考えられる部位()

① 通信速度 Wi-Fi(無線LAN)区間

■規格の問題

はっきり言うと、Wi-Fiの規格が最新の規格であるか、それ以前の古い規格か?で明暗を分ける可能性が高いです。無線通信を束ねるアクセスポイント(無線親機、AP)が提供できる通信速度(通信帯域)が大きく異なります。この最新の規格(Wi-Fi6IEEE802.11ax)を使うには、アクセスポイントとPCの両方がこの規格に対応する必要があります。(スマホのWi-Fiも同じですね。)

 

最新Wi-Fi6で通信するためには、APとPC双方の対応が必要

条件によっては、倍近く通信速度がかわるため、生徒のクラウド通信待ち時間が全く異なることになります。結果として先生の授業運営にも大きな影響が出ると思われます。「②有線LAN区間」の話にも影響します。

(弊社では、様々なメーカのアクセスポイントを用意して、PC40台と通信させ新旧規格でどのような違いがあるか評価しています。)

教室毎のWi-Fi AP最大データ速度例
(チャネルボンディングは不使用、2ストリームはPC側も対応する必要あり)



■意外と低速なWi-Fi通信

何でGbpsじゃないの?意外に低速じゃない?と思われるかもしれませんが、AP側ではなく、PC側が通信性能を限定しています。PCに搭載しているWi-Fi Chipが、送受信できる能力を決めています。現実はさらに、AP側でより安定的に通信できるように低速な通信なるように設定する場合があります。多くても「実効値例 ~150Mbps」が現実で、これを教室40人で分け合って授業を受けることになります。


■設計・設定の問題

Wi-Fiには通信速度を左右するチャネル設計やチャネルボンディングなど専門的な設定が多くあります。通信速度が増す設定もありますが、安定性とトレードオフな場合が多いため、経験とノウハウが必要となります。

・チャネルボンディング
・チャネル設計
・GI
・データレート無効化
・電力調整
・SSIDとVLAN設計
などなど

図2.png

■現実の教室

教室のアクセスポイントに、クラス以上の人数のPCがつながることがあります。なぜ、このようなことが起きるか?PCを稼働させたまま、廊下を歩いたりすると、アクセスポイントを最初に捕まえに行くタイミング(?)によって、期待しないアクセスポイントに接続する(接続したまま)になるからです。たくさんつながればつながるほど生徒一人当たりの通信速度は低下しますし、隣の教室からつながっているPCはより低速にしか通信できません。これを改善するには該当PCのWi-Fi再接続操作が必要です。また、アクセスポイントごとの接続PC数を均等にする機能があったりしますが、クラスごとに人数が違いますので、逆効果になるかもしれません。

図8.png

② 通信速度 有線LAN区間

有線区間、つまりスイッチやUTPケーブルで構成するから何の問題もないのでは?という漠然としたイメージが多いところですが、問題を抱え込んでいても気が付かないネットワーク区間かもしれません。

■オーバーサブスクリプション

最近はやりのサブスク(期間利用権)ではありません。通信の多重集約的な意味になります。アクセスポイントを接続した1GbpsUTPケーブルが、通信を集約する「フロアスイッチ」にたくさん接続されることでしょう。一見アクセスポイントからの通信はたかが数百Mbpsなので問題なさそうです。ただし、10台以上のアクセスポイントを接続すると、最大数Gbpsの通信となり、上位の「基幹スイッチ」に1GbpsUTPケーブル一本では不足となります。

PCからほそぼそやっと届いた無線通信データが、有線区間で詰まり上位ネットワークにスムーズに渡せなくなることです。逆向きの通信も同様に考えられます。

一般的な事務所では、朝9:00の始業時を除けばまとまった通信は発生しないため、このような設計で問題ありません。ところが、教室では毎時限ごとに通信がまとまって発生する可能性があります。クラス単位では、一斉に同じ操作をすることも十分あり得ます。従来は、あまり気にしないオーバーサブスクリプションかもしれませんが、トラブルシュートを簡略化する意味でも、良好な通信パスとしておくに越したことはありません。

   

 

■リンクアグリゲーション

スイッチ間や、スイッチとルータをつなぐ複数の配線を束ねて、一つの論理的な回線として扱う方式。2本束ねることで、論理的に2Gbpsの通信量を扱えます。実質的に1本の配線断やポート不良に対応する耐障害機能と扱うこともできます。主に、スイッチ間で通信プロトコル(通信規約)LACP((Link Aggregation Control Protocol)を使って複数の配線を束ねて使います。

 
 図19.png

■イーサネットケーブル カテゴリ6A

文部科学省の「GIGAスクール構想の実現標準仕様書」に従い、スイッチ間などの基幹部分は原則 10Gbps で接続可能な Cat6AAugmented Cat6)規格以上のケーブルを敷設されていると思います。ただ、このケーブルを敷設してもスイッチの仕様上、1Gbpsで通信していることが多いと思います。この場合は、スイッチをアップグレードすれば、ケーブルはそのままに10Gbpsの速度で通信でき、リンクアグリゲーションなしでオーバーサブスクリプションを避けられます。

 

■なぜ、こんな話をしているか

なぜ、こんな話をしているかというと、何らかの学校サーバが引き続き残るまたは新たに導入されるべきと考えるからです。(学校サーバについては、「その3」で説明します。)学校サーバへのアクセスはスムーズが一番です。せっかくWi-Fiが全力で通した通信をサーバまでの有線ネットワークがスムーズに通せないのは問題です。

もう一つ、外部回線を学校個別接続構成(ローカルブレークアウト)にしたときの負荷分散時にも役に立つからです。(LBOの負荷分散については、「その2」で)

その2 通信速度(通信帯域)(外部回線の利用)編へつづく

※本記事の内容は執筆者個人の見解であり、所属する組織の見解を代表するものではありません。

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