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無線LANの通信品質を「ありのままに・・・」で放置しない、改善する "Cisco ClientLink"~シスコシステムズ社製無線LANアクセスポイントにおける送信ビームフォーミング "Cisco ClientLink" のすごさ!を実験で知る~

匠コラム
ネットワーク

ビジネス推進本部 応用技術部
エンタープライズSDNチーム
松戸 孝

本コラムでは、シスコシステムズ社製集中制御型無線LANアクセスポイントに実装された送信ビームフォーミングであるCisco ClientLink(以下ClientLinkと記載します)による下り回線の通信品質の改善性能を一般的な事務所のフロア環境において実験的に確認した結果の概要について述べています。

ClientLinkは無線LANクライアント端末(IEEE802.11g、11a、11n、及び11acに対応)に特別な仕組みを不要とする手軽さと通信品質の改善効果を明確に持つので、あらゆる無線LANの利活用の場面でより信頼性の向上した無線LANの実現に貢献できます。

(1)ClientLinkとは?

ClientLinkとは、シスコシステムズ社製集中制御型無線LANアクセスポイント(以下APと記載します)に実装されている無線LANクライアント端末(以下CLと記載します)への下り回線の通信品質を改善する機能です。無線LAN通信は、APとCL間における電波による交信によって成立しますが、APやCLが直面する無線LAN電波の現実は、過酷な状況です。

その理由は、APとCL間で電波が伝わるときに、直接波に複数の異なる経路(マルチパス)を伝わった反射波が重なることによって、電波の振幅(強さ)や位相(時間的なズレ)が変動(フェージング)状態となり、その変動状態(マルチパスフェージング状態)の電波をAPやCLで受信する状況になるからです[1]。このマルチパスフェージング状態では、無線LAN通信が不確実で反応が悪い状況になってしまい、最悪の場合に通信断もあり得ます。

そこで、マルチパスフェージング対策として、IEEE802.11n規約時代以降のシスコシステムズ社製APには、APでCLからの電波を安定して確実に受信するために、つまり、上り回線の通信品質を改善するために、「最大比合成(Maximal Ratio Combining: MRC)ダイバーシチ受信」という技術を実装しており、筆者らは、その改善効果を実験で確認しました[2]。

そうすると、今度は、APからCLへ電波を安定して確実に送信するために、つまり、下り回線の通信品質を改善する技術が期待されますが、その技術が、ClientLinkです。ClientLinkは、APからCL(IEEE802.11g、11a、11n、及び11acに対応)向けの下り回線における通信品質を「ありのままに・・・」で放置しないで、改善します。図1では、ClientLinkによる改善効果を、直感的に示しています。

同図の(a)は、APにClientLink機能が「ない」ときのAPからCLへの下り回線の電波の伝わり方の状況のイメージです。電波の伝わり方は、上述したマルチパスフェージング状態になっていて、APからCLへ到来した電波は、直接波と複数の反射波が「ごちゃまぜ、テキトーな乱雑状態」です。従って、下り回線の通信品質は、良いときも悪いときもあり、悪いときも何も対策がされずに、「ありのままに・・・」の状態です。

図1. 直感的にとらえたClientLinkによる改善効果のイメージ
(a) APにClientLink機能が「ない」場合の状況

一方、同図の(b)は、APにClientLink機能が「ある」ときのAPからCLへの下り回線の電波の伝わり方の状況のイメージです。APは、上述したマルチパスフェージング状態を理解して、APからCLへ到来する電波について、直接波と複数の反射波を「整えられたスッキリ状態」にすることができます。従って、下り回線の通信品質が悪くなる状況は極力回避されて、通信品質が改善・良好の状態になります。

図1. 直感的にとらえたClientLinkによる改善効果のイメージ
(b) APにClientLink機能が「ある」場合の状況

(2)ClientLinkの特長

ClientLinkは、シスコシステムズ社独自機能ですが、IEEE802.11規約に準拠しつつ、高度な独自技術が創意工夫してAPに実装されています。従って、CL(IEEE802.11g、11a、11n、及び11acに対応)に特別な仕組み(ハードウエアとソフトウエア)は不要なので、シスコシステムズ社製集中制御型APを導入すれば設定不要で動作します。

(3)ClientLinkの動作原理の概要

シスコシステムズ社の公開資料[3]から、ClientLinkの動作原理の概要は次のように理解できます。ClientLinkは、APが通信の相手方である特定のCLの場所に対してピンポイントで通信品質を高める技術です。APが複数のアンテナから送信する信号に 前処理(振幅や位相の調整)を行う技術です。この技術は、送信ビームフォーミングと呼ばれる技術になります。

一般的な送信ビームフォーミングの場合には、APに加えてCLにも特別な仕組み(ハードウエアとソフトウエア)が必要になるので、現時点では、一般的な送信ビームフォーミングは、IEEE802.11ac規約(オプション)に対応したAPとCL間の通信でしか実現されていません。

一方、シスコシステムズ社独自機能であるClientLinkという送信ビームフォーミングは、APとCL間における通信の上下回線は同じ周波数チャネルを使うというIEEE802.11規約の無線LANの基本的な特徴をうまく利用した技術です。ClientLinkは、APでのCLからの上り回線における最大比合成ダイバーシチ受信の動作の中で自然に得られた情報(APが複数のアンテナで受信したCLからの電波の振幅や位相の状況)を、APからCLへの下り回線における送信時に利用することで、実現されていると理解できます。

ClientLinkが実現する送信ビームフォーミングは、すべてAP側で対処する動作になるので、CLに特別な仕組み(ハードウエアとソフトウエア)は不要となって、IEEE802.11g、11a、11n、及び11acに対応したCLで、ClientLinkによる改善効果が得られます。

(4)実験で確認したClientLinkによる改善効果の例、その1

図2は、5GHz帯の無線LANを使った屋内の事務所環境で実施した実験で得られたClientLinkによる改善効果の一例です[4]。なお、実験で利用したAPは、シスコシステムズ社製の11n対応のCAP3602E(送受信アンテナ数は最大で4本)ですが、その対応時点のVersionとしてCisco ClientLink2.0を実装していると表現されています。

APから離れた地点にあるCL(11a対応の無線LANモジュールが内蔵されたノート型PC)がAPに近づく状況において、図2ではCLで受信したAPからの電波の受信電力を縦軸に、APとCL間の距離を横軸にして、示しています。CAP3602EにおけるClientLinkなし送信の場合が点線で、同あり送信の場合が実線で示されています。

CAP3602EのClientLinkあり送信(実線)は、同なし送信(点線)よりも、CL(11a対応)での受信電力を測定経路の概ね全般において増加させることができていることがわかります。なお、CAP3602EのClientLinkあり送信(実線)と、同なし送信(点線)の両方の場合で、 CAP3602Eの送信電力値は同じ値に設定されているので、上述の結果は、CAP3602EのClientLinkによる下り回線におけるCLへの受信電力の改善効果(より確実な通信へ改善)であると理解できます。

図2. 実験で確認したClientLinkによる改善効果の例、その1
CL(11a対応)での受信電力の距離特性

(5)実験で確認したClientLinkによる改善効果の例、その2

IEEE802.11規約における無線LANでは、APからCLへ送信したデータのフレームが、例えば、マルチパスフェージング等による悪影響によって、CLで受信できていない場合には、APからCLへそのデータのフレームを再送信する仕組みになっています。反応良く、より快適な通信をするためには、APがデータのフレームを再送信する回数は極力少なくなることが望まれます。

図3は、5GHz帯の無線LANを使った屋内の事務所環境で実施した実験で得られたAP(CAP3602E)からCL(11n対応)への下り回線における再送信回数の結果です[4]。CAP3602Eの送信アンテナ数が2本、3本、及び4本と異なる状況の場合において実験した結果です。

CAP3602EにおけるClientLinkなし送信の場合が灰色の棒グラフで、同あり送信の場合が黒色の棒グラフで示されています。ClientLinkなし送信の場合も、同あり送信の場合も、同じ測定経路で実験しています。すべての送信アンテナ数において、ClientLinkなし送信の場合より、同あり送信の場合のほうがCL(11n対応)への下り回線における再送信回数が減少しており、送信アンテナ数2本では約0.8倍に、同3本では約0.5倍に、及び、同4本では約0.3倍に各減少していることがわかります。CAP3602EのClientLinkは、下り回線におけるCLへの再送信回数を減少させる改善効果(より快適な通信へ改善)があると理解できます。

図3. 実験で確認したClientLinkによる改善効果の例、その2
CL(11n対応)への再送信回数の頻度分布

まとめ

シスコシステムズ社製集中制御型APに実装されたClientLinkが実現する送信ビームフォーミングは、すべてAP側で対処する動作になり、また、CL(IEEE802.11g、11a、11n、及び11acに対応)に特別な仕組み(ハードウエアとソフトウエア)は不要となるので、手軽に導入できます。

そして11aと11nのCLを利用した実験結果では、ClientLinkは、APからCL向けの下り回線の通信品質を明確に改善することを確認できました。ClientLinkは、CLの種類が多様になっている企業ネットワークばかりでなく、あらゆる無線LANの利活用の場面で、より信頼性の向上した無線LANの実現に貢献できます。なお、筆者によるClientLinkの実験的検討の試行錯誤の詳細は、関連記事[4]をご参照くだされば幸いです。

関連記事

参照 Mar.8, 2017.

参照 Mar.8, 2017.

参照 Mar.8, 2017.

[4]松戸孝、"「無線LANアクセスポイントにおける送信ビームフォーミングCisco ClientLinkの性能の実験的検討」-より信頼性の向上した無線LANの実現を目指して-"(第2回 シスコテクノロジー論文コンテスト特別賞受賞論文 ネットワンシステムズ社員執筆記事)

参照 Mar.8, 2017.

執筆者プロフィール

松戸 孝

ネットワンシステムズ株式会社 ビジネス推進本部
応用技術部 エンタープライズSDNチーム所属

無線LANの製品担当SEとして製品や技術の調査、検証評価、技術者の育成、及び、提案や導入を支援する業務に従事

  • 第一級無線技術士
  • 第1回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 最優秀賞
  • 第2回 シスコ テクノロジー論文コンテスト 特別賞
  • 第3回 シスコ 論文コンテスト 特別功労賞

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