クラウド導入で楽になるはずのシステム運用が逆にキツくなってしまったのはなぜ? ~ネットワーク運用効率化のヒント【前編】

クラウド導入で
楽になるはずのシステム運用が
逆にキツくなってしまったのはなぜ?


ネットワーク運用効率化のヒント【前編】

ここ数年ほどの間で、「デジタルトランスフォーメーション (DX)」という言葉がにわかに注目を集めるようになりました。DXはITの活用が大前提ですが、日々の運用に手一杯のIT部門の視点から見れば、実現が難しいのが現実です。いま、IT部門が直面している課題とはどのようなものでしょうか。

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ビジネス分野で急速に普及するクラウドサービス

ここ5、6年の間で、ITシステムの提供や利用の形態はすっかり様変わりしました。かつてのITの利用イメージは、ソフトウェアをPCやサーバにインストールし、端末からアプリケーションの画面にアクセスしてキーボードやマウスを使って操作するというものでした。

しかし近年のスマートフォンとクラウドサービスの爆発的な普及を背景に、ユーザーはスマートフォンを通じてネットワークの向こう側にあるクラウドサービスと接続し、その機能をリモートで利用することが当たり前になりました。今や大抵のことはスマートフォンとクラウドサービスで十分まかなえるようになったため、若い人たちの間では「もはやPCは不要」との声まで聞こえるようになってきました。

こうした傾向は一般消費者向けのサービスのみならず、企業が利用する業務システムにおいても年々顕著になってきています。かつて企業システムと言えば、メインフレームやサーバなどの大型コンピュータ上にアプリケーションをインストール・設定し、PC端末から社内ネットワークを通じてアクセス・利用するのが一般的でした。無論、現在でもこうした形態が主流ではありますが、ビジネスアプリケーションの世界でもクラウドサービスが急速に普及しつつあります。

たとえば、いち早くビジネスアプリケーションの世界で認知されたクラウドサービスの1つに「Salesforce.com」があります。SFA(営業支援)やCRM(顧客管理)のシステムをクラウドサービスとして提供するSalesforceは、瞬く間に世界中でユーザーを獲得し、現在ではSFAやCRMのデファクトスタンダートとしての地位を築き上げています。

グループウェアや文書管理といったビジネスアプリケーションの分野も、早くからクラウド化が進んできました。特にここ数年の間で、Microsoftの「Office 365」や Googleの「G Suite」といった、各種ビジネスアプリケーションをパッケージ化してユーザーに提供するクラウドベースのグループウェアソリューションが急速に普及しました。特にOffice 365の普及の勢いには、目覚ましいものがあります。

さらに、これまではどちらかと言うと情報系システムやビジネスアプリケーションの分野を中心に普及が進んできたクラウドですが、近年では財務会計や人事、在庫管理といった基幹系システムをクラウドサービスとして利用する動きも活発化してきました。今では多くの企業が、システムの導入を検討する際に、まずはクラウド利用を真っ先に検討する「クラウド・ファースト」の方針を打ち出すようになってきました。

クラウド利用の拡大により生まれる、ネットワーク管理の新たな課題

ビジネスの現場にクラウドサービスを導入することによって、現場ユーザーとIT部門の双方がさまざまなメリットを享受できるようになります。クラウドサービスは自社でソフトウェアを開発したり、ハードウェアの調達や評価、設定を行う必要がないため、オンプレミスのシステムと比べるとはるかに短期間かつ低コストで利用を始められます。そのためユーザーにとっては、現場のニーズに即したシステムを素早く低コストで調達できるメリットがあります。

また、システムの運用管理を担うIT部門にとっても、クラウドサービスはサーバやストレージといったハードウェアやOperating System(OS)、ミドルウェアなどのインフラをクラウドベンダーが運用してくれるため、日々のシステム運用に掛かる手間やコストを削減できるメリットがあります。ただし、この点については注意が必要です。確かにクラウドの利用によって削減できる運用コストはありますが、逆にクラウド導入によって増えてしまう手間やコストもあるのです。もし後者が前者を上回ってしまった場合は、むしろクラウド導入によって運用の手間やコストが増えてしまうことにもなりかねません。

特に注意すべきなのが、ネットワークインフラの運用に掛かる工数です。かつて、オンプレミスだけで社内システムが完結していたころは、社内ネットワークのトラフィックにのみ注目して適切にネットワークを設計すれば問題ありませんでした。しかし、クラウドサービスの利用が増えてくると、社内ネットワークとインターネットとの間を結ぶ通信経路についても気を配る必要が出てきます。

しかも、クラウドサービスの仕様はブラックボックス化されていますから、どのようなネットワークトラフィックが発生するのか、なかなか読めない部分があります。事実、Office 365は極めて多くの通信セッションを必要とするため、内部ネットワークとインターネットとの間に設置するゲートウェイやプロキシに大きな負荷を与えることが知られています。

このように、クラウド利用の拡大によって新たに持ち上がってきたネットワーク管理の課題に対処するためには、当然のことながら人手やコストが掛かります。しかし残念ながら、多くの企業がクラウド導入に際してこうした追加投資の必要性を認識していなかったばかりに、現在ネットワーク管理の現場にはさまざまなしわ寄せが来ています。

来のネットワークインフラを安定的に運用しつつ、かつクラウド導入に伴い新たに発生した課題にも対応しなければならない。しかも人員も予算も増えないため、長時間労働によって何とかぎりぎりのところで踏みとどまっているというのが、多くの企業におけるネットワーク管理の実情ではないでしょうか。

サイロ化するシステムがIT運用を一層複雑に

こうした課題に対処していくためには、既存システムの運用管理に掛かる工数をなるべく減らし、新たにクラウド関連の仕事に回せる人手と予算を確保する必要があります。しかし既存システムにも、なかなか人手やコストを減らせない事情があります。

システムの「サイロ化」は、その最たるものの1つです。日本企業のシステム導入は海外企業とは異なり、「システムを既存業務に合わせる」という形で進められました。従って、ほとんどの業務システムは既存業務をそっくりそのままシステム化する方針で構築されてきました。

システム導入は、本来はさまざまな業務を横断して、なるべく広範な業務領域に渡ってシステムを適用することで、より自動化や効率化の効果を発揮できます。しかし業務現場の発言権が強い日本企業では、業務ごとに個別に最適化されたシステムがばらばらに作られ、サイロ化されたシステムが社内に数多く林立するという状況が生まれています。

それぞれのシステムは、全く異なる独自のインフラとアーキテクチャに基づき作られていますから、日々の運用作業もそれぞれに適した方法で行う必要があります。つまりシステムの数だけ運用手順があり、それらを日々こなしていかなくてはならないのです。当然のことながら、そのためには多くの人手と予算が必要になります。日本企業は海外企業と比べ、IT予算全体の中に占める「既存システムの運用コスト」の割合が高いと言われていますが、その背景にはこうした事情もあるものと思われます。

こうした傾向は、特に早くからシステム導入に積極的に取り組んできた企業ほど顕著に表れるようです。金融機関などは、その代表例と言えるでしょう。各業務を横断した全体最適の視点に立ってインフラやシステムを設計できれば、単一の運用手順で社内のすべてのシステムをまとめて管理できるのですが、システムを部分最適の方針に従って導入してきたために、もはや「標準化は理想だが現実的には手に負えない」とあきらめざるを得ず、これらのシステムの運用に掛かる人手やコストをうかつに削れない状況に陥ってしまったのです。

絶えることがないITコスト削減のプレッシャー

業界によっては、IT予算を増やすどころか、逆に削減の方向性を打ち出す企業も少なくありません。たとえば金融業界では、ゼロ金利政策が長らく続いた余波で本業の利益が圧迫され、多くの金融機関がコスト削減策を打ち出しています。ITも例外ではなく、大幅なITコスト削減の指示が経営層からIT部門に降りてきていると言います。

こうした状況下で、新たなIT施策のための予算を確保するためには、これまでより明確にROI(投資対効果)を示すことが求められてきます。たとえそれまで、前年実績に基づいてほぼ自動的に獲得できた予算であっても、近年ではROIを示せないものは容赦なくコスト削減の対象とされることもあるようです。

その一方で、デジタルトランスフォーメーション (DX) をはじめとした、ITを使った新たな取り組みの重要性も叫ばれています。IT部門の現場にも、上層部からの「うちもDXに取り組むぞ」「AIやIoTを使って何か新しいことはできないのか?」といった声が多く届くようになりましたが、こうした新たな取り組みに着手しようにも、先立つものがなければ何も始まりません。「新しいことを考えろ」と突かれ、その一方で「コストを削減しろ」とプレッシャーを与えられる。この板挟みの中で、多くの企業のIT担当者が頭を悩ませています

こうした閉塞(へいそく)状況を打破するソリューションとは、どのようなものでしょうか。「コスト削減」と言っても一概に人を減らせばいいということではなく、運用の効率化と最適化が求められます。

さて、現在多くの企業のIT部門では、クラウド ファーストによるネットワーク管理の増大やサイロ化する社内システム複雑化など、作業負担が増加する一方であるにもかかわらず、主に人件費からコスト削減を迫られる状況であることが見えてきました。後編ではこれらの課題解決のためには具体的にどうすべきなのか、何から着手すべきなのか考察を進めていきます。

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